第35話 黒川君が壊れる一話前
そういうわけで翌日の放課後、俺と変態三人組は掃除の合間にドラハンをする為、超科学部の部室に集まっていた。
ちなみに掃除の進捗だが、部屋自体は大体片付いており、後は西園寺の分別と、大量のコレクションの清掃だけである。
「放課後の学校でゲームとか、悪い事してるみたいでわくわくするね!」
西園寺がお昼寝に使っているというデカいソファーに横並びになり、白崎が言う。
ムカつくが、俺も同じ意見だった。オートロックだから先生に見つかる心配はないのだが、それでもかなりドキドキする。
「じゃじゃ~ん! 見て見て黒川きゅん、私のシュワッチ、ドラハンの限定バージョンなんだよ?」
ドラハン風の革製のポーチから白崎がシュワッチを取り出す。
艶消しの黒に金色で和風のドラゴンの絵が描かれており、かなりかっこいい。
が、学校一の美少女にはまるで似合っていない。宝の持ち腐れだ。
「じゃああたしは、世界に一つだけのオリジナルデコシュワッチだし?」
対抗するように一ノ瀬が取り出したシュワッチは、ラメやビーズをふんだんに使ってアニ森風のドット絵が描かれている。
「うぉ!? マジかよすげぇ! なにこれ、超かわいいんだけど!?」
「あ、あんがと……。そんな褒められると、ちょっと恥ずかしんだけど……」
一ノ瀬が頬を赤らめる。
俺は俺で、迂闊な真似をしてしまい恥ずかしさで赤面していた。
だってアニ森だし、本当によく出来ていて可愛いのだ。不覚にも、一ノ瀬の事を少しだけすごいと思ってしまった。
「か、勘違いするなよ! 可愛いのはゲーム機で、一ノ瀬の事じゃねぇからな!」
「いや、そんな事分かってるけど。なに黒川? ちょっと落ち着けって……」
一ノ瀬がちょっと引いている。
あぁ! 焦ってわけのわからない事を言ってしまった!
「………………むぅ!」
「痛い!? なに桜!? なんで今あたしのお尻抓ったし!?」
「アンちゃんが無自覚に私の彼氏を誘惑したからだよ。もう、限定バージョンで黒川きゅんの興味を引く作戦が台無しだよ!」
ジト目の白崎が頬を膨らませ、一ノ瀬のデカ尻を抓り上げる。
「いだだだだだ!? なんかわかんないけどごめん!? もっとして!」
もっとしてじゃねぇよ! あと、確かに限定バージョンはかっこいいけど、別にそこまでじゃねぇから。俺の興味を引きたかったら一ノ瀬クラスのを用意しろな?
「ふっ。その程度でオリジナルとは片腹痛い。ボクのシュワッチは3Dプリンター使って一から再設計した真のオリジナルだ! バッテリーも増量して、処理速度も増し増しだ。名付けて、シュワッチV2アサルトバスター!」
西園寺がデデデデーンとシュワッチを頭上に掲げる。
てかこれ、シュワッチなのか? 形が全然違うんだが。コントローラーの部分が西園寺の手の形に凹んでてなんかキモいし、色も真っ白で全然可愛くない。
「ぁ、うん。よくわかんないけどすごいね」
「よくわかんないけど、なんでこんな変な形なの?」
「よくわかんねぇけどセンスないな」
「なぜだああああああああ!?」
その後西園寺は真っ赤になって人間工学が云々、本体スペックがどうのとほざいていたが、難しすぎてさっぱり理解出来なかった。どうでもいいが。
「く、くそう! そこまで言うなら、黒川君のシュワッチはさぞ立派なんだろうね!」
「いや、俺のは別に普通の……あっ」
……やばい。
そういえば俺のシュワッチ、母親が誕生日に買ってくれたアニ森モデルの限定版だった!?
†
その事で三人にからかわれた後。
俺達はゲームを起動し、集会場に集まった。
「なに黒川。本名でやってんの?」
「しかも美形のショタっ子キャラだし。もしかして黒川きゅん、こういうのに憧れてたりして?」
俺のキャラを見てクソビッチツインズがからかってくる。
「う、うるせぇ! 適当に選んだだけだ! 勘違いすんな!」
母親としかやらないから、名前はそのまま『レイジ』にしていた。カタカナなのはその方がかっこいいからだ。見た目に関しては、悔しいが白崎の言う通りである。折角キャラの見た目を選べるのだ。理想の自分の姿でやりたい。こんな見た目なら、俺の人生は全く違う物になっていただろう。そんな事は口が裂けても言えないが。
「てか、お前らこそなんだよその名前と見た目は!」
一ノ瀬のキャラは座敷童みたいな黒髪のロリ幼女で、名前は『
「あ、あたしは別に、見た目の事は言ってないじゃん……」
恥ずかしそうにそんな言い訳をしていたが。
まぁそれはいい。白崎のキャラに比べたら些細な事だ。
白崎のキャラはそれこそ催眠アプリで女の子を洗脳してそうなキモい見た目の中年オヤジだった。名前は『
「私もゲームの中くらい醜い嫌われ者になりたいんだもん。この格好で野良に潜ると暴言吐かれたり攻撃されたりして楽しいし。それで大活躍してドヤるのがまた快感で……」
ダメだこの女、完全に性根が腐ってやがる。てか、私もってなんだよ!
そんなのと一緒にするんじゃねぇ!
で、最後に西園寺だが……。こっちは二メートルはありそうなガチムチのイケメンだ。名前は『おほ丸♂』。装備は裸にふんどし。ヤバいだろ。
「勘違いしないでくれよ。君達と違ってボクはゲームのキャラに自分を投影しているわけじゃない。ゲーム中はずっとキャラの後ろ姿を見る事になるわけだから、美観にこだわったまでだ。どうだい、黄金律に基づいて設計されたおほ丸♂のプリケツは。男子の黒川君から見ても思わず欲情してしまうくらいのイイ男だろう?」
「話しかけるな。バカが伝染る」
「なぜだ!?」
†
一々変態の相手をしていたら話が進まない。
西園寺は初心者なので、経験者の白崎に初心者向けのクエストを選ばせて出発する。
ちなみに西園寺だが、白崎に誘われて昨日の晩に初心者講習会をやっていたらしい。
なんやかんや一ノ瀬もそこに混じり、実は俺も誘われていたのだが、母親と遊ぶ予定だったので適当な事を言って断っていた。
おかげで最強装備とは言わないまでも、序盤で作れる支援型魔笛の強い装備が揃っている。母親が俺の為に色々調べて装備集めを手伝ってくれたのだ。全く、頼りになる母親である。お返しに、ゲームの後に三十分程肩を揉んであげた。
キャンプに降り立つと、白崎が「レッツドラハン!」と叫び、西園寺が楽しそうに後に続く。
愚か者め。ゲームは既に始まっているのだ。
最近こいつらは俺の事を舐めすぎている。ここらで一つ、俺が心のねじ曲がった醜い嫌われ者だという事を思い出させてやらないと!
そういうわけで、俺はいち早く支給品ボックスに駆け寄り、中身を独り占めにした。
はっはっは! ざまぁ見ろだ!
「あ! アイテムないし! 黒川、一人で全部取っただろ!」
「残念だったな、こういうのは早もの勝ちなんだよ!」
「もう! ガキみたいな事言ってないでちゃんとみんなでわけろし!」
「いいよアンちゃん。簡単なクエストだから持ち込み分だけで足りると思うし。黒川きゅんが欲しいって言うなら譲ってあげよう」
白崎の言葉に二人がニンマリする。
「あぁそっか。黒川はゲーム下手だから、手持ちだけだとポーションが足りないって事か。それじゃ~しゃ~ないな」
「ふっ、この程度のクエスト、初心者のボクでも持ち込みアイテムだけでクリアできるというのに。全く、黒川君は見かけによらず情けないな」
「ながっ!?」
白崎の奴、余計な事を!
「べ、別に俺だってこの程度のクエスト楽勝だし! 勘違いするんじゃねぇ!」
余った素材でお供猫のライオンハートの装備も強化してある。
あいつがいればこんなクエスト、一人でだって楽勝だ。
真っ赤になって反論する俺を、白崎がニコニコしながら眺めてくる。
「うん、わかってるよ。黒川きゅんは支援装備だから、私達の分もアイテムを使って回復してくれるって事だよね?」
一瞬、は? っとなるが、そう言えば俺のキャラは装備スキルで使ったアイテムの効果が味方にもかかるのだ。それでお供猫を回復したり強化して戦うのが俺の戦闘スタイルなのである。
「……あ、当たり前だろ! 俺が手を出したら簡単にクエストが終わっちまうから、サポート役に回ってやるんだよ! ありがたく思え!」
「本当かよ」
「ブローノ君三号を使うまでもなく嘘くさいな」
「うるせぇ! とっとと行くぞ!」
四人でお供犬に跨り狩猟目標である雑魚ボスドラゴン、サイステールの元へと向かう。
こいつは二足歩行の大きなトカゲみたいなドラゴンで、先端が大鎌みたいになった長い尻尾を振り回して攻撃してくる。雑魚オブ雑魚みたいなボスドラゴンである。
さて、目的地に着くまで少し時間があるから、愛猫自慢でもしてやるか。
そう思い辺りを見回すのだが……いない!
俺の自慢のライオンハートはどこに行った!?
「どうしたの黒川きゅん? 急にソワソワして。おしっこ?」
「ちげぇよ! 俺の可愛いお供猫がいないんだよ! クエストの時はいつも付いてきてくれるのに! もしかして、バグで消えちまったのか!?」
俺は慌てた。だってライオンハートは前作の最初から苦難を共にした大事な相棒なのだ! 不甲斐ない俺を何度助けてくれた事か! モンスターの注意を引きつけ、俺がピンチの時は身代わりに攻撃を受けてくれさえする。本当に頼れる奴なのである。もしなにかの間違いで消えてしまったら、ショックで一週間は寝込むだろう。
「……ぷふっ」
俺は本気で焦っているというのに、人でなしの白崎は吹き出して口を押さえた。
「なにがおかしいんだよ! こっちは笑いごとじゃねぇんだぞ!?」
「ご、ごめんね黒川きゅん、ふふ、あははは、わ、悪気はないの……でも、それ、可愛すぎだよぉ……」
込み上げる笑いが堪えられないとでも言うように、白崎は身体を折り畳んでピクピクと震えている。
気が付くと、一ノ瀬と西園寺が憐れむような顔で俺を見つめていた。
「なんだよ!」
「いや……言いづらいんだけどさ」
「黒川君。このゲームは、三人以上の時はお供猫はついて来ない仕様だ」
「…………え」
マジかよ。母親としか遊んだことないから知らなかったんだけど。
恥ずかしくて、俺も白崎みたいに身体を曲げて顔を伏せた。
「あぁぁん、私の彼氏、可愛すぎぃ!」
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