第38話 再戦
回廊の奥から浮浪者が近づいてくる。
真琴たちの数十メートル手前で立ち止まった。
真琴たちは浮浪者から目を離さない。
近くで見ると、やはりデカい。
機械であるのに野獣の様な殺気に満ちている。
真琴たちの頭の中で、老人との会話が思い出されていた。
「お前たちに力を与えよう。
お前たちは強くなった。強くなったと思い込みなさい。
ここは、お前たちの居た世界とは違う。
私の夢の中に迷い込んだと思いなさい。
出来ないのは、お前たちが”出来ない”と言う思い込みのせいだ」
「俺たちに出来ないことはない!」真琴が叫んでいた。
響介、絢音も頷く。
真琴たちは、じりじりと浮浪者との距離を詰めていく。
その頃、ウビークエとオピフは、回廊の柱に影に身を潜めていた。
オピフが何やら、パッドの画面を見ている。
それは、あの部屋に紛れ込んだ時の写真だった。
あの部屋とは、浮浪者が作られていた部屋だ。
オピフは、浮浪者の骨格の写真を拡大して、夢中で何かを探している。
ウビークエは、見守る事しかできない。
オピフの邪魔をさせないように。
「でかいヤツと戦う時は、倒して戦えってプロレスで言ってた!」
響介が前に出る。
浮浪者のパンチが、響介を襲う。
見える、パンチが見える。響介は次から次と繰り出されるパンチを避け、距離を詰める。
浮浪者の手前でジャンプした。
浮浪者は思わず、響介を見上げる。
その時、響介の両膝は浮浪者の顎を、両手の拳は浮浪者の頭に振り下ろされていた。
鈍い音と浮浪者の骨格を覆っていた皮膚が削げ、銀色の頭蓋骨があらわになった。
それと同時に、絢音と真琴は、浮浪者の足元に滑り込み、膝裏に回し蹴りを見舞った。
膝からくの字に曲がり、力余って膝から下が吹っ飛んでいった。
浮浪者は膝から下が無い状態になったが、太い腕が響介を掴もうとしていた。
響介は、その場でくるっと後転し銀色の頭蓋骨に踵落としを見舞った。
浮浪者は、ゆっくりと後ろに倒れていったが、体制を整え、残った腕で真琴たちを襲う。
その腕を真琴と絢音が、腕引き逆十字で腕を殺しにいったが、浮浪者は倒れない。
響介が、一旦、浮浪者から離れ助走し頭蓋骨にドロップキックを見舞う。
ゆっくりとゆっくりと浮浪者が倒れる。
腕は、ガッチリと真琴と絢音に抑えられている。
だが、浮浪者の足掻きは止まらない。
その時、オピフが浮浪者に駆け寄った。
ウビークエが声を上げる暇も無かった。オピフは頭蓋骨まで走っていき、鼻の下の小さなくぼみに細いドライバーを差し込んだ。
あっという間に、浮浪者の動きが止まった。
「ここが、スイッチだ」
オピフが、立ち上がった。
やれやれと、真琴たちが浮浪者から離れる。
自然と握手し、お互いをたたえ合う。
やった、やれたじゃないか。あの時とは大違いだ。
僕らは強い。本当に強い。
真琴たちは抱き合った。
「オピフ、すごいじゃないか」響介が、オピフの肩を叩いた。
「オピフ、天才」と、笑った。
真琴は、じっと回廊の先を見ている。
浮浪者は一体ではない。あの部屋で何十体もの浮浪者を見たではないか。
来るかもしれない。
果てない戦いになるかもしれないと、警戒を緩めてはいけないと思っていた。
「あっ」ウビークエが何か思いついたようだ。
ウビークエが、翻訳機を口に当てた。
「私たちは、侵入者を捕まえた。どうしたらいい?」
翻訳機から大きな音が流れる。
すると、いつの間にか住人が現れ、浮浪者が現れる前と変わらなくなった。
何もなかった様に、行きかう住人。
変わっことは、槍を持った門番のようなロボットがやってきた。
ウビークエと何やら話している。
「連行先を案内すると言ってる」
真琴たちは、その門番ロボットの後を付いて行った。
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