第18話 二人の決意

「いやいやいやいや! 話聞いてた!? リッチは流石に勝てないって!」


 フィーテがそう言うのもわかる。だけど、僕はどうしてもやってみたい。


「フィーテ、カードのレア度のこと、覚えてる?」


「レア度って……ノーマルとかレアとか?」


「うん。だけど、今のところ僕たちはレアを一種類しか持ってないんだ」


 レアはゴールデンスライムだけ。ゴールデンスライムでもレアということは、普通にエンカウントするようなモンスターは全てノーマルだろう。


「もし、リッチを倒してカード化出来たら、すごく役に立つ効果の切り札になるかもしれない」


「それはそうなんだけど……リスクが大きすぎない?」


「それでもやってみたい。強くなるための近道になるのなら」


 ごめんフィーテ。口では色々理由を言っているけど、本当は戦ってみたいだけだ。

 ゴールデンスライムを倒せば、確かにレベルは上がるかもしれない。レベル30にだって、時間を掛ければなれるだろう。


 だけど、僕が目指している強さって、レベルの数字なんだろうか?


 きっと、このやり方だけでレベル30――いや、レベル100になっても、僕はアイシリアに誇れる自分になれない。


 たとえ敵わなくても、どうにかして立ち向かってみたい。そのチャンスを逃したくないんだ。


「……ま、レシオは止めても聞かないよね」


 フィーテはため息を吐くと、頬を緩めた。


「いいよ。やってみよう」


「……いいの!?」


「自分でやりたいって言ったんだから驚かないでよ。まあ、アタシに強制する権利はないし。それに……レシオならやってくれるような気がするんだ」


 フィーテはニッとほほ笑むと、僕の肩を叩いた。

 彼女は僕を信じてくれているのだ。


 これは……やるしかない!


「ただし、ドッペルゲンガーを探してからね! それから、アタシも一緒に戦わせて」


「それについてなんだけど……フィーテは遺跡の外で待っててくれないか」


 フィーテは予想外なことを言われたとばかりに、きょとんとした表情になる。


「アタシのレベルが低いから? アタシは別に大丈夫だから、能力向上バフ要員として連れて行ってくれれば――」


「そうじゃない。今考えている作戦では、僕一人で戦った方が都合がいいんだ」


 もちろん、本当のことだ。できればフィーテにいて欲しいけど、彼女が危険な目に遭うかもしれない。


「それならしょうがないね。じゃあ、ドッペルゲンガーが見つかったらアタシは外で待つよ」


 フィーテの了解を得られたところで、僕は獣の嗅覚でドッペルゲンガーの位置を特定した。


「助けて助けて助けて助けて! 僕は僕は僕は……ギャアアアアアア!!」


 ドッペルゲンガーの生首を跳ね、僕は息を整えた。


 話には聞いていたけど、生のドッペルゲンガーは想像以上に気持ち悪かったな。

 僕の見た目や声を真似して、僕の口調で言いそうなことをオウムのように繰り返すんだから、たまったもんじゃない。


 まるで自分を殺してしまったような気分だ。目的を達成したのに、少し気分が悪くなってしまった。


「ねえ、肝心のカードを見てみようよ!」


 僕は促されるまま、裏面に落ちているカードをめくる。


 このカードの能力次第で、目標が達成できるかどうかが決まってくる。頼む……期待通りの能力であってくれ……!!


――


ドッペルゲンガー レア度:ノーマル (10)

①ドッペルゲンガーを1体召喚する。

②『もう一人の自分』……自分の能力をコピーした分身を生成する。

③体力ステータスを強化する。(0/10)


――


「やったあああああああああああ!!」


 突如、カードの文字を読んだフィーテが僕に抱き着いてきた。


 それも当然だ。僕たちの予想は当たり、ドッペルゲンガーの能力は分身だったからだ。


「これでようやく一歩前進って感じだな……」


「ほんと、アタシたちっていいコンビだよね! どんな問題もちゃんと解決してきたし――」


 そこまで言って、急にフィーテは暗い表情になった。


「……これからも、一緒に冒険できるよね」


 リッチのことを心配しているんだろう。勝手をしている身なので、自信を持って答えることはできない。

 それでも、僕はここで負けて終わるつもりはない。これは強くなるためなのだ。


「大丈夫だよ。この前だって、ちゃんとダンジョンから戻ってきたでしょ?」


「……あはは、確かにそうだよね。レシオは言ったことはやるタイプだもんね」


 フィーテの顔に色が戻る。


「頑張ってね、レシオ! 戻ったらリッチがどんな見た目だったか、教えて!」


「もちろん! 今夜は美味しいお肉を食べに行こう!」


 僕たちはグータッチをし、別れた。


「さて……一人になったはいいものの、緊張してくるな」


 ひとまず、気を紛らわすために持っているカードの枚数でも数えるか?

 僕はカードケースの中に手を突っ込み、今あるカードに目を通した。


――


・スライム×10

・ゴブリン×10

・ジャイアントバット×9

・コボルト×9

・ゴールデンスライム×5

・ゴースト×3

・ゾンビ×5

・ドッペルゲンガー×1


――


 こう見ると、だいぶ集まってきたな。これだけあれば、リッチにも一矢報いることが出来るかもしれない。

 あとは……上手くいくかどうかだけだな。


「獣の嗅覚! 対象にリッチを指定!」


 僕はリッチの位置を特定すると、鼓動を抑えながら遺跡の奥へと進む。

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