第2話 挨拶は元気に、でも照れは必要です!
岩崎さんと事務所に入った後、私は会議室で所長と2度目の対面を果たした。1度目は面接の時にお会いした。その時も岩崎さんと一緒で同じ会議室を使った。そして改めて所長を見て思う……。
カツラだよね?
たぶん高級カツラだとは思う。あまりにも自然だもの。でももみあげにちょっと違和感がある。白髪の感じが不自然。やっぱりどんなに高くても違和感は隠せない。余計なお世話だと思うけど、全国のカツラのおじさん!カミングアウトする勇気も必要よ?
「天崎さんの引き継ぎは、面接で話した様に1ヶ月もあるから、安心してね」
カツラの所長がニッコリ笑いながら言うので私もニッコリと笑顔を返す。
1カ月もある?どこに行っても言われるこの言葉に、表面上は笑顔で返すのが大人の対応だ。
でも考えてみて?社員さんが何年間か働いて得たスキルよ。それを1カ月で習得したら、社員さんの立場なくない?その人の何年間は無駄って事になるでしょう?
もちろん、私は優秀だから、1カ月で十分よ。でもそうじゃない人も多いのよ。ここは人として、1カ月も、じゃなく1カ月しか、と言って謝罪の一つでもする所よね。
カツラ所長の言葉の端々でイラつくけど、表面上は出さず笑顔で接する。だって私は浮気探偵(仮)だから!演技なんてお手の物だ!
「じゃあこの後、天崎さんを皆に紹介するから」
カツラ所長の一言で、変なネクタイの岩崎さんは帰って行った。しまった、どこのブランドか聞けば良かった。
そうして会議室を出た私は、カツラ所長に連れられ、所長の机の前に来た。カツラ所長が皆に声をかけ、私と所長の前に円になって集まる。
「今日から働いてもらう天崎さんだ。産休を取る橋本さんの代わりに働いてもらう。みんな分からない事とか教えてあげて下さい」
さぁ、天崎さん、とカツラ所長に促されたので、ぺこりとお辞儀をして社員の皆さんに自己紹介をした。
「天崎美琴と申します。商社での勤務経験は少なく、不慣れな点もあると思いますが、頑張りますのでよろしくお願い致します」
私はなるたけハキハキと、でも頑張ってる感じを出しながら挨拶する。ここで必要なスキルは若さを利用した照れだ。私にとって頬を赤く染めるなんて造作もない事だ。
カツラ疑惑の所長が一人一人を紹介してくれた。
A課長。ぷっくりしたお腹がベルトに乗ってるわ。銀縁メガネが似合ってるわね。興味なし!
B係長。背が高くて余裕がありそうなイケメンね。モテそう〜。興味なし!
C主任。あ〜。高学歴だけど、仕事できない系っぽい。神経質そうなオタクね。興味なし!
Dくん。新入社員かな?黒縁メガネの真ん中をクイって上げてこっちを見る。自分に自信がある系の勘違い男ね。興味なし!
腕に光る時計はタグホイヤー。そして来た‼︎左手の薬指には光る指輪。
うんうん、良いね。私の勘が囁く。
黄金崎さん、あなた浮気してるでしょ?他の誰を騙せても私を騙す事はできないわ!
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