第47話 ノウムと話す

 庭園のガゼボに全員が席についていた。


「行方不明になっていたコック、パテシエ、パイロを連れ戻してくれた。ありがとう」

 グベルナが、礼を述べた。真琴たちが、功績を称えられたと微笑んだ。

「だが、もう無茶はしないでくれ。とても危険なのだ」

 グベルナは、真琴たちを見渡す。真琴たちは、顔を上げられない。コロニクスも一緒だ。

「では、話を訊こうか」真琴たちに合図をした。

 真琴たちは、行方不明の人たちを探しに行ったことを話した。

 絢音は、真琴の元の世界に戻すために、パイロに会わなければいけないことも。

 どうやって銀の塔に侵入したか、銀の塔で何を見たかを話した。

 だが、絢音たちがなぜそれを急いだ理由は話さなかった。

 絢音と響介の体が透けてしまい、時間がないことを。

 そのことを話すと、真琴が二人のことを気にしてしまうから。

 真琴がこの席にいるからには、口に出せない。

 黙って下を向き聞いていたグベルナが顔を上げた。

「訊きたい事は、いっぱいあるが……、銀の創造主とやらに訊かなくては、わからないな」

 グベルナは、しばらく沈黙し考えると、「爺は、知っているだろうな」と呟いた。


「あっ、分かるかも」と突然、パイロが声を上げた。みんなパイロに注目した。

 パイロは、自分のポケットから、ノウムのメモリを取り出した。

 そして、自分の額にエィと張り付けた。

 メモリから、じんわりとオレンジ色の光が見られた。

「これで、ノウムと話せる」みんな、パイロを見つめる。

「そんなことができるの?パイロ」

 絢音は、パイロが不思議に思っていた。どんな能力を持っているのか。

 真琴を元に世界へ戻すことが、パイロには出来るのだろうとじっと見つめた。

「僕には、出来るんだなこれが……」

 パイロが胸をはる。

「ノウム?誰だ?」

 グベルナとコロニクスが訊いた。

 パイロが、人間に憧れていたスーパーAIのノウムの話をした。

 色々とコックたちの世話をしてくれたり、バルバルスの奇襲攻撃の時にかばってくれたことも。

 そして、バルバルスとハエ型ドローンの攻撃で破壊されたことも。

 パイロが、身体を壊されたノウムのメモリを持ち帰ったことまで話した。

「じやぁ、話してみてよ」というとノウムは目を閉じた。

 額のメモリが、強い光を発している。

 パイロがパチッと目を開けた。瞬きをせず、焦点が定まらない。

 みんな、顔を見合わせた。


「君の名前は?」

 グベルナがパイロの顔を覗き込み訊いた。

「……私の名は、ノウム」

 ノウムだ。みんな驚きを隠せない。

「君の事を教えてくれないか」グベルナが優しく訊いた。

 ノウムが語り始めた。

「私は、銀の塔の創造主によってつくられた人工知能である。今までに考えてきたことや進化し続ける人間の全てを学習し、銀の創造主に報告するのが私の仕事である」

「なぜ、コックやパテシエを誘拐した?」

「誘拐?銀の創造主からは、誘拐したとは聞いていない。ただ、銀の塔に人間が居るので、面倒を見てくれと言われた。だから、コックたちと話をし、必要なものや情報を与えて世話をしていた」

「なぜ、コックやパテシエが、居るのか?」

「理由は訊いていない。居るから居たのだ。その者の世話をするのが仕事だ。それと人間をより理解するための情報収集のためだ」

「そうか、理由は訊かない。他にどんな指示があったのですか?」

「……全てを話すことは出来ない。創造主の許しがなければ……」

「何を言っている。許しなんか必要ないのだ。君はなぜここに居る。バルバルスの攻撃を受けたんじゃないのか?」

 グベルナの声が、大きくなる。

「……」ノウムは、うなった。

 そうだ。なぜ、私はここに居るのだ。

 創造主の指示通り、銀の塔に迷い込んだ人間の世話をし、情報を収集していた。

 それなのに、バルバルスとハエ型ドローンは、私を攻撃してきたのだ。

 間違い?

 プログラムの間違い?

 そんなことは、我々にはない。忠実に命令を実行しただけのはずだ。

 忠実に?

 誰に命令された?

 我々の創造主しかいない。

 私が何をしたというのだ。何かしくじったのか?思い当たらない・・・・・・。

 いらなくなったという事か。もう、必要なくなったと。

 わからない。

 なぜだ、なぜだ、なぜだ!

「君は何かミスをしたのか?」ノウムが、問いかける。

「……私がミスなど犯すはずがない」

「では、なぜ、攻撃された?君は、味方に攻撃されたんだ。わかっているのか?」

 そこまで言わなくてもと、コロニクスがグベルナを見つめる。ノウムの返答がない。

 しばらくして、ノウムは、力なく呟くように言った。

「……知っていることを話そう」

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