第37話 作戦B、決行

 真琴は、オピフが作ってくれたロボットのボディを身体から外していた。

 ウビークエが提案した”オトリ作戦”、確かに今は、これしか方法が無いようだ。

 それにしても、ウビークエのくじ引きにまんまと引っ掛かってしまった。

 ウビークエは、意外と頭がいいようだ。

 真琴は、ウビークエを甘く見ていたことが、ちょっとだけ悔しかった。

「脱いだよ、どうする?」

 と、真琴が言った時、ガラガラと金属の転がる音がした。

 音のする方を見ると、響介と絢音も着ていたロボットのボディを外していた。

 真琴は、その様子を見て唖然していた。

 くじで負けたのは、俺じゃなかったけ?と、響介の顔を見る。

 すると、付き合うよと、響介が微笑んだ。

 真琴は、やっぱりいい奴らなんだなと改めて思った。

 真琴たち三人が、ロボットのボディを脱ぎ捨て、準備が出来たとウビークエを見た。

 ウビークエは、頷いて深呼吸すると、大きな声で叫んだ。

「あっ、人間だぁ!人間がいるぞぉぉぉ!」

 回廊を行き交う住人の様子を伺う。

 誰もこちらを見ない。相変わらず、スマホを見ながら歩くのをやめない。

 真琴たちは、しばらく住人を固唾を飲んで見守る。

 やはり、何も起こらない。

 ウベークエは、コロニクスがくれた翻訳機を口に当てると、叫んだ。

「あっ、人間だぁ!人間がいるぞぉぉぉ!」

 翻訳機から、ファックスの通信音みたいな音が流れる。

 住人が一斉に止まった。

 ずーっとスマホを見ている。五秒くらい経っただろか、住人は動きを止めた。

「止まったぁ」

 真琴たちは、静まり返った回廊を見守る。

 ずらぁっと並んだ住人がいる。人形の様に動かない。

 まるで、古代中国の兵馬俑の遺跡に迷う込んだようだ。

 静まり返る回廊。時が止まる。


 ここは、真琴たちが、最初に入った部屋。

 そう、浮浪者が円柱の水槽に入っていた部屋だ。

 ピーヒョロヒョウと翻訳された音が部屋中に響いた。

 その中の一つの円柱に動きがあった。

 液体が抜かれ、浮浪者の身体に付いていたケーブルが、一本一本外れていく。

 浮浪者の身体の支えが外された。

 円柱の中の液体が抜かれる。

 腹式呼吸をしている様に、胸が腹が規則的に膨れる。

 ゆっくりと目が開いた。

 あの時と同じ、ギラギラとした全ての者を威嚇する目だ。

 違うのは、服を身に着けていない事。

 汚れたコート、ジーンズ、手に巻かれた白いバンテージはない。

 髪や髭は、あの時と同じだった。

 円柱の透明な容器が外されると、部屋から出た。

 回廊に出る。

 浮浪者は、左右を確認する。

 真琴たちの居る方に顔が向けられる。

 次に身体が向けられる。

 ゆっくりと歩き始める。少しふら付いている。

 そのふら付きが修正され、動きが安定していく。

 その場で学習している。

 段々と走り始める。

 スピードが上がり、歩幅も広がる。

 真琴たちの方に進んで行く。


「何か来る」真琴が呟きながら回廊の先を見つめる。

 真琴たちの身体は、何かに反応している。

 これから起こることに身体が準備を始めているみたいだ。

 じーっと耳を澄ます。

 何だろう、気の圧力を感じる。空気の振動が感じる。

 床からドンドンと言う規則正しい重たい振動が感じられる。

 回廊の先で、住人が蹴散らされているのが見える。

 こちらに近づいてくる。

 大きな者が住人を倒している。

 長い髪を振り乱し、ハルクの様な筋肉質の肩が、胸が、二の腕が見える。

 真琴は、刺すような視線を捉えた。

「ヤツだ・・・・・・、ヤツが来る!」

 思わず真琴は、響介と絢音に目をやる。

 響介と絢音の目は、既に準備は出来ているという目だ。

 真琴は再び回廊の先を見つめた。

 浮浪者との闘いを思い出す。

 全く歯が立たなかった。

 捕まれ軽々と投げ飛ばされた。

 そして、絢音と響介は命をなくした。

 勝てるだろうか?

 真琴たちの心の隅に小さな疑問が湧き出ようとしている。

 戦う前から負けてはいけない。

 真琴は、気を取り戻す。

 この緊張感が、真琴たちの心を繋ぐ。それぞれの声が聞こえる。

 これがテレパシーなのか。

「大丈夫だ。爺さんが言ってたろ、俺たちは強くなったって」

「お前たちは、強い!」

 真琴たちは顔を見渡す。今のは誰?

「出来ないと言う思い込みを捨てろ。俺と戦った時の様に」

 コロニクスだ。真琴たちの頭の中に入って来る声は、コロニクスの声だった。

 テレパシーってやつのように。

 真琴たちは、急に心強く感じていた。

 俺たちは負けない!負ける気がしない!

 浮浪者がどんどんと近づいてくる。

 ダムから放流された水の様に、回廊の壁を床を空気を通じて、真琴たちに押し寄せてくる。

 真琴たちは、腰を落とし浮浪者に備える。

「待ってたぜ」と、響介。

 真琴たちの目は、浮浪者にロックオンしていた。

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