第25話 執心の兄

 クリジオは僕の肩を掴んだ後、さらに鋭い眼光で睨んでくる。


「適当なことを言うな! お前がレベル30なわけがないだろう! Eランク冒険者なのに!」


「本当だよ! レシオは3週間でレベルを上げたの!」


 フィーテに否定されて、クリジオはますます混乱した様子になる。全幅の信頼を寄せている妹にそう言われれば、そうなるのも無理はない。


 そして、混乱したクリジオが次に言ったのは――、


「嘘だ! お前ら二人で俺のことを騙そうとしてるな!? 俺よりレベルが高ければ許可すると思ってるだろ!?」


 否定。なんとしても僕が嘘をついていることにしたいようだ。


「もう、なんでわかってくれないの!? 第一、お兄ちゃんにアタシのことを決める権利なんてないじゃん!」


「ある! なぜなら俺たちは家族だからだ!」


 まともに話しても聞いてもらえそうにないよなあ……かといって、フィーテとこのままお別れもしたくないし。


 これは……少し演技をしないといけないかもなあ。


「じゃあ、もし僕があなたの忠告を無視して、これからもフィーテとパーティを組んだらどうなりますか?」


「もちろん、俺がお前を殺す」


「出来ますかね? 僕を倒すことなんて」


「なんだと?」


 僕はなるべく挑発的な笑みを浮かべ、クリジオを煽る。


「だって、僕はレベル30でクリジオさんはレベル22。普通に考えて、僕に勝てるわけないじゃないですか」


「いや、勝てる。なぜならお前は嘘をついているからだ。……ただ、そこまで言うからには俺に勝てる自信があるんだろうな?」


「ありますよ。でも、僕はあなたと戦うメリットがないので。せいぜいフィーテに粘着して他の冒険者にいばってればいいじゃないですか」


 僕が相手を小馬鹿にしたような態度でクリジオを嘲笑うと、クリジオの目がますます鋭くなっていく。


 普段こんなふうに人を煽ったことがないから、かなり心が痛いし疲れるな……。

 でも、そのかいあってクリジオはだいぶ怒っているようだ。


「お前、表に出ろ。俺も冒険者の端くれだ。俺を馬鹿にしたことを後悔させてやる」


「嫌ですよ、僕にメリットないし。ほら、名前を覚えるまでもないって言ってましたよね? 僕はもう行きますから。それじゃあ」


「待て! ……どうしたら俺と戦う?」


 その言葉を待ってました。


「本当は戦闘なんてしたくないですけど……どうしてもって言うなら、今後、フィーテにしつこく干渉せず、自由にパーティを組める権利を与えてくれればいいですよ」


「そこまでして家族の問題に首を突っ込みたいのか!?」


「そうに決まってる! 僕はフィーテとパーティを組みたい! 本気でそう思ってるんです!」


「ええ……なんかちょっと照れるんですけど……」


 僕とクリジオは互いににらみ合う。数秒して、クリジオが背を向けて歩き出した。


「早くついてこい。決闘の場所は草原エリアだ」


「……ってことは、僕の条件を飲むんですね?」


「いいだろう。ただし……俺に負けるようなことがあれば半殺しにして、二度とフィーテに近づけなくてしてやるからな」


 ……怖いなあ。でも、今のところ事は順調に進んでいる。


 なんとしても、クリジオを倒してフィーテとパーティを組まないと!



「……ここにしよう」


 街を出て草原エリアを歩くこと数分。少し広い場所を見つけると、クリジオが立ち止まった。

 ここなら思う存分戦うことが出来るだろう。


「クリジオさんは武器を持たないんですか?」


「いいや、もう準備できている」


 そう言うと、クリジオは懐からバトンのようなものを取り出す。

 次の瞬間、バトンが一気に伸びたかと思うと、真っ赤な一本の槍へと変化した。


「それは、一体……」


「なんだ、そんなことも知らないのか? この槍の名は穿赤せんせき。俺はこうして常に武器を携帯している。なんのためかわかるか?」


 クリジオは自分の背丈よりも長い槍をぐるぐると華麗に回し、先端をこちらに向けてきた。


「答えは、妹に近づいた奴をいつでも殺せるようにだ。俺は妹に手を出された上に侮辱をされて相当頭に来ている」


 その刹那だった。


 クリジオの姿が、一瞬にして消えたのだ。辺りを見回すが、どこにもいない。


「何をよそ見している?」


 その時、下の方で声がしたかと思うと、クリジオが姿を現した。

 いつの間に……! まさか、超スピードで移動したのか!?


「俺は頭に来ている。だから、手加減はしない。早々に終わらせてもらうぞ」


 マズい! これだけ近づかれたら――、


「<鮮血無限突き>」


 回避しようとしたその時、槍の先端が僕の体を貫いた。

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