第4話 法則と死闘
レベルが上がった影響か、スライムの動きが心なしか遅く見える。
それに、僕自身のスピードも上がっているようだ!
「おっと!」
ナイフで捉え損ねたところに、スライムのカウンター。だが、今度は吹っ飛ばされなかった!
「これなら、いくらでもいけそうだぞ!」
よく集中して――ここだ!
僕が放った横なぎの一撃は、スライムの体の芯を捉えた。ナイフの刃がスライムの体を貫く。
「よしっ!」
フィーテが会心のガッツポーズ。僕がナイフを引き抜くと、スライムの死体はカードになっていた。
「スライムのドロップ品はアタシが回収しておくから、レシオは討伐に集中していいよ!」
「ありがとう! じゃあ、そうさせてもらうよ!」
こうして、僕がスライム退治を、フィーテがドロップ品であるスライムの核の回収を担当することになった。
僕はスライムを倒せる喜びに身を任せ、次々にスライムをカードにしていった。
30分ほど経ったあたりで、不思議なことが起こった。
「あれ……?」
「どうしたの? ちょっと休憩?」
「いや……スライムがカードにならなかったんだ」
さっき倒したスライムは、確かに僕が100%ダメージを与えたものだ。
ここまでのパターンだと、死体がカードになるはずなのに、いつになっても変わる気配がない。
「……ねえ、今カードは何枚になったの?」
「えーっと、いち、に……10枚だ」
「もしかして、これのせいじゃない?」
フィーテは、カードの中のある部分を示した。それは、(10)という数字。
「これ、一度にカード化できる枚数ってことじゃない? 10枚になったから、カード化しなくなったとか」
「確かに、それはありそう。よく気づいたね」
「アタシ、こういうの気づくのは得意なんだ!」
フィーテが腕を曲げて力こぶを作り、自信たっぷりに叩いた。
ということは、ひとまずこれでスライム討伐は終わりってところか。
「じゃあ、このカードでいろいろ試してみようよ! アタシ、この30分くらい、気になることをまとめてたんだよね!」
「人のことを実験体だと思ってない……? まあ、いいけど――」
その時のことだった。
「グゲゲゲゲゲ!!」
いびきのような鳴き声。見てみると、すぐ近くに一匹のモンスターがいた。
子どもくらいの背丈に、緑色の肌。大きく裂けた口からは、涎が垂れている。
「ゴブリンだ!」
これまでは絶対に敵わない相手として、見たらすぐに逃げていたモンスター、ゴブリン。
好戦的な性格なので、相手が僕のような大きな人間でも襲ってくる。向こうはこっちに気づいていて、もうすぐにここまでたどり着きそうだ。
「なあ、フィーテ。あのゴブリン、倒せるかな?」
「アタシは倒せるけど……さっきまでスライムを倒せなかったレシオには厳しい相手なんじゃない?」
ゴブリンは、スライムよりも体が大きく、回避こそスライムに劣るが、攻撃力や凶暴性が比にならなく高い。
並の冒険者にとっては雑魚でも、今の俺にとっては格上の相手だ。
――でも、やってみる価値はある!
「フィーテ、下がっててくれ。あいつと戦ってみる」
「ちょっと!? アタシの話聞いてた!? ゴブリン相手は勝てないって!」
僕はフィーテの言葉を無視し、ナイフを握りしめ、ゴブリンに向かって行った。
勝てる確証はない! だけど、試してみたい!
「うおおおおおおお!!」
僕はナイフを薙ぎ払い、ゴブリンの胴体に一閃を入れた。
ズブッ、という音がして、ゴブリンが衝撃で後ろに転がる。攻撃は効いているようだ。
「よしっ!」
なんだ、思ったより手ごたえがあるぞ! これなら僕でも――、
「グゲッ!!」
と、思ったのも束の間。ゴブリンはすぐに立ち上がり、追い打ちをかけようとした僕に向かって突進をしてきた。
「レシオ、下がって!」
フィーテが忠告するが、既にゴブリンは僕の目の前まで来ていた。次の瞬間、僕の腹部に強烈な頭突きが放たれた。
「ぐはっ!」
あまりの衝撃に、僕は地面を転がる。内臓に鈍い痛みが走る。
「レシオ、後はアタシがやるから、待ってて!」
「駄目だ!」
フィーテが慌てて僕の前に入ろうとするが、すぐに静止した。
ここでフィーテに助けてもらっているようじゃ、アイシリアなんて夢のまた夢だ!
絶対に、ここでこいつを倒してやる!
「グゲゲゲゲゲ!!」
「また頭突きが来る!」
かなり痛いのに、こんなペースで攻撃してくるのか! まったく恐ろしい奴だな!
ゴブリンが地面を蹴って、再び僕の体に頭突きを仕掛けてくる。
これを食らえば、おそらくもう立ち上がれない。戦力では僕の方が劣る。
だけど――僕の方が一枚上手だ!
「液状化!」
僕はカードを手に取り、大声で叫んだ。
宣言した瞬間、僕の体は液体となり、地面に落下する。
「グゲゲッ!?」
何が起こったかわからないという様子のゴブリン。奴の体は、頭突きのために宙に浮いている!
「ここだっ! 解除!」
解除を宣言すると、僕の体は人間サイズに戻る。
一方、ゴブリンの体は宙に浮いているので、隙だらけだ!
「普通に斬っても駄目なら、これでどうだ!」
僕はゴブリンの胴体にナイフの刃を突き刺した。
「グゴゴゴゴゴッ!?」
ゴブリンが溺れたような鳴き声を上げる。ナイフが貫いた傷から血が溢れ出していく。
「頼む、これで終わってくれ!」
力を込めてゴブリンの胴体に刃を刺していると――しばらくして、ゴブリンの体が力なくダランとなった。
「やった! レシオが勝った!」
フィーテが歓喜の声を上げる中、僕は息をついてその場に座り込んだ。
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