第28話 光の加護

 クエストを受注した後、僕は肝心なことを知らないことに気づく。


「そういえば……ゴーレムってどこにいるんだっけ?」


「知らないで受注してたの!? ゴーレムはね、ダンジョンの15層より下にいるんだよ!」


 15層……となると、今までの限界だった5層よりもさらに下にいるモンスターにも出会えるな。

 さらなるパワーアップのためにも、いろいろなモンスターのカードを集めることは重要だ。


 僕たちはさっそくダンジョンに向かい、いつものように攻略を始める。



「レシオ、そっち行ったよ!」


 フィーテの声がした方から向かってきたのは、大きなクモのモンスター。

 カサカサと音を立てて向かってくる群れを、僕は迎え撃つ。


「キィーッッ!!」


 力強く剣を振るうと、斬撃であっさりと蜘蛛の頭部が吹き飛ぶ。

 断末魔から数秒、足元にはカードが散らばる。僕はそれを慣れた手つきで拾い上げた。


「ポイズンスパイダーのカードが3枚、か」


「ねえねえ効果はー?」


 ダンジョンの12層。ここに至るまで、僕たちはかなりいいペースでカードを集めていた。

 最初はゴーレム目当てだったけど、これは収穫だったな。手札は多いに越したことがない。


――


ロック鳥 レア度:ノーマル (10)

①ロック鳥を1体召喚する。

②『ピックシーフ』……相手のアイテムを低確率で奪うことができる。

③素早さステータスを強化する。(0/10)


――


――


キラーラビット レア度:ノーマル (10)

①キラーラビットを1体召喚する。

②『2段ジャンプ』……空中に見えない足場を一度だけ生成する。

③素早さステータスを強化する。(0/10)


――


――


ポイズンスパイダー レア度:ノーマル (10)

①ポイズンスパイダーを1体召喚する。

②『粘着の糸』……物と物をくっつける糸を放つ。

③防御ステータスを強化する。(0/10)


――


 主なところだとこんな感じか。どれも地味ではあるけど便利な能力だ。


「カードもだいぶ集まってきたねー。これは新しいコンボを考える手も進めないとね」


「そういえば……今朝ステータスを確認したら、新しい能力が追加されていたんだ」


 〈光の加護〉。何の前触れもなしに突然現れたその能力を、僕は全く理解できなかった。

 どうやらフィーテもそれは同じようで、しばらく唸った後、口を開く。


「要するに、召喚したモンスターに何か効果が付与されるってことでしょ? とりあえず召喚してみたら?」


 かなり適当なアドバイス……とはいえ、こういうときのフィーテの意見は的を得ていることが多い。


 ひとまず、僕はスライムを召喚してみることにした。


「可愛いー!スライムって敵のときはなんとも思わないけど、味方になって改めて見るとペットみたいだよね!」


 さて、これで何か起こってくれたら嬉しいんだけど……。


「……何も起こらないね」


「だね。見当はずれだったのかな? 来るべき時が来たらわかるとか?」


 諦めようとしたとき、スライムが何かをひらめいたように目を開き、たったと走り出してしまった。


「どこに行くんだろう? 追いかけてみようよ!」


 フィーテと一緒にスライムの後についていくと――目に飛び込んできたのは、驚くべき光景だった。


「キュキュキュッ!」


「ギーッ!」


 なんと、スライムがキラーラビットと戦っているのだ。

 スライムは同じくらいの大きさのウサギに体当たりをし、必死に相手を打ち負かそうとしている。


「なあ、スライムってあんな風に戦うものだっけ?」


「ううん、ありえないよ! それに、スライムはモンスターの中でも最弱だよ!」


 そうだ。ここは12層。キラーラビットだって弱いモンスターじゃない。草原エリアのモンスターが勝てるわけがないんだ。


「今助けるからな! スライム!」


 僕はすぐにキラーラビットを倒すと、ボロボロになりながら戦ったスライムを抱え上げる。


「いったいどうしたんだ……? いきなり走り出して戦うなんて……」


「わかったよレシオ! これが<光の加護>だよ!」


 フィーテは合点がいったというように手を打つと、スライムを指さした。


「<光の加護>っていうのは、きっとレシオの力がモンスターに反映されるってことなんだ!」


「僕のレベルが上がると、召喚したモンスターも強くなる……ってこと?」


「そう。レシオが太陽で、モンスターがその光に照らされてるみたいな感じでね。そういうことなら説明がつくよ!」


 なるほど、確かに彼女の言うことが正しそうだ。


 彼女の名推理を褒めようとしたその時、フィーテが少し悲しそうな表情をしたことに気が付いた。


「どうした、フィーテ?」


「いや、大したことじゃないよ。レシオはすごいな、と思って」


 フィーテはいつものように僕に微笑みかける。しかし、それが作り笑いであることは明白だった。


「フィーテ。思うことがあるなら言ってくれ」


「本当にどうでもいいことだよ! でも……アタシじゃ、レシオにはふさわしくないかもなって」


 フィーテはそう言うと、スライムの頭を撫で始める。


「だって、その<光の加護>って……アタシの能力強化バフの上位互換じゃん」


 思わずはっとした。

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