第29話 フィーテの悩み
そうだ。<光の加護>は、フィーテの力とそっくりだ。おまけに、魔力すら使わない。
何を浮かれてるんだ。これじゃまるで、フィーテが必要ないって言ってるみたいじゃないか!
「ごめんフィーテ、そんなつもりじゃ……」
「いいんだよ。わかってたから。お兄ちゃんとレシオを見て、アタシだけ置いていかれてるのに気づいてた。だからさ、この冒険が終わったら……」
「違う! 僕にはフィーテが必要なんだ!」
フィーテが言い切る前に、僕は彼女の手を取った。
「僕に立ち上がるチャンスをくれたのはフィーテじゃないか! 君は弱くなんてない!」
「でも、アタシにはゴーレムを倒せるような力はない!」
「出来るよ」
僕はケースから数枚のカードを取り出し、彼女に見せる。
「カード……? レシオ、忘れたの? レシオ以外の人はカードを使えないよ」
「いや、使うのは『僕』だ。でも、召喚したモンスターに指令を出すのは『フィーテ』だ」
<光の加護>は単なる
モンスターたちは、指示を出さなければさっきのスライムのように戦略の欠片もない行動をとってしまうだろう。
つまり、この能力はモンスターに指示を出す人を前提としているのだ。
「フィーテはいろいろなことに気づく目を持ってる。それは僕にはできないことだ。だから、このカードを手に取ってほしい。そして――ゴーレムを倒そう」
「でも、そんなことをしたらゴーレムがカード化しないんじゃ?」
「ドッペルゲンガーが倒したゴールデンスライムも経験値になったし、そこは問題はないと思う。あとは、フィーテが僕のカードを手に取るかどうかだ」
フィーテは少し俯いた後、歯を食いしばって深く頷いた。
「……今からアタシが言うモンスターを召喚してほしい。それでゴーレムを倒したら……これからもアタシと一緒に冒険してほしい!」
「もちろん!」
固く握手をすると、僕はフィーテにカードの束を渡す。
「好きなのを選んでいいよ。フィーテの戦略に当てはまるモンスターなら、どれでもいいと思ってる」
「本当? だったら、このモンスターとこのモンスターでコンボを作って……」
フィーテはカードを1枚ずつスライドし始める。
しかし、すぐにその手は止まってしまった。
「いやーー違うかも」
「違うって、何が?」
「好きなモンスターを好きなだけ使えば、ゴーレムを倒すことはできると思う。でも、それじゃ違うんだ。アタシはレシオの隣に立てるような人間だって証明したいんだ。だからーー」
そう言って、フィーテは1枚のカードを僕に突き出した。
「このカード1種類で、アタシはゴーレムを倒すよ」
衝撃的な発言に、僕は思わず息を呑む。
「いやいやいや、それはいくらなんでも無茶だって! 好きなモンスターを使っていいから、考え直して!」
「おやおや? 無茶はレシオの十八番じゃなかったの? ーーそれに、アタシは自暴自棄になったわけじゃない。勝算はあるよ」
フィーテのこの言葉が真実かどうかは確かめる術はない。彼女は僕を信じさせ、一か八かの賭けに出ようとしているかもしれない。
しかし、彼女の
*
「見て! あれ、ゴーレムだよ!」
ダンジョンの15層にたどり着いたところで、フィーテが声を上げた。
彼女が示す方向を見ると、そこには一体のモンスターがいる。体長は2メートルを超えており、全身が岩石のような色をした赤褐色の金属でできている。
顔は彫りが入れられていないようでのっぺりとしているが、どこか威圧感のある雰囲気を醸し出している。
間違いない。あれがゴーレムだ。
「フィーテ、やれそう?」
「まさか、今さらビビるわけないよ」
フィーテは一歩前に出ると、僕の方に振り返ってニッと笑った。
「さあ、ゴーレム! かかってこい!」
フィーテが大声で煽ると、その声に反応してゴーレムがこちらを向く。
頼んだぞ、フィーテ! 絶対に勝ってくれよ!
「ゴゴゴゴゴゴ!」
走り出すゴーレム。その様子を見て、フィーテの口元が緩んだ。
「じゃあ、始めよっか。『本当のアタシ』を見つけられるかな?」
次の瞬間、僕がカードを発動すると、フィーテが一気に10人に分裂した。
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