第20話 リッチとの鬼ごっこ

「ヤバい――ヤバい、ヤバいぞこれは!!」


 リッチってこんなに強いのか!? 舐めていたわけじゃないけど、あのぶ厚い扉を一撃って、どんなパワーだ!?


「オオオオオオオオオオオン!!」


 リッチが叫んで杖の先で地面を付くと、紫色のオーラを纏ったゴーストのようなモンスターがリッチの体から6匹放たれた。

 モンスターは魂のような形をしており、サメのような眼光のまま僕に迫ってくる。


「クリティカルヒット!」


 6匹のゴーストは同時に僕に襲い掛かってきたので、最も敵を引き付けられるタイミングを見計らう。

 そして、クリティカルヒットで威力を上げ、ゴーストたちを薙ぎ払う。


「ヒギャアアアアアアア!!」


 が、6匹ともなるとさすがに一撃では倒しきれない。

 僕はゴーストの勢いに押され、壁にぶつかった。


「オオオッ!」


 壁にぶつかり、追い詰められたと見たリッチは、杖を振るって攻撃を仕掛けてくる。


 マズい……まだ数秒しか経ってないぞ!? まさかここまで追いつめられるのか!

 杖による近接攻撃に加え、ゴーストを放って遠距離からの攻撃か。全く隙が無いな!


 杖が迫ってくる。目では追うことが出来るが、体が全く反応できそうにない。


 同時に感じ取ったのは、リッチの体を包み込むような激しい殺気。

 目の前のモンスターが、圧倒的に格上であることを実感するとともに、この攻撃を食らった後、自分が死ぬことさえ容易に想像できる。


 駄目だ――まともにやっても勝てるわけがない!


「壁抜け、発動!」


 僕はゴーストのカードを使用し、もたれかかっている壁を貫通していく。

 僕の上半身は、壁を抜けた先の廊下へと抜けていく。僕は足を壁から引き抜くと、廊下へと完全に移動した。


 壁抜け。ゴーストのモンスター効果だ。

 エコーソナーで、この遺跡の地図は完全に把握している。僕はわざと壁に追い詰められ、そこから壁を抜けて移動をしたのだ。


「オオオオオオオオオオオン!!」


 壁の向こうから、リッチの叫び声と振動が伝わってくる。壁を叩いてこっちへ来ようとしているのだ。


 以前、ダンジョンの壁を液状化で抜けられないか試したことがある。その時、わずかな隙間もなかったことから、壁は丈夫に出来ていると考えた。

 この遺跡にそのルールが適用されるのかわからないけど……そこそこの強度はあると考えてよさそうだ。


「これで少しは時間が稼げるはずだ!」


 僕は脳内の地図をもとに、リッチから一番距離を取れるルートを選択する。


 ゴーストのカードは残り2枚。これが切れたら逃げるための手段は残り8枚のスライムだけになる。

 リッチに追いつかれず、なおかつピンチになった時にすぐに別のルートに逃げられる道を選択しなければならない!


「獣の嗅覚、発動!」


 ルート選びに使うのは、コボルトのカードだ。このリストにリッチの名前が表示されたら、すぐに方向を変える。

 やることが多いな! だが、これくらいやらなきゃ、せっかく戦った意味がない!


 走ること2分。ルートを模索していると、リッチの名前がリストに表示される。

 ――と思った瞬間、リッチの足音がすぐそこまで迫ってきた!


「嘘だろ! いくらなんでも速すぎる!」


 僕はすぐに方向を変える。次に壁抜けする場所を決めると、そこに向かって全力で走り出した。


 きっと、リッチも毒が回っていることに気づいて焦っているんだ! 作戦は間違いなく、上手くいっている!


「オオオオオオオオオオオン!!」


 リッチが叫び声とともに、杖から闇魔法の球を放ってくる。

 僕は壁に飛び込む形で宙に浮くと、そのまま壁抜けを発動して壁の先の廊下へ転がり込む。


 思ったよりも近づくのが早い! ゴーストのカードはあと1枚だ!


 このまま逃げ切れるか――? リッチには確かに毒のダメージが入っている。動きも鈍くなってくるから、このままいけば――、


 ――いや、一か八か、やってみる価値はある。


 僕は心の中で決意を固めると、目的地を定め、再び走り出した。



「ウオオオオオオオオオオオ!!」


 約3分が経ち、俺はリッチに追いつかれた。

 目の前には、眼球に青白い炎を灯すリッチが、骨でもわかるほどの恐ろしい形相で迫ってきている。


 だが、これも全て計算のうちだ。


「リッチ、お前かなり追い詰められてるな」


 追い詰められているのは僕じゃない。リッチの方だ。

 リッチは既にかなり毒が回っているようで、動きもさっきほど俊敏じゃない。おそらく、攻撃の切れも落ちているだろう。


「長い鬼ごっこに付き合ってくれてありがとう。疲れただろう。でも――もう僕は逃げないぞ」


 さっきまでは、相対するだけでも死を覚悟するほどに実力差が浮き彫りだった。


 だけど、今ならどうだろうか?


 リッチは毒で疲弊している。レベル30相当とはいえ、今なら僕でも戦える相手になっているんじゃないだろうか。


「さあ、リッチ。勝負を再開しよう。僕とお前、どっちが先に息切れするか、その正念場だ!」


 僕は剣を握り、リッチに襲い掛かった――!

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