第19話 リッチとの邂逅
「ここが……リッチのいる場所か」
獣の嗅覚が示した場所は、遺跡の最奥部の大部屋だった。
確かに、ラスボスがいそうな雰囲気を醸し出している。入口は、僕の背丈の倍はあるような巨大な門扉だ。
その禍々しい模様の掘られた石の扉を、僕は思い切り押し開ける。
扉は重く、冷たい感触が手に伝わってくる。
扉を開けて中に入った刹那、僕は全身が粟立つのを感じる。
「なんだ――これ?」
部屋の前に立った時か? いや、違う。この部屋に入った瞬間だ。
まるで全く違う空気を吸っているような――そんな感覚。
思わず吐き気を催す。臭いや音などの五感が理解できる範囲の外側――本能が、この部屋の危険を伝えている。
リッチはどこだ? この部屋のどこかに――、
「…………」
いた。部屋の奥。遺跡の主と思われる人物の墓の前に、それはいた。
見た目はただの骸骨。だが、上からローブを羽織っており、眼球に当たる部分に紫色の炎が宿っている。
他のモンスターと違い、鳴き声はないようだ。ただ押し黙ってその場にいる、そのたたずまいはまるで上位存在を相手にしたような感覚になってくる。
これは、こっちが先手を取らないとやられる!
僕は吐きそうなのをこらえて歯を食いしばりながら、リッチに向かって斬りかかる。
「うおおおおおおおおお!!」
その場で飛び上がり、剣をリッチの胴体めがけて振り下ろす。
しかし。
「――ッ!?」
次の瞬間、僕の体は地面に叩きつけられていた。
「何が起こった……?」
仰向けで倒れた状態でリッチを見ると、奴の手には杖が握られていた。
そうか、杖で殴られたのか。
「…………」
その時、リッチが杖を持っていない左手の手のひらを僕に向けてきた。
すると、みるみるうちに手のひらの前に黒い球体のようなものが生成されていく。
「これは……食らったらマズい!!」
僕はすぐに起き上がると、全力で走り出した。
次の瞬間、僕の背後で爆発音が響き渡る。
……これは、洒落にならないぞ!
「液状化、発動!」
僕はすぐにカードケースに手を突っ込むと、スライムのカードを取り出す。
液状化したその刹那、僕の真横を黒い球体がかすめる。
リッチは、こっちに向けて球体をいくつも放ってくる。球体は地面に着弾すると、激しい爆発を起こす。
今、液状化のタイミングがズレてたら直撃だった! 威力を見る限り、当たれば即死とはいかなくても致命傷にはなる!
作戦を実行するしかない!
僕は液状化した状態でリッチに肉薄し思い切り飛び上がった。
「解除!」
宙に浮いた状態で、僕は懐からカードを取り出す。
「黄金の輝き、発動!」
手に取ったのは、ゴールデンスライムのカード。
10秒間相手の視界を奪える代わりに、1時間に1回しか発動できない能力だ!
宣言の瞬間、カードが黄金の光を放ち、リッチを照らす。
リッチを見てみると、奴の眼球の炎が消えている。効いているんだ!
「このチャンスは、絶対に逃すわけにはいかない!」
僕はさらに二枚のカードを手に取る。
「クリティカルヒット、発動!」
ゴブリンのカードを使用。これで、次の攻撃は強力な威力になる! この程度の強化で相手に通用する攻撃になるとは思えないが――、
この剣には神聖効果が付与されている。だったら、物理攻撃は通るはずだろ!?
「毒手、発動!」
毒手はゾンビのモンスター効果だ。毒効果を付与するのは、次の剣の一撃。
「食らえ!!」
僕は思い切り剣を振るい、視力を失ったリッチに一撃を食らわせる。
リッチの左目に、一本の縦筋が出来た。同時に、リッチが攻撃に狼狽えた様子を見せる。
――通った! ダメージは大きくなさそうだが、それでも構わない!
「液状化、発動!」
二枚目のスライムのカードを使用した僕は、そのままの姿でリッチから逃走する。
10秒経過。その時、僕は扉の隙間を潜り抜けて部屋の外へ出ていた。
毒手で毒効果を付与し、相手を毒状態にする。
レベル18の僕にも通用するような毒であれば、レベル30相当のリッチにも微弱ながらダメージを与えられるはずだ。
「どっちの息が先に切れるか、勝負しようじゃないか!」
スライムのカードは残り8枚。今使っているカードのぶんと合わせて、あと9分は逃げられる。
僕のカードが切れて逃げられなくなるのが先か。リッチの体力が尽きるのが先か。
今、その勝負が始ま――、
「ウオオオオオオオオオオオ!!」
その瞬間、あの入口の大きな扉が蹴破られ、リッチが姿を現す。
え――あの扉を一撃で!? 話が違うぞ!?
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