第36話 作戦B

 ウビークエが、甘い匂いを見失ってしまった。

 相変わらず回廊は続いていた。

 同じ扉が並び、永遠に続いていた。

 扉には、ただ番号が張られているだけだった。

 一つずつカウントアップする部屋番号とバーコード。

 他には、何も書かれていない。

 この中から、パイロやパテシエ、コックを探すには、扉を一個一個確認するしかないようだ。

 時間が係りすぎる。孫の代までかかりそうだ。

 みんな頭を悩ませた時にウビークエが作戦Bを提案した。

 その作戦は、度胸が必要だと言う。

 作戦Bってなんだ?そもそも、作戦なんかあったのか?

 作戦Bってことは、作戦Aがあったのか?

 作戦CもDもその他もあるのか?真琴は、頭を悩ましていた。

「ちょっと待て。作戦Aってなんだ?」

「今までの行動が、作戦Aだ。名付けて、なりすまし作戦だ」

 ウビークエが、当然と言う感じで言った。

「なりすまし……、作戦Bってのはなんだ」

 響介は、納得がいかない。

「言っていいのか?」

 オピフが、不安な顔でウビークエを見た。

 どうぞとウビークエ。

 オピフが、右手の拳を口にあて、軽い咳払いをしながら、真琴たちの顔を眺める。

 右手の拳を降ろし、両手を腰に回した。

 首を回したり、背伸びを繰り返したりと落ち着かない。

 真琴たちの目がオピフに集中する。

 やっと、オピフが声を上げた。

「えーと、作戦Bというのは・・・・・・、えーと、作戦Bは・・・・・・、何だっけ」

 オピフがウビークエに助けを求めた。

 なんだよとざわつく真琴たちを横目にウビークエが話す。

「おいらとオピフは、こんな事があると思って、ずーっと考えていたんだ」

 と、言って自分の頭を指さす。

「だから、作戦Bって何だよ」今度は、真琴がシビレを切らした。

 ウビークエは、右手の人差し指を立て、口に当てる。どうやら、静かにということらしい。

 真琴たちは、じっとウビークエを見た。

 ウビークエは深呼吸をすると語り始めた。

「作戦Bは、名付けてオトリ作戦である」

 どうだと真琴たちを見渡す。

 何が、名付けてだ。そのままじゃないかと真琴たちを呆れさせた。

 ウビークエは、そんな事はお構いなしに説明する。

「この中の一人の仮装をやめて、この塔への侵入者になって捕まってもらう。捕まえてから、奴らはどうすると思う?」

「どこかに連れて行くだろうな」

「どこへ連れて行くの?」

「牢屋とか……」

「その牢屋には、他に誰がいると思う?」

「前に捕まった侵入者・・・・・・」

「その侵入者って、この塔以外から来た人だよね」

「そこに、コックもパテシエも居るって言いたいのか?」

 ウビークエが、コクッと頷く。

 確かに、このまま、扉を開け続けるよりマシだ。

 真琴たちは、仕方ないと作戦Bを実行することにした。


「それしかないかぁ。で・・・・・・、誰がやるんだぁ?」

 真琴が声を上げる。

 ウビークエが、ポケットかの中に手を入れガサゴソと何か探している。

 あったとポケットから取り出したのは、長さ十センチ程の数本のヒモだった。

 オピフから、赤色のフエルトペンを受け取り、ヒモに細工している。

 そして、ウビークエが五本のヒモを握った拳を突き出した。

「クジだ。この中に一本だけ、先っぽが赤い。それが当たりだ」

 ほらと真琴の目の前に突き出した。

「俺から?」

 ”くじ”か。

 真琴は、”くじ”が苦手だった。当たったことがないのである。

 クリスマス会や誕生会のビンゴとか、駄菓子屋、アイスの棒など、当たったことがない。

 いつも当たらないだろうなと心の隅に泡の様に浮かんでくる。

 その度に、いや、今度は、今度こそ当たるに違いないと思ったが、叶うことはなかった。

 くじ運がないのである。一種のコンプレックスになっていた。

 当たる当たらないは、確率の問題で自分の能力が劣っている訳では決してないと自分に言い聞かせるが、何回も当たりを引いている人をみると正直、羨んでしまう。

 人は運を持っていて、色々な場面でその運を使っているらしい。

 運の量は決まっていて、ちょっとした賭け事に勝っても運が使われるらしい。

 ということは、真琴には運が丸ごと残っていることになる。

 本当に必要な時に、運を使ってやるとと心に誓った。

 待てよ。

 今回は、当たりを引いたの者がオトリだ。当たらなければいいのだ。

 と、いう事は、はずれを引けば良いのだ。

 くじ運の無い私にとっては、むしろラッキーだと言えないか。

 よし、引いてやる。絶対、はずれを引いてやる。

 周りを見渡すと早く引けとみんなの視線が痛かった。

 俺のくじ運の無さを見せてやると、真琴が力いっぱいヒモ引いた。

「当たりっ!」

 ヒモの先が赤い。

 真琴は、なんでこんな時に当たるんだと唖然としていた。

 その隙にウビークエは、残りのヒモを遠くに投げ捨てた。

 それに気が付いた真琴が、何をしているとウビークエの腕を掴んだ。

「何って?もう、当たりが出たから捨てたんだ」

 顎を突き出してウビークエが言う。

 響介や絢音がニヤつく。

「やられたね、兄さん」と、オピフが真琴の肩をポンと叩いた。

 真琴は言葉を失った。

「ところで、作戦CやDは、あるのか?」と、あきらめて気を取り戻した真琴が訊いた。

「何言っているの?そんなものはないよ」

 ウビークエが、当然と言う様に言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る