第27話 公認されました
「んん……? ハッ!?」
クリジオが目を覚ましたのは、それから1時間ほどが経ってだった。
「まさか……俺は負けたのか?」
ゆっくりと体を起こし、頭を抑えるクリジオ。
「さあ、約束ですよ。僕たちはパーティを組むので、くれぐれもこれからフィーテに迷惑をかけないでくださいね」
「そうだよ! 約束はちゃんと守ってね、お兄ちゃん!」
僕たちに詰め寄られ、クリジオは『ぐぬぬ……』と悔しそうな顔をする。
「仕方ないな……約束は約束だ。妹とパーティを組むことを許してやる!!」
「「やった!」」
ついにクリジオからも太鼓判を貰った! これで大手を振って冒険できるな!
「ただしッ! 妹のことを泣かせるようなことをしたらぶっ殺すからな!」
「そんなことするわけないです! フィーテは大事な仲間なんですから!」
「ええ……なんか恥ずかしいんですけど……」
フィーテがもじもじし始めると、クリジオは少しむっとした顔で咳ばらいをする。
「……で、レシオ。お前がFランク冒険者だというのは本当か?」
もちろん事実だ。僕はこれまで一度も昇格試験を受けたことがない。
「妹の
今、何か違うことが聞こえたような……?
「こっちだ! 着いてこい!」
クリジオは強引に話を切り上げると、ギルドのクエスト掲示板の方へずんずん先へ進んでいってしまう。
僕とフィーテは顔を見合わせると、仕方なくついていくことを決めた。
クリジオが立ち止まったのは、いつものクエスト掲示板。
今日もたくさんの依頼書が張り出されているが、クリジオがいるのは端に別枠と用意されたコーナーだ。
「これが昇格試験だ。Cランクならこの3枚から1つ、クエストを受けるんだ」
そう言って、クリジオは3枚の依頼書を示す。
なるほど、昇格試験というのは、指定されたクエストをクリアすることだったのか。
「でも、いきなりCランクの試験を受けることなんてできるんですか?」
「出来る。Cランクまでは実力さえあれば誰でも昇格できるからな。さあ、どのクエストを選ぶ?」
じゃあ、安心して挑戦できるね。
クリジオが示した3枚の依頼書は、全てモンスター討伐のもの。
1枚目。ポイズンリザード討伐。イラストを見ると、かなり大きなトカゲのようだ。
2枚目。メテオウルフ討伐。こちらは速い狼……という感じだろうか。
3枚目。ゴーレム討伐。ゴーレムとは、金属でできた巨人のようなモンスターだ。
「よし、これにしよう」
少し迷った後、僕はそのうちの1枚の紙を選択した。
それは、『ゴーレム討伐』だ。
「はっはっはっは! やはりお前はセンスがないな! ゴーレム討伐はCランク試験の中で最も難易度が高いんだよ!」
「別にいいですよ、それで」
「はあ?」
僕はクエストの難易度でゴーレムを選んだわけじゃない。
今の僕に最も必要なクエスト、それがゴーレム討伐なのだ。
これまでカードを集めてきて、僕はある程度強くなることが出来たと思う。
だが、それらのカードは全て、戦略で戦うものや、そもそも戦闘以前のもの。
圧倒的に、戦闘向きのカードが少ないのだ。
今のところ、最も戦闘向きなのが<クリティカルヒット>だろうか。攻撃向けのこのカードしかないというのは、致命的だ。
でも、ゴーレムならどうだろう?
ゴーレムは攻守ともに優れたモンスターで、モンスター効果も戦闘向きであることが期待できる。
僕の予想は外れるかもしれない。だが、ゴーレムならあるいは、とさえ思えてしまうのだ。
「まさか……お前、Cランクの昇格試験なんて楽勝だと言いたいのか!?」
「はい、そうですよ」
違うけど。
「クソッ! 俺を倒すといい、昇格試験といい、いけ好かない奴だな! そこまで言うならやってみろ!」
もちろん、言われなくてもやってやるさ。強くなってアイシリアに会うためにも、手札をもっと増やすんだ!
「レシオ、昇格試験は1人まで同伴が許されてるの。人によってパーティでの役割が違うからね。お兄ちゃんと行くよね?」
「いいや、僕はフィーテと一緒に行きたい」
「でも、アタシよりお兄ちゃんの方が戦力になるよ?」
「戦力どうこうより、僕はフィーテに来て欲しいんだ!」
それに、どうせクリジオのことだから、誘っても断るんだろう。
「一安心だな。もし俺を連れて行くと言い出したらぶちのめすところだったぞ」
ほらやっぱり。
「それに、フィーテと二人なら、僕たち同時にCランクになれるよ」
「それがいい。せいぜいフィーテの足を引っ張るなよ?」
僕たちはクリジオの皮肉を無視し、カウンターに試験の申請に向かった。
「おい、フィーテに傷をつけるなよ! 絶対に許さないからな!」
背後で聞こえるクリジオの声。出会ってからほぼ間もないが、クリジオのことだから、帰ってきたらまたうるさいんだろうなと思っていた。
――だけど、まさかこの後、あんなことが起こるなんて。
この時の僕たちは知る由もなかったんだ。
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