第53話 飛び降りた

「ハァ?……飛び降りる?……」真琴は、下を見つめた。

「そう、君は生きてるからね。上から出られない」

 パイロが真琴を見上げる。真琴は動こうとはしない。

「俺が先に……アレ?」と言って響介が屋上から飛び降りようとしたが、浮いている。

 絢音も飛び降りようとしたが、響介と同じ様に浮いていた。

「降りられないよ。死んでいるんだから。

 君たちは、まだ準備が出来ていないから。もう少しすると、上に行けるさ。あの赤ん坊と同じにね」

 パイロは、白い球体の方に上がって行く赤ん坊を指さす。

「あっ、赤ん坊に見えるけど、実際は別の姿をしている。君たちにわかりやすいように、イメージとして赤ん坊に見えるようにしておいたよ。

 別の世界では、身体を得ることが出来るが、選べない。もちろん性別も選べない。

 初めて別の世界に行く赤ん坊は、頭の中に宇宙を入れられる。

 分かりやすく言えば、得意なものだな。スポーツとか音楽や小説とかさ。

 別の世界に生まれた時、頭の中の何が入っていたか忘れてしまう。

 生まれる時は、苦しいからね。

 別の世界で育って間に、気づくかもしれない。

 それに気づいた者は、すばらしい力を発揮するようだ。

 君たちは、初めてじゃないので、頭の中に入ってるよ。なんとなく自分に向いているもの分かってるだろ」

 パイロは、わかった?と真琴たちを見た。

 そうなのかと、響介と絢音は、落ちないことを確かめていた。

 跳ねてみたり、寝そべってみたり、色々試していた。

 真琴は、そんな響介と絢音を見て、楽しそうだと思ってしまった。

 自分もやってみたくなった。

「えい」と真琴が屋上から、外にジャンプした。

「あああ!」

 パイロが叫んだが間に合わなかった。真琴は、そのまま落ちて行った。

「真琴ぉ!何やっているんだぁ!」響介が叫ぶ。

「だいじょうぶぅー!」絢音も慌てて声をかけたが、真琴はすごい勢いで落ちて行く。

 その時、真琴たちを影が覆った。バルバルスだ。

 真琴を羽の生えたバルバルスが追いかける。

 絢音たちがその様子を見つめる。

 真琴の方が早い、バルバルスがどんどん離されていく。

「ほらね、追いつけないだろ」パイロが言う。

「ほんとだぁ」響介が呟く。

「あいつ、何かってにやってるんだ。挨拶もしないで」

「バカっ」絢音も落ちて行く真琴を目で追った。

「どこに向かっているんだ?」

「多分、地下鉄。最初は、地下鉄だっただろ。

 君たちもノウムと同じように、準備した方いい。消えかかっている」

 パイロの言葉に、響介と絢音がお互いに姿を確認した。確かに、透けてきている。

「さぁ、下に戻ろう」

 パイロは、扉を開けた。響介と絢音も後に続いた。


 真琴は、ただただ驚いていた。

 上を見ると、響介と絢音が小さくなっていく。

 後ろに、羽の生えたバルバルスが追いかけて来るが、速さが全線違う。

 パイロの言った通り、バルバルスは追いつけないだろう。

 真琴は、落ちて行く方を見た。

 白い塔に来た道を辿っているようだ。

 つまり、あの地下鉄だ。

 考えてみるとそうかもしれない。

 別の世界へ戻るのだから。

 戻るのは、僕だけだ。

 響介や絢音は、死んでしまっているはずだ。

 どうしたらいいのだろう。

 二人の両親にどうやって説明したらよいのだろうか?

 信じてもらえないだろう。

 あっ、二人に挨拶をしていなかった。

 両親に伝えたい事を訊いておけばよかったのに……。

 何やってるんだ、僕は。

 真琴は、考えている間もすごいスピードで落ち続ける。


 羽の生えたバルバルスから、銀の創造主に映像が送られていた。

 エスピラールの屋上の映像だ。

 バルバルスは、エスピラールの周りを旋回していた。

 真琴たちが写る。

「この世界から出してはいけない!」銀の創造主が呟く。

「エスピラールには、手出しできません」と、ひざまずいた家来が頭を上げずに言った。

「分かっている。彼らは、必ずエスピラールから離れるはずだ。

 そこを……そこを狙うのだ。スーパーバルバルスは、出来ているのか?」

 創造主の声は、地の底から聞こえるようだ。

「出来ています」

 銀の創造主は、映像に目をやる。

 屋上に居る四人の映像が写っている。

 その内、二人が屋上からエスピラールの外に出たが、浮いている。

 もう一人、外に出た。

 すると、あっという間に落ちて行った。

「あれだ、ヤツを追うんだ!」創造主が叫ぶ。

 羽の付いたバルバルスが後を追うが、引き離されている。

「あの方向にあるものは、なんだ?」

「地下鉄かと」

「それだ!スーパーバルバルスをそこに向かわせろ!」

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