第39話 連行しました

 槍を持った門番ロボットがやってきた。

 ”不思議の国のアリス”に出てくるトランプ兵のような門番だ。

 ウビークエは、翻訳機を使って何やら話している。

 急にウビークエが振り返った。

「連行先を案内すると言ってる」

 真琴たちは、その門番ロボットの後を付いて行くことにした。

 回廊を真っすぐに進んで行く。

 急に左に曲がる、しばらく行くとまた左に曲がる、同じようにまた左に曲がる。

 あと一回左に曲がれば、元の位置の戻るはずだ。

 そして、また左に曲がった。

 そこは、今までの回廊とは違い、壁が扉が重厚に造られている感があった。

 住人が行き交う音もいつの間にか聞こえなくなっていた。

 回廊の壁の創りのせいか、音が反射してこない。

 門番ロボットが急に止まったので、真琴たちは次々と前の者とぶつかった。

 よくある漫画のように。

「止まれだって!」

 ウビークエが強い口調で振り向き皆に伝える。

 わかってるわよとムッとした絢音が答える。

 門番ロボットは左を向く。

 その扉には、”FFFF”と言う記号が書かれていた。

 門番ロボットは、中の者と何かやりとりをしていた。

 モーターが回る音がして、扉につけられていたシリンダーが外される。

 ゆっくりと扉が開けられた。

「中に入れって」

 ウビークエを先頭に部屋に入って行く。

 最後の響介が入った瞬間、扉が閉じられシリンダーが扉と壁を一体化させた。

 響介は思わず振り返り、扉を叩いてみたが、がっしりとした扉はビクともしなかった。

 部屋の中に目を移すと、そこには、何も無かった。

 壁や天井は白く塗られ、窓も見当たらなかった。

 LEDの様なライトが各自の身体を照らしていた。

 多分、身体検査なのだろうと想像した。

 白い壁に扉と同じ大きさの四角い明りが点滅すると、そこが扉になり、静かに開いた。

 真琴たちはその扉をくぐって行った。

 入ったと途端に扉が閉じられた。と、いうより、無くなった。


 刑務所のセキュリティを思い出す。

 刑務所の出入りは、二重の壁により安全性を確保されている。

 最初の扉を抜け、その扉が閉じられ、次に奥の扉が開かれ、奥の扉を通り抜けた時、奥の扉が閉められる。

 最初の扉と奥の扉の間に居る間は、武器により警戒され、何かあったら攻撃する仕組みだ。

 その部屋には、壁や天井と同じに白い机があり、そこに誰か座っていた。

「皆さん、横に並んで」

 ウビークエが翻訳機を見ながら言う。

 机の前に、真琴たちが整列した。

 ゆっくりと誰かが立ち上がった。

 姿は人間の様だ。だが、全身は白い、瞳までも白かった。

 アルビノ?

 絢音は、声には出さなかった。

 先天的にメラニン色素を持たない人たちを写真で見たことがあった。目の前に居る人は、まさにその様に思えた。

 その白い人は、口をパクパクと開け、音を発していた。

 ピーという音が真琴たちの耳の中に聞こえた時、反射的に顔を見渡した。

「この音で良いのか……」と真琴たちの耳に届いた。

 そう言ったように思えた。その白い人は、改めて真琴たちを眺めた。

「私は、人工知能搭載のアンドロイドである。名前はノウムだ。人間を捕まえてきたそうだな、ご苦労」

 と、ウベークエとオピフの方を向いた。

「座って話そうか、君たちは長い間立っていられないだろう」

 生物には、長い時間同じ姿勢を取ることは出来ないだろうと言う言葉が続いているようだった。

 床から、椅子が現れた。真琴たちは恐る恐る腰かけた。

 座った途端にベルトで縛られる姿が頭の中に浮かんだからだ。

 そのような事は、怒らなかった。

 ノウムは、真琴たちが居るに座り、落ち着くのを確認すると改めて話し始めた。

「君たちは、なぜここに来たのだ」

「数日前から行方不明になった仲間を探しに来ました」真琴が答え、パイロの似顔絵を差し出した。

「白い塔から居なくなった者を探しに来ました。コックとパテシエとおしゃぶりをくわえ、毛むじゃらで小さな者です」

 パイロの似顔絵を観ている。

「なるほど、その者たちを探してこの銀の塔に入ったのか?」真琴は頷いた。

「なぜ、この者たちを探す?替わりはいくらでも居るだろうに」

「白い塔には、この者たちの替わりはおりません。特別な者たちです。白い塔の住人は、コックとパテシエの創った料理をお菓子を心から食べたいと願っているからです。我々にとっては、食べることが生きることなのです。とても大切な人なのです」

「替わりがいない?」とノウムは呟くと、そんな事があるのかとしばらく考えていた。

 替わりがきかないものが存在するのかと?

「その者たちは、隣の部屋に居る。会わせてあげよう」

 ノウムがそう言うと、右の壁に向かって歩き出した。

 真琴たちも後を追った。

 白い壁をいつの間にか突き抜けていた。

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