第8話 エコーソナー

――


ジャイアントバット レア度:ノーマル (10)

①ジャイアントバットを1体召喚する。

②『エコーソナー』……周囲の地形を把握する。


――


「ビンゴ!」


 僕はその文字を読んだ瞬間、会心のガッツポーズをした。


 コウモリは、自身の超音波で周囲の状況を確認しながら空を飛ぶという。

 その力がもし、モンスター効果に反映されているとしたら。僕はそう考えたのだ。


 まあ、コウモリがモンスターで、なおかつ超音波の能力が使えるという可能性に賭けているので、どちらか片方でも予想が外れたら終わりだったけど。

 ……いや。それだけじゃないな。クリティカルヒットでジャイアントバット3匹を倒せることも前提だから、かなり攻めたチャレンジだ。


「次からは、もう少し慎重になった方がいいかもな……」


 とはいえ、今回は成功だったわけだし、よしとしようか。


 僕は新しく手に入れた3枚のカードを大事に懐にしまい、目の前の階段を降りて先に進む。


 3層に到着すると、僕はさっき手に入れたカードをさっそく使ってみることにした。


「エコーソナー!」


 宣言をした瞬間、僕の脳に謎の図のようなものが浮かび上がってきた。


 それは、まるで目の前に見えているかのように記憶に焼き付いていて、はっきりと正確に思い出すことができる。


 その画像とは、この3層の構造だ。

 地図でも見ているように、どこが通れてどこが行き止まりになっているのかがわかる。


 そして、次の階段の位置も。


「液状化!」


 次に、スライムのモンスター効果を発動し、液体になる。

 さっきまでは1層攻略するのに2分を要していたけど――今はそうではない。


「階段の位置がわかるぞ! これなら、1分もかからず移動できる!」


 僕は意気揚々とダンジョンを移動し、すぐに階段の場所へとたどり着いた。

 さっきまで全速力で2分かかっていた攻略を、1分まで短縮することが出来ている。おまけに、体力にもかなり余裕がある。


「さっきまでの危ない状況が嘘みたいだな……」


 あまりにも拍子抜けな結果に、僕は思わずつぶやいた。


 とはいえ、宝物庫のアイテムを取って戻るまでが冒険だ。気を引き締めないと!



「さて、この階段を昇れば1層だぞ……」


 宝物庫から引き返し、2層にたどり着いた僕は、1層へと続く階段を前に液状化を解除した。


 この階段の先に、フィーテが待っているはずだ。最後まで気を抜かずに――、


「レシオー!! 今行くから待ってなさいよー!!」


「え?」


 階段の先から声がする――と思ったその時、フィーテが階段を駆け下りてきた。


「……え? レシオ? なんで?」


「それはこっちのセリフだよ。なんでそんな勢いよく階段を降りてきたの?」


 フィーテは服の袖を肩までまくり、かなり気合の入った様子で現れた。


「だって……レシオが10分経っても帰ってこないんだもん。どこかでモンスターに襲われたかと思ったの!」


 なるほど。液状化のタイムリミットが10分だから、10分経過しても帰ってこなかったら襲われたと思うのは自然か。

 途中、ジャイアントバットとの戦闘があって、少し時間がかかってしまったのが原因だろう。


 フィーテは大きくため息を吐くと、疲れた顔をしながらまくっていた袖をいそいそと戻し始めた。


「でも、レシオがちゃんと帰ってきてくれてよかったよ。冒険者は命あってなんぼだもん」


「そうだね、心配かけてごめん」


「ううん。宝物庫のアイテムより、レシオの命の方が大事だもん」


 ん……?


「結局、液状化のカードが切れちゃったんでしょ? 正直、いきなり宝物庫にたどり着くのは難しいと思ってたし、またチャレンジしよう」


「あの、それなんだけど……」


「さっきは付き合うお礼にご馳走なんて言ったけど、こっちも楽しかったし、割り勘でご飯食べに行こ? アタシ、定食屋さんに行きたい!」


 フィーテはかなり僕に気を使ってくれているらしく、笑顔でこの後の話を始めた。


「違うんだフィーテ、聞いてくれ。驚かないで欲しいんだけど……」


「ん? ポーチ返してくれるの?」


 僕はフィーテに借りていたポーチを外すと、中に手を突っ込む。


 そして――中から2つのアイテムを取り出した。


「まず、これが宝物庫の中に入ってた……多分、宝石か何かだと思う。この大きさならそこそこ値段が付くんじゃないかな?」


「!?!?」


 僕は、ポーチに入れておいた緑色の宝石をフィーテに手渡す。

 拳ほどの大きさがある宝石に、フィーテは驚きで目を丸くした。


「あと……これは、剣だね。よくわからないけど、上等なものだと思う」


 次にポーチから出したのは、白い刃が光り輝く片手剣。

 お店に並んでいたのを見ていたのと同じくらい上等で、柄の金色の装飾もかっこいい。


「宝物庫にあったのはこの2つだけだったよ。あと、宝物庫は内側から鍵を開けられるから、強くなったらフィーテも中に入れるよ――」


「嘘でしょ!? 本当に宝物庫までたどり着いちゃったの!?」


 ダンジョンに響き渡るフィーテの驚きの声。遅れてきたその反応に、思わず僕はビクッとしてしまう。


「アタシ、お肉食べたい! 美味しいお肉食べに行こう!」


 フィーテは僕の手をギュッと握ると、その場で小躍りをした。

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