第4話 決戦は水曜日

 化粧を変える。


 ファンデーションをパウダータイプから、リキッドタイプに。眉毛は黒でくっきり強い印象に書き換える。アイシャドウはラメが多めの焦げ茶に変えて、アイラインをガッツリ書き込む。口紅は赤いリキッドルージュ。化粧品は全て海外ブランドでまとめた。匂いはキツイがやっぱり発色が綺麗だ。


 ピンクのブラウスを脱ぎ、襟の高いストライプのYシャツに着替える。ふんわりスカートはタイトな膝上スカートに。ストッキングは濃い目のブラウン。ヒールの高さは10cm。ここは頑張ってルブタンを履いてみた。赤いヒールが強い女をイメージできてかっこいい。鞄は悩んだけどグッチにした。ミドル丈のバーバリーのスプリングコートを合わせる。アウトレットで30%OFFで売っていた。去年の商品だけど、それが良い。


 鏡を覗く。チークとマスカラを忘れた事に気付いて追加する。悩む所だけどチークはパール多めのロゼにした。マスカラは多めに塗ってみた。


 うんうん。良い感じ。鏡を見て納得する。

 コンセプトは40代役職者のできる女。男を寄せ付けず、ご飯は一人で食べる。そんな雰囲気。


 今日はノー残業デイの水曜日。私の監視対象者の黄金崎さんは定時で帰り、アパートにまっすぐ帰った。そして街に出た。向かった先はワインバー。私はこれからそこに向かう。


 どうして黄金崎さんに居場所が分かるのか?それはスマホをハッキングしたからよ。


 黄金崎さんは職場のWi-Fi使っていたから簡単だった。正直、これはちょっと残念。本当に浮気するなら徹底的にバレない様にして頂きたい。そうしてもらえないと私が楽しくないじゃないか!


 それでも黄金崎さんは合格点の人。だってSNSにも、メールにもどこにも浮気らしい証拠を残していなかったもの。安易な浮気をする人は、安易な方法で会おうとするわ。そしてバレてしまう。浮気なんてやっちゃいけない事なんだから、バレない様工夫する努力が必要よね。


❤︎


 黄金崎さんのいるワインバーに着いた。

大通りから一歩入ったお店。雰囲気はレトロで良い感じ。会社から4駅離れてる。この駅周辺には会社の人も住んでない。


 やっぱり良いわね。黄金崎さん。お店選びも悪くないわ。


 店内に入るとカウンターに座る黄金崎さんを見つけた。横には女性。入って右手にあるカウンターの角に座る黄金崎さん。その奥に女性。その先の椅子は空いている。つまり、知り合いに会っても、自然に席を離せる訳ね。考えすぎてる作戦も良いわね。ちょっと考えすぎだけど。


 水曜日なだけあって、客は少なめ。


 私はお一人様だから、カウンターを選択。そのまま入り口正面の真ん中の席に座る。渋いちょび髭マスターからメニューを受け取り、お礼を言いながら、オススメなどを聞いてみる。

 そしてメニューを見る振りをしながら、そっと横目で、お相手を見る。これが一番楽しい瞬間。


 さて、どんな女性……?


「お決まりですか?」とちょび髭マスターに聞かれる。


 私は辛口のイタリア産の白ワインと、ピクルスの盛り合わせ頼む。


 そして、最低、と心の中で呟いた。 

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