第16話 アンデッドモンスターの巣窟

「ここがアンデッドモンスターがいるっていう遺跡ね……」


 埃っぽい臭い。じめじめとした空気。その場にいるだけでなんだか風邪でもひいた気分になる。

 街から西に出て1時間。ここは、いつの時代かの誰かの墓だという。


 ギルドで説明を受けたところ、ここでアンデッドモンスターが大量発生しているらしく、言われた通り、かなり不気味な雰囲気がある建物だ。


 構造はダンジョンとかなり似ていて、石造りの廊下が迷路のようになっている。


「すごいな、ここは……モンスターだけじゃなくて、お化けも出てきそうな気がしてきた……」


「もしかして、怖いのかな? レシオって意外と怖がり?」


「そんなんじゃないよ。そういうフィーテこそ足が震えてるけど?」


「べべべべべべ、別にコワクナイヨ!?」


「じゃあ、二手に別れてドッペルゲンガーを探そうか。僕はこっちに行くから、フィーテはそっち当たって」


「ま、待ってよ! わかったから! アタシはビビリです!」


 フィーテは涙目になって僕を追いかけてくる。

 怖がりなら反撃されるようなこと言わなければいいのに……。


「ねえ、そういうわけでアタシはなるべく早く帰りたいんだけど……サクッと見つけていただくことはできないでしょうか……?」


「ちょっと待って。今やってみるよ」


 僕は懐から二枚のカードを取り出す。よーし、いつものコンボ行くぞ!


「エコーソナー!」


 まずジャイアントバットのモンスター効果を使用し、この建物の構造を把握。

 これで道順はわかった。迷路のようで迷子になってしまいそうだが、この脳内の地図があれば大丈夫。


「獣の嗅覚!」


 次に、周辺の生き物のリストを表示する。

 うーん、近くにドッペルゲンガーはいないようだ。


「地図に沿ってもう少し探索してみよう。すぐには見つからないかもしれないけど、どこかにはいるはずだ」


「すぐには見つからないって……もうアタシ帰りたいんだけど! さすがに10分くらいしたら帰るよね!?」


「見つかるまで帰らないけど……」


「やだあああああああああああ!! まだ死にたくないいいいい!!」


 怖いのが苦手だって、最初に言ってくれれば無理に連れてこなかったのに……。


「……なんて、言ってる場合じゃなくなってきたぞ!」


 リストに視線を落とすと、文字に変化が起きている。


「ヒョオオオオオオオオオ!」


 前方から姿を現したのは、黒いローブを身に纏った小人だ。

 背丈はゴブリンほどだが、圧倒的に違うのが、そのモンスターが宙に浮いているということ。


「なんだあれ!?浮いてるぞ!」


「ゴーストだよ! 立派なモンスターだから、気を付けて!」


 迫ってくるゴーストは3匹。手には鎌のようなものを持っている。

 っていうか、なんか体が半透明な気がするんだけど……本当に攻撃できるのか!?


「一か八かだ!」


 ゴーストの頭めがけて剣を振り下ろすと、空を斬ったような感触が手に伝わる。

 ――外したか!?


「ヒギャアアアアアアア!!」


 いや、目の前のゴーストは西瓜のように真っ二つに割れている。

 物理攻撃も効くってことか?


「レシオの剣は神聖効果が付与されてるから、ゴーストにも攻撃が通るんだよ!」


 なるほど、この剣のおかげなのか!

 確か、メルラさんはこの剣を『白光びゃっこうの剣』って呼んでたっけ。名前に光ってついているくらいだし、そういう力があるのも納得できる。


「さらに、アタシからも神聖効果の能力向上バフをかけておくね!」


「ありがとう! これなら楽勝だ!」


 一匹があっさりやられたことで、慌てふためくゴーストたち。

 しかし、この隙を活かさないわけにはいかない。僕はさらに剣を振るい、二匹のゴーストを横一閃に切り裂いた。


「「ヒギギイイイイイイ!!」」


 二匹の断末魔が、あっさりと戦闘の終わりを告げた。


「なんか、思ったより強くなかったな」


「レシオが強くなってるんだって。ちょっと前だったら一方的に鎌でめった刺しにされてたよ」


 そういえば、今の僕はレベル18なんだった。実感はないけど、中堅くらいの数字にはなってるんだよね。


「それにしても、フィーテは神聖効果も付与できるんだね?」


「うん。身体能力を強くするだけじゃなくて、精神に作用したり、モンスターの能力弱体化デバフにも対抗できるんだよ」


「……だったら、怖さを克服することも出来るんじゃないの?」


 おそるおそる聞いてみると、フィーテは手を打った。


「そうだ! それ出来るの忘れてたよ! <勇気>!」


 フィーテは全身の空気を浴びるように両手を広げると、自分に魔法をかける。

 彼女の体がオレンジ色の光に包まれると、フィーテはそのままの体勢で大きく伸びをした。


「んー! なんか全然怖くなくなってきた! レシオ、ナイスアイディア!」


「怖くなくなったならよかったよ。自分の魔法は忘れないでほしかったけど……」


「おっと、レシオ。雑談してる場合じゃないかも!」


 フィーテが僕の背後を指す。

 ゴーストたちが向かってきた道の先――闇の中から、数人の人影が見えてくる。


「あれは……人?」


「よく見て、モンスターだよ。この数を捌くのは大変だから、アタシも頑張ってカバーする!」


 闇から姿を現したのは、5体のゾンビだった。

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