第26話 レシオ、死す!?

「レシオーッ!!」


 フィーテの悲鳴が耳をつんざく。

 あれ……? 僕はいつの間に、攻撃を食らっていたんだ?


 槍は一度僕の腹を突くと、さらに何度も腹をえぐるように刺してくる。

 なんて速度だ。一秒に何度も刺されているのがわかる。服の上から、鋭利な感触が伝わってくる。


「……死んだな」


 100回以上腹を刺された後、僕はクリジオの蹴りを食らって後方へ吹っ飛ばされた。


「酷い! なにもあそこまでやらなくても!」


「フィーテは黙っていろ! これは男同士の戦いだ、手加減などするわけがない!」


 二人の会話が聞こえてくる。僕は今、仰向けに倒れたまま目を閉じている。


 僕は……死ぬのか?


 思えば、短い人生だったなあ。死ぬって、こんな感じなのか。実感ないけど……。


「……あれ?」


 僕は腹部を触って、出血の具合を確認する。……が、手のひらに血が付いている感覚はない。

 それどころか、全然痛くないぞ?


「今、本当に攻撃されたのか……?」


「お前、まだ立ち上がるつもりか? その根性だけは認めてやるが、お前はもうじき死ぬ。せいぜいフィーテに手を出したことを――」


 そこまで言ったところで、クリジオも異変に気が付いたようで。


「な、なぜだ!? お前何をした!? なぜ俺の必殺技を受けて傷一つ負っていない!?」


「何もしてないんですよ! だから驚いてるんです!」


 そうか、僕はレベルアップした上にカードの③の効果でステータスを上げている。

 もしかして、クリジオの攻撃を、僕の防御力が上回ったのか……!?


「何をしたかわからないが、駄目ならもう一度やるだけだ! <鮮血無限突き>」


 クリジオは気を取り直して槍を持ち直すと、さっきと同じようにとんでもない速度で縮地してきた。


「二度も同じ手は食わないぞ! <液状化>!」


 いくらダメージを受けないとはいえ、相手のペースに飲み込まれるわけにはいかない。

 僕はスライムのカードで体を小さくして、攻撃を回避する。


「……!? なんだその技は!?」


「解除! そして、<クリティカルヒット>!」


 相手が槍で一突きし、隙だらけの状態になったところで、液状化を解除。

 突然宙に現れた僕に、クリジオは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。


 その瞬間、僕は空中で体をよじると、クリジオの横面に強烈な蹴りを叩きこんだ。


「うぎゃああああああああああああ!!」


 クリジオは絶叫しながら地面を転がると、しばらく地べたをのたうち回った後、よろよろと立ち上がる。


「馬鹿な……今のが人間の蹴りだと!? それに、俺の攻撃を避け切るなんて、ありえない!!」


 確かに速度は凄いが、攻撃に威力がないからダメージにならない。

 おまけに、向こうは一撃でかなりのダメージを受けていることが伺える。


 これがレベル差の力だ。これ以上戦っても意味がないことは、彼が一番わかっているだろう。


「まだまだァ! フィーテのことを思えば、お兄ちゃんはまだ頑張れるんだ!!」


「アタシのことを考えてるなら折れてくれないかなあ!?」


「だったらこれはどうだ!? <赫赤一閃かくせきいっせん>!!」


 次に体勢を整えたクリジオは、さっきよりもゆっくりとした速度でこちらに走ってくる。


 なんだ……? さっきの一撃で怪我でもしたのか? 今回は目で追えるくらいの速度だぞ?


 いや――違う! クリジオの槍の先端に、赤いオーラのようなものが漂っている!

 あいつ、この一撃に全てを込めるつもりか! さっきのが連打だとしたら、今度は一撃必殺!


「うおおおおおおおおおおおお!! 死ねぇ!!」


 雷のような攻撃的なオーラを纏った一撃。突如として加速したその一閃を、僕は手で受け止めた。

 槍の先端部分の近くを掴むと、クリジオの膂力が直に伝わってきて、押し合いのような形になる。


「なぜだ! どうして<赫赤一閃かくせきいっせん>を手で受け止めることが出来る!!」


「確かにちょっと熱いけど……掴めないほどじゃない!」


 クリジオは速い。さっきは液状化で攻撃を当てることが出来たけど、同じ手が通用するかはわからない。避けられたら面倒だ。

 だから、こうして逃げられないように槍を掴んでから――!


「食らえッ!」


 僕は左足を前に出し、クリジオの腹部を蹴り込んだ。

 さっきの槍のお返しだ。先は尖っていないけど、威力はこっちの方が上!


「ぐっはぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 クリジオはまるで背中から吸い込まれていくような体勢で吹っ飛ばされると、近くにあった岩に激突してしまった。

 岩の上に大の字で倒れ、気を失っているクリジオ。フィーテは彼が気絶していることを確認すると、僕の隣に来て右手を上げた。


「勝者、レシオ~!」


「……なんか、思ったよりあっけなかったな」


「ま、いくらなんでもあのレベル差じゃ勝てないよね。レシオ、かっこよかったよ!」


 とにかく、これでフィーテとこれからもパーティを組んでもいいということになるんだろうか。

 クリジオが気を失っているから、とりあえずどこかに運んであげないとな……。

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