第6話 大金持ちになる計画
百万ギルといえば、かなりの大金だ。二、三百万ギルもあれば、一年間生活が出来てしまう。
僕の<カード化>の能力にそんな力があるとは思えないけど――って、もしかして!
「まさか、液状化して民家に忍び込んで泥棒するとかじゃないだろうな!」
「惜しい! それも場合によってはありだと思ったんだけどね!」
「なしだよ! 普通に犯罪だよ!」
フィーテはまた『冗談だってば』と言った後、咳ばらいをした。
「アタシが考えたのは、犯罪にならない泥棒! 名付けて……『合法泥棒で大金持ちになっちゃおう大作戦』!」
さっぱり理解が出来ない。普通に泥棒は犯罪だと思うんだけど……。
そんな僕の不安をよそに、フィーテはかなり自信たっぷりだ。
「まず、スライムのカードを10枚を集めるところからね! ほら、動いた動いた!」
僕は不安を覚えながらも、フィーテの指示に従ってスライムのカードをもう一度10枚集めた。
*
「さて、目的地についたね!」
フィーテが言う作戦の『目的地』についたのは、それからさらに30分が経った頃だった。
やってきたのは、草原からさらに東に進んだ先にあるダンジョンだ。
「なんでまたいきなりダンジョンに? 悪いけど、ダンジョンのモンスターとはまだ戦えないよ?」
草原は、この辺りでは最も攻略難易度が低いスポット――言い換えれば、モンスターが一番弱いところだ。
ダンジョンは迷宮のようになっており、下の階層に進めば進むほど、強力なモンスターが出現するようになっている。
だが、僕はせいぜい1層のモンスターと健闘するくらいだろう。
「大丈夫! だって、レシオは敵と戦わなくても移動できるでしょ?」
「もしかして、液状化のことを言ってる?」
確かに、液状化を使えばモンスターに見つかったり、攻撃されたりしないでダンジョンの中を冒険することが出来るけど……。
「でも、なんでそんなことをするの?」
「聞いたことない? 『ダンジョンの宝物庫』の話」
そういえば聞いたことがある。
ダンジョンには時々、『宝物庫』と呼ばれる不思議な空間が生成されるという。
ダンジョンは日によって構造を変える。だけど、宝物庫は必ず5層に発生するらしい。
宝物庫の目印は、頑丈そうな金属製の扉。それはこの世の金属とは思えないほど固く、どんな手練れでも破壊できないらしい。
では、どのようにその宝物庫に入るのか? と言うと、ダンジョン内のどこかにある鍵を使用することで中に進むことが出来る。
鍵の場所はランダム。意外に浅い層にあるかもしれないし、最深部付近でひょっこり顔を出すかもしれない。
そんな場所に行くのはめんどくさいと感じるかもしれない。だけど、それには見合ったリターンがある。
宝物庫の中には、ダンジョン産のレアアイテムが入っているのだ。
アイテムは人工のものではなく、一点ものであることもある。だから、市場に出されればかなりの値が付く。一攫千金だって夢じゃない。
「つまり、フィーテが言いたいのは……液状化で宝物庫の中に入って、中のアイテムを泥棒するってこと?」
「そういうこと。宝物庫のアイテムは人の物じゃないから、盗んでも犯罪じゃない! はい完璧!」
確かに液状化なら体が小さくなるし、扉の間に隙間があれば出入りすることは可能だ。
「作戦はこう。2人で協力して1層を攻略して、2層からは、レシオが一人で液状化して5層の宝物庫を目指す。そして、中のアイテムをこのバッグに入れて戻ってくる!」
そう言うと、フィーテは自分の腰につけていたウエストポーチを俺に手渡した。
「これは?」
「拡張ポーチ。ただの小さいバッグに見えるけど、見た目よりたくさん物が入るんだよ!」
なるほど、液状化しても身に着けている物は消えない。持ち運べないような重いものでも、ポーチに入れてしまえば移動は可能だ。
「確かに筋は通ってるけど……そんなに上手くいくかなあ?」
「やってみなきゃわからないよ。レシオが考えるべきことは、5分が経過したら宝物庫が見つからなくても戻ってくること」
もし、2層以降でスライムのカードが切れてしまえば、僕はモンスターに殺されてしまう。
「……やってみよう。強くなれるチャンスかもしれないんだ」
僕たちはダンジョンの中に入ると、連携で1層を攻略した。
ダンジョンの中はかなり広く、1層を攻略するのに、モンスターとの戦いも含めて10分ほどかかってしまった。
モンスターとの戦いを避けたうえで、1層当たり1分で攻略するのはかなりギリギリのチャレンジだろう。
「頑張ってね。でも、命だけは大事にして。レシオがいなくなったら……アタシ、寂しくなる」
「ちゃんと生きて帰るよ。終わったら報酬でご馳走しないとでしょ?」
「……うん。期待してる」
僕はフィーテに見送られながら、2層に続く階段を進む。
僕が大金持ちになれるか。これまでと同じ人生を歩むか。
アイシリアに振り向いてもらえるような冒険者になれるか。死んでモンスターの餌になるか。
その分岐点となる戦いが、始まるのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます