第5話 見えてきた展望

――


 レベルが3になりました。


――


「すごいよレシオ! まさか、液状化をあんな風に使うなんて!」


 フィーテが僕のところまでやってきて、肩を揺らす。


 液状化の活かし方。それは、攻撃を回避することだ。

 液状化すると、僕の体はスライムの大きさと同じくらいの液体に変化する。すなわち、ダメージを受ける面積が小さくなる。


 そして、相手の攻撃を躱した隙を突いて、一撃。


 なんとなく見えてきたぞ、モンスター効果の使い方が……!


「ねえ、ゴブリンもカード化したんでしょ? ちょっと見てみようよ!」


 フィーテに言われて気づいた僕は、ゴブリンが転がっていた場所に落ちているカードを拾った。


――


ゴブリン レア度:ノーマル (10)

①ゴブリンを1体召喚する。

②『クリティカルヒット』……強力な一撃を放つ。


――


「強力な一撃? また曖昧な表現だね……」


「これも試してみないとかな」


 僕はゴブリンのカードを懐にしまうと、少し息をついた。


「どったの? 疲れた?」


「そんなところかな。ちょっと休憩したい」


 これまでスライムしか倒せなかった僕が、いきなりゴブリンを倒してレベル3にまでなったんだ。

 ここ30分くらいの密度が高すぎる。さっきの戦闘も相まって、かなり疲れてしまった。


「だったら、スライムのカードで実験してみていい? 悪いようにはしないからさ!」


「そういえば、さっき試したいことがあるって言ってたよね。いいよ」


 僕はフィーテに9枚のスライムのカードを手渡した。

 初めてカードに触れて、フィーテは心なしか嬉しそうだ。手触りをじっくりと確認している。


「よーし、それじゃあ実験その1――液状化、発動!」


 フィーテは右手にカードを握ると、高く掲げて宣言した!


 なるほど、僕のスキルで作られたカードを、フィーテでも使えるのかという検証か!

 確かに、これはどうなるか気になるな……結果はどうなるんだ!?


「…………あれ」


 宣言から数秒。フィーテの体は変わらず、人間のままだ。


 検証結果。フィーテはカードを使えない。――おそらく、フィーテ以外の人も。


「ちぇ、なーんだ。アタシも液状化してみたかったのにな」


「液状化なんかしても楽しくないよ? なんか、変な感覚というか……」


「そうじゃなくて。レシオ以外の人もカードを使えるなら、レシオはカード業者の元締めになれると思ったの。出す人は1枚10万ギルくらい出すんじゃないかなあ?」


「おい! 人のカードを勝手に売り物にするなよ!」


 フィーテは『冗談だよ』とウィンクをして茶化す。


 本当に冗談かは怪しいけど――とにかく、カードが僕にしか使えないというのは、重要な情報だ。


「じゃあ、次の実験。はい、これ使って」


 フィーテは僕にカードを戻し、液状化するように促す。


「また液状化? もうちょっと休ませてくれるとありがたいんだけど……」


「仕方ないじゃん、カードはレシオしか使えないんだから。で、試したいことっていうのは、液状化の制限時間なの」


 なるほど、確かに液状化することはわかったけど、時間に制限があるかは試してなかったな。

 僕はゆっくりと立ち上がると、モンスター効果を発動する。


 宣言と同時に視点が一気に低くなる。この感覚にはしばらく慣れそうにない。


「ね、ついでで悪いんだけどさ。液状化した状態で動くことはできる?」


「出来るよ。ほら」


 体は人間の時とはまるで違うけど、なぜか感覚的に動かし方がわかる。

 僕はドロドロの状態で草原を動き、フィーテに見せてみる。


「なるほどね、思考もしっかりできるんだよね」


「もちろん。こうやって会話もできてるだろ?」


 フィーテはふーん、と唸った後、少し考え事を始めた。


 状況が変わったのは、液状化が発動してから少ししてからだった。


「……うわっ!」


 視点が突然高くなり、液状化が解除されたのだ。もちろん、自分で戻した覚えはない。


「ざっと1分ってところだね。制限時間」


 しばらく黙って考え事をしていたフィーテは、ようやく口を開く。

 フィーテはうんうんと数回頷くと、僕の肩を両手で掴んだ。


「……よし、これならいけるよ!」


「いけるって……何が?」


「液状化の使い方、思いついたの! 多分、上手くいけば数百万ギルは稼げると思う」


 す、す、す――、


「数百万ギル!?」


 僕の驚きの声が、広い草原に響き渡った。

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