第9話 乾杯
「「かんぱーい!!」」
グラスがぶつかり合い、カチンという音が鳴る。
それを合図に、僕はソフトドリンクをぐいっと喉に流し込んだ。
柑橘系の匂いと、酸っぱい味わいが僕を包み込む。後引く美味しさに、僕は息を漏らした。
「最高だねえ! 冒険の後の飲み物は!」
フィーテは満足そうにグラスの中身を飲み干すと、店員さんに追加で注文をしていた。
宝物庫からアイテムを取り、ダンジョンを後にした僕たちは、焼肉屋に来ていた。
その食事代はというと――なんと、宝物庫にあった宝珠が20万ギルで買い取られたのだ。
「いやあ、成功したね! 『宝物庫強盗で焼き肉食べちゃおう大作戦』!」
「『合法泥棒で大金持ちになっちゃおう大作戦』じゃなかったっけ?」
「細かいことはいいのだ! さ、レシオもお肉食べな?」
フィーテはしっかりと焼いた牛肉を口に運び、頬を抑えながら咀嚼した。
途中、かなりピンチな場面もあったけど……こうして美味しい食事も出来たし、よかった。
「それにしても、すごいね! <カード化>って!」
「本当に。これまで1度もそんなこと思ったことなかったのに……」
僕はこれまで、<カード化>の本当の強さを知らなかった。
モンスターを倒せば、そのモンスターがカードになって、効果を使うことが出来る。
効果はどれも強力で、他のカードと組み合わせれば宝物庫に侵入だって可能だ。
はっきり言って、かなり強い。今まではモンスターを倒すことすら出来ず、モンスター効果も使えなかったので、その強さに気づくことが出来なかった。
「そういえばさ、その剣は売らなかったの?」
フィーテは、床に置いておいた僕の剣を指す。
「うん。今まで使ってきたナイフじゃ心許ないから、これだけは売らないことにしたんだ」
「それがいいと思うよ。ダンジョン産のアイテムはどれも質がいいから。下手にお店で買おうとすると、粗悪品を売られるリスクもあるしね」
フィーテは物知りだ。それに、カードの活かし方を考えたのも彼女。
これから、僕は強くなるためにクエストの攻略を繰り返すだろう。
そんな冒険に、彼女にいてほしい。
「なあ、フィーテ。もしよかったらなんだけど……」
「ん? もしかして報酬の分配の話? それなら、アタシに先に言わせて!」
あれ? 話を持っていかれちゃったぞ? 何を言うつもりなんだ?
「レシオ。報酬はいらないから、アタシを仲間にしてほしいの!」
「え、どういうこと!?」
「アタシ、これまで色々なパーティに勧誘を受けてきたんだけど、全部断ってたの。正直、入っても面白くなさそうだったし、ソロでも生活は出来たから」
『だけどね』と加えると、フィーテは目を輝かせて言った。
「レシオの能力を見て、心から面白いって思ったんだ! お金はいらないから、アタシもレシオの冒険に連れて行って欲しい!」
「いや……僕も同じことを言おうとしてたんだ。フィーテ、君と一緒に冒険がしたい!」
「じゃあ、交渉成立だね」
ちょうど、店員がフィーテに新しい飲み物を運んでくる。
フィーテはグラスに手を掛けると、僕に乾杯を促してくる。
「これからよろしくね、フィーテ!」
「こちらこそ、不束者だけどよろしく!」
カチン、という音を立てて、二度目の乾杯。
この日、僕には始めて仲間が出来た。
「ちなみに、報酬はちゃんと折半するからね」
「アタシ的には貰えるのは嬉しいけど――別にお金に困ってるわけじゃないし、レシオが強くなってくれれば充分なんだけどな」
「そういうわけにはいかないよ。それに、報酬を独り占めするより、一緒に強くなった方が装備を強化できるはずだよ」
「確かにその通りだね。じゃあ、ありがたくお金は貰おうかな」
僕は今日の報酬を半分フィーテに手渡した。
「じゃあ、お金についての話も終わったところで、これからの作戦を考えるんだけど……」
フィーテはお金を受け取ると、真剣な表情で話題を変えた。
<カード化>の能力は強力だ。だけど、活かすためには相応な作戦が必要なこともわかった。
これからの作戦次第で、僕が強くなれるかどうかは大きく変わる。
「とりあえず、これからの目標を話すね。まず、最初の1週間は泥棒作戦でアイテムを集めて、装備を強化する」
そして、フィーテは人差し指を立てて、ニヤリと笑った。
「そして――次の3週間でレベル20を目指す。名付けて、『短期集中レベルアップ作戦』!」
彼女の発言に、僕は驚きを隠せなかった。
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