第3話 モンスター効果

「ね、なんて書いてあるの?」


「①カード化されたモンスターを召喚するに加えて、②モンスター効果を発動する、っていう文字が増えたんだ」


「とりあえずカードを見てみればいいんじゃない?」


「確かに。まずはそこからだね」


 僕は落ちているカードを手に取り、表面を眺めた。


――


スライム レア度:ノーマル (10)

①スライムを1体召喚する。

②『液状化』……自分の体を液状化する。


――


 俺とフィーテは二人で一枚のカードを見つめる。

 カードの材質は固く、大きさは手のひらに収まる程度。持ち運びは楽そうだ。


「もしかして、新しい能力が増えたってことじゃない?」


 実物のカードを見て、僕も直感的にフィーテと同じことを思った。


 つまり、能力の拡張。今まではモンスターの召喚しかできなかった。だけど、新しくモンスター効果が使えるようになったということだ。

 モンスター効果とは、この文面を読むに、そのモンスターに能力のこと。


 スキルに新しい能力が拡張されるなんて話は聞いたことがない。

 だけど、<カード化>はユニークスキルだ。もしかしたら、そういうこともありえるのかもしれない。


「このカードを使えば、レシオの体が液状化するってこと? 面白そう! やってみてよ!」


「嫌だよ! 液状化して戻れなくなったらどうするんだよ!」


「怖いの?」


「……怖くはないけど」


 でも、せっかく手に入れた初めてのカードだ。大事にしたいじゃないか。

 カードの中のスライムのイラストと目が合う。これが、僕のカード……!


 大事に持っていたいけど、もし、このカードを使うことで冒険が有利になるとしたら……アイシリアに近づくことが出来るかもしれない!


「……やっぱり、使ってみよう!」


「お、ようやく決心できた?」


「だから怖いわけじゃないって言ってるじゃん!」


 僕は深呼吸をして、カード発動のために気持ちを高める。


「……で、カードってどうやって使うんだろう?」


「アタシが考えてあげるよ! 『液状化、発動!』とか、どうかな?」


「なんでフィーテが考えるんだよ!」


 と言いつつも、ちょっとだけカッコいいと思ってしまった。

 僕は恥ずかしさを紛らわせるために咳ばらいをし、カードを高く掲げた。


「液状化、発動!」


 その瞬間だった。


「うわっ!?」


 僕の視界がいきなり低くなった。まるで、その場に倒れたような感覚――というか、これは!


「レシオが小さくなった!?」


 ――そう、小さくなったような。


「って、えええええええええ!?」


 これが、液状化の能力か!?


「レシオ、その状態で喋れるんだ……」


「まあ、一応? 今、僕どんな感じかな?」


「倒された後のスライムみたいな感じ。水たまりみたいになってるよ」


 なるほど、液状化っていうのは、倒されたスライムみたいな姿になるってことか。


「ねえ! まさかスカートの中覗いてないよね!?」


「見てないよ! っていうか、これどうやったら解除できるんだ!?」


「知らないけど、『解除』って言ったら出来るんじゃない!?」


 一生この水たまりのままは嫌だ。僕は一か八か叫ぶ。


「解除!」


 次の瞬間、視界が元の人間の状態に戻る。


「よかった……戻れた……」


 僕は緊張から解放され、その場にへなへなと力なく座り込んだ。


「で、アタシのスカートの中を見た感想は? 変態さん」


「根に持つなよ……僕だって必死だったんだから……」


 とにかく、最初のカードの使用は成功。これで手持ちのカードは0枚だけど、大きな進歩ではあった。


「ねえ、もっといろいろなカードを見てみようよ!」


 僕が一息ついていると、フィーテが目を輝かせながらそう言った。


「確かに、レベルも上がったことだし、さすがにスライムなら倒せるかもしれないしね」


「でしょ? それに、アタシ今のを見ていっぱい気になることができちゃった! 早く試したいの!」


 フィーテは興奮気味にスライムを探し始めたかと思うと、こちらを振り返る。


「ねえ、思ったんだけど、アタシがスライムを弱らせて、レシオがとどめを刺したら効率的じゃない?」


「それじゃカード化はしないんだ」


 <カード化>には、ステータスウィンドウで明文化されていない条件がある。

 その中に、カード化するには、対象のモンスターへのダメージの多くを僕が与えないといけないというものがある。


 昔、フィーテと同じことを思って、同じことを試したことがあった。だけど、とどめを刺すくらいじゃカード化はしない。

 カード化には、多くの――おそらく、最低でも過半数のダメージを与えなければいけない。


「じゃあ、さっきと同じ方法でやってみよう。ちょっとやそっとじゃスライムはいなくならないし、何匹かカードにしてみよう!」


「わかった!」


 僕はナイフを再び握ると、近くにいたスライムの元へ走る。

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