エッセイ:白杖

 ☆

 

 ☆白杖はくじょうを片手に三人の若者が円陣を囲み何やら雑談を楽しんでいるのに出くわした。その一人の脇にはハーネスを装着したラブラドール・レトリバーがピタリと寄り添っていました。


 そうか、彼らは盲学校に通う学生さん達だ、と思いました。彼らが楽し気に会話する仕草は遠目に視ても実に微笑ましく笑顔が美しく思えるのです。思うに彼らは授業を終えると門前に集まり「どうだい、一緒に食事に行かないか?」などと相談をしているのだろうかと思えました。すると、盲導犬を連れた若者が先頭に立つと一列一体という隊列を組みました。隊列は健常者のそれではなく先頭の人の後ろについた人は先に立つ人の衣服の腰の辺りの・・そう、裾を掴んだのです、そして、それは次々に前の人の衣服の裾を掴み一列一体の体ていを成しました。


 そして一ィ、二ィ、と声を掛け合いながら歩調を合わせ目的地へと向かい行くのです。なるほど・・このような一列一体ならば誰一人としてはぐれたり取り残されることなく同時に目的地へと到着できると感心したものです。

☆☆☆☆


 ☆またある時、高齢者の男性が白杖を箒ほうきで足元を払うように左右に振りながら同じところを行っては戻るを繰り返す場面に出会ったことがありました。その光景を見て「道に迷っているな」と思いました。

 それはY路地の片側で道路工事が行われ騒音で方向が掴めないのだろうと思いました。そこで彼の正面に回り事情を聴くと、やはり彼は道に迷っていたのです。

 このまま先に進むとY路地の交差点まで約10メートですよ。交差点で工事してますから左折通行出来ません。ですから、そこは右斜め前に、いや、2時方向にだけ進めます。と伝えると白杖を左右に振り足元を確かめながら交差点を抜けた二時方向へと進んでいったのです。

☆☆☆☆

 ☆何年か前にとんでもない事件があったんです。

 あろうことかすれ違うとき白杖が体に当たったと激高し視覚に障害のある70代男性の胸ぐらをつかみ殴ったという報道です。

 これには驚きました。これは信じられない事件ですよ!

 容疑者は60代の男だといいます。彼は白杖の意味を全く理解していないのかと実に情けなくなりました。健常者である男は白杖を持つ男性とすれ違う直前に男性を確認している、いや視認しいる筈です。視認していたならばですよ、前方からくる相手は白杖を使わなければ歩行できない視覚障害者だと認識し道を譲ることで衝突は避けられたのです。

 気づかずに当たることもあると思います。誰しもが考え事に集中しながら歩くこともあるからです。


 ですから、この男が白杖の使用目的を理解していれば事件は起こらなかったと思うのです。白杖の意味を知った上での暴行事件だとすればもはや呆れ果ててしまいます。厳罰に処すべき事例であると考えます。

☆☆☆☆

 白杖を両手で持ち胸元に掲げているポーズは 助言を、助けを求めている合図です。

 自分が何処にいるのか解らない場合、たとえばトイレの位置が解らない、進行方向を見失ったときとかに助けを求めるサインです。お声掛けしたいですね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る