第7話 決死の攻略

 ダンジョンの2層は、1層と変わらず迷路のようになっていた。

 大理石の壁が光を放っているのか、辺りは見渡せる程度に明るい。


 しかし、道がかなり入り組んでいるうえに、行く先々にはモンスターがいる。気を抜けば一巻の終わりだ。


「液状化!」


 僕は液状化をし、ドロドロの姿になる。

 うーん、何度やっても視点の高低が変わる感覚に慣れないな……。


 なんて、モタモタしている場合じゃない。液状化していられるのは、帰りの時間も含めて10分だ。

 帰りは道順を覚えているから使用するカードの枚数を減らすことが出来る……けれど、そのぶん帰りに間に合わなくなるリスクは高まるから、なるべく早く戻りたい。


 液状化した姿になっても、移動のスピードは人間の姿と変わらない。

 走るのと同じ感覚でスピードを上げると、息が切れるのと同じ感覚で疲れてしまう。


「キキィッ!!」


 上空ではコウモリが数匹鳴いている。あれもモンスターなのかな……?


「……うわっ!」


 少し探索をしていると、液状化の効果が切れた。


「これで1分……? 思ったより短い!」


 ここはまだ2層。かなり急ぎ足で探したつもりだったけど、階段発見のペースは遅れている。


 いや、落ち着け。まだ1枚目だ。ここから捲れるかもしれない!


「液状化!」


 僕は2枚目のスライムのカードを使い、液状化した状態でさらに先へ進む。


 ペースの遅れを自覚したからか、無自覚にスピードが上がっているような気がする。

 モンスターに気づかれないよう、道の端を全速力で移動する。


「……あった!」


 角を曲がったその時、進路の先に階段があるのを発見した。


 あれを下りれば3層だ! よかった、まだ――、


「まだ間に合――って、時間切れか!」


 3層への階段を前にして、2枚目のカードの効果が切れてしまった。


 帰りに道順を覚えていることを考慮して、行きに6枚カードを使えるとしても、残りは4枚。

 今のペースだと、4枚全部使っても4層までしかたどり着くことができない。


 引き返すか? でも、まだ行ける可能性もある――、


「キキィッ!」


「ああもう、うるさいな! こっちは一生懸命考えてるのに!」


 頭をフル回転していたその時、頭上のコウモリが鳴いた。

 コウモリは3匹で群れて、真っ赤な目を光らせながら天井付近を飛んでいる。


 って、そんなこと考えてる場合じゃない。早く判断しないと、モンスターが――、


「……モンスター?」


 あのコウモリって、モンスターなのか?


 液状化していたから遠近感のせいだと思っていたけど、よく見ると体長が大きい気がする。スライム一匹分くらいはありそうだ。


「もしかしたら……いけるかもしれない!」


 もしあのコウモリがモンスターだったとしたら。

 宝物庫にたどり着くチャンスかもしれない!


 かなりリスクがある行動ではあるが――一か八かだ。

 このまま帰るくらいなら、やってやる!


 僕は道脇に落ちていた石を拾うと、コウモリたちに投げつけた。


「おい! こっち見ろ!」


 コウモリに向かって叫ぶと、奴らも僕を敵として認識してくれたようだ。


「キキッ!!」


 三匹が僕を囲むようにして飛び回り、体当たりをしてくる。

 僕はナイフを振り回し、コウモリに応戦する。が、素早く動き回る敵に、刃はかすることしかしない。


「キギャッ!」


 その刹那、コウモリが僕の左腕に噛みついた。

 腕に針が通るような激痛。僕は顔をしかめた。


 幸い、ダンジョンのモンスターは、ダンジョン内の魔力から生まれているとされており、構造変化に伴って入れ替わるので、病気になる心配はないとされている。

 だけど、ダメージは確かに入る。そして、レベル3の僕にとって、2層のモンスターから受けるそれはかなりの激痛だ。


 だが――これも計算の内だ!


 僕の腕に噛みついたコウモリは、腕から離れまいと牙で吸血を続けている。残りの2匹も、好機と見たのか、こっちに飛来してきた。


「今だ!」


 僕はナイフを持っている右手を懐に忍ばせ、一枚のカードを取り出した。

 それは、ゴブリンのカードだ。


「クリティカルヒット、発動!」


 ゴブリンのモンスター効果。それは、強力な一撃を放つこと。

 初めて発動するカードで、効果は未知数。だけど、これに賭けるしかない!


 引き付けられている3匹のコウモリ。クリティカルヒットが使えるのは、一撃きり。


「いっけええええええええええ!!」


 僕は最も火力が出る位置にコウモリを引き寄せ、回転斬りを放つ。


 油断していたコウモリたちは逃げるのが遅れ、僕のナイフの軌道上にとどまっていた。

 クリティカルヒットで威力が上がった刃が、コウモリの体を貫いていく。


 1匹――2匹!


「これでとどめだあああああ!!」


 3匹目に、刃が届いた!


「「「グギィィィィィィィ!!」」」


 コウモリたちは断末魔の悲鳴を上げ、絶命した。


「これが、クリティカルヒットか……!」


 2層のモンスター3体相手を、たった一撃で倒すことが出来るなんて、とんでもない威力だ。

 一撃しか打てないから、使いどころは大事だけど……上手く使えば、逆転の鍵になる。


 息を整え、コウモリがいたところを見ると――そこには3枚のカードが落ちていた。


 このカード次第で、宝物庫へたどり着けるかが大きく変わる。


 僕はおそるおそるカードを拾い、その効果に目を通した――!!

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