第46話 白い塔に帰って来た

 真琴たちは、コロニクスとロブスによって開けられた壁の穴から、白い塔で移動に使われる透明な球体に乗り込んだ。

 部屋には、動きを止めたバルバルスとハエ型ドローンが散らばっている。

 そして、ノウムの残骸。

 球体は、ゆっくりと銀の塔を離れた。

 パイロとオピフは、取り残されたノウム残骸を見続けていた。

 やがて視界から消え、銀の塔の全体が見える。

 穴が開いた場所は、銀の塔頂上から少し下がったところだった。

 綺麗な銀の塔に開けられた穴だけが目立った。


「みんな、揃っているか確認してくれ!」

 コックのコクウス、パテシエのドウルケ、和菓子のコクトウ、パウロ、ウビークエ、オピフ、コロニクス、ロブスそして、真琴たち。

 みんな無事だったようだ。

「ケガをした者は、居ないか?」

 若者が声をかける。

「早く、お店に戻りたいんだ」

「頭の中は、アイデアでいっぱいなんだ。新作を早く作りたいんだ」

 コクウスが叫ぶ、ドウルケやコクトウも同じ気持ちだ。

「僕は、それ、それを食べたぁい」

 ウビークエとオピフが嬉しそうに話しかける。

 脱出できたことを実感し、それぞれやりたいことを叫んでいる。

 怪我したものはいないようだ。

「わかった、わかった、早くオムネ城に向かおう」

 若者は、そういって興奮を収めた。 

 みんな、それぞれの話を始める。

 料理人たちは、新しい料理やお菓子についての話。

 ウビークエ、オピフは、新しい食べ物の話を訊きながら、ワクワクしていた。

 パイロだけは、別に静かだった。

 パイロの両手で覆っているのは、パイロのメモリだ。

 パイロが、何かぶつぶつと呟いている。指と指の間から柔らかな光が漏れているように見えた。

 自分の手を見つめているのは、パイロだけではなかった。

 絢音だった。これまでも、何度か自分の手が透けることがあった。

 今回のバルバルスとの闘いでも、手が透けたために、攻撃を受けてしまった。

 コロニクスたちが助けに来なかったらと考えると、ぞっとしていた。

 響介もそうだった。

 自分たちは、もう死んでいて生き変わる準備をしているらしかった。

 それが、いつ、手から全身へと広がるのだろう。

 それまでに、真琴を元の世界に返さなければ。

 それが、今、絢音と響介が出来ること、やらなければならないことだった。

 真琴を元の世界に戻す方法は、パイロが知っている。

 早く訊いておかなくては……。

 絢音は、そっとパイロに近づいた。

 だが、パイロはじっと握りしめた手を見ている。

「パイロ、あなたに訊きたいことがあるの」

 絢音がパイロに話しかける。パイロは返事をしない。

「あとにしようか」

 響介は、絢音の肩に手を置いて、耳元でささやいた。

 絢音は、響介の顔を見て頷いた。


「先に、オムネ城に行きましょうか」と白狐が三人を連れて行った。

「おれも」と言って、若者は、白狐を追掛けて行った。


 球体は、更に上昇を続け、白い塔の庭園に降り立った。

 白狐とグルベナ、そしてメトセラが、出迎えていた。

 真琴たちとパイロを降ろした。

 入れ替わりに白狐が乗って来た。

「オムネ城に行きますよ」と白狐。

「はぁーい」元気良い返事、まるで幼稚園の遠足の様だ。

 

「お帰り、無事で良かった。さぁ、話を聞かせてくれ」

 グベルナが庭園のガゼボに案内し、全員が席に着くのを見届けた。

「何という事を仕出かしたのだ。勝手に銀の塔に向うとは……」

 グベルナは、真琴たちを一人ひとりを見つめた。

「ああ、危ないところだったな。ぎりぎりだ。もっと早く呼べよ」とコロニクス。

「お前、知っていたのか?」とグベルナがコロニクスを見ると、コロニクスは「いいえ」と言って視線を膝に落とした。

「ごめんなさい」

 絢音が最初に声をあげ、真琴と響介も体を縮こませて頭を下げた。

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