第28話 コックとパテシエも居なくなった

 銀の塔には、何かありそうだ。真琴は、庭園に向かった。

 グベルナとウルペースから、銀の塔について訊きださねばと。

 庭園を見渡すと白い屋根の西洋風あずま屋ガゼボに二人が居た。

 いや三人だ。もう一人は、ウビークエだ。

 どうやらお茶会の様だ。

「真琴もこちらに」ウルペースが手招きする。真琴がガゼボに向かうとウルペースが再び手を振った。

「あなた達もこちらに」

 真琴が振り向くと、響介と絢音がこちらに駆け寄っていた。

「うわー、最高!」目を輝せていたのは、絢音。

 真琴たちが席に着くと早速、紅茶が注がれた。

「ウビークエのプレゼントよ」

 とてもう嬉しそうな顔のウルペースを見るのは初めてだった。

 こんな表情もするんだとなぜかうれしくなった。

「こんなに沢山どうしたんだ」

「本当は、ランチを食べに行ったんだ」

 ウビークエが、ゴソゴソとポケットから取り出したのは、食べ物の絵が沢山描いてある料理のチラシ。

「これが食べたかったんだ」

 テーブルの上に乗せると、これっと指を指した。皆、チラシを覗き込む。

 それは、街一番うまいという評判の”コクウス”の店のチラシだった。

 指さしたランチは、こんもりと盛られたチキンライスには、料理長のコクウスの似顔絵の旗が立っていて、こんがり焼かれたハンバーグの上に赤いケチャップ、キャベツの千切りの上にタルタルソースがかかったエビフライ、その横にはナポリタンスパゲティ、フライドポテトとナゲット、から揚げも

付いている。オレンジの輪切りとウサギを模したリンゴ、そして、オレンジジュースがあった。

「これって、お子様ラ……」と、真琴は言いかけたが辞めた。

「でもね、居なかったんだ、コクウスさん。突然、居なくなったって、お店の人が大慌てだった。お客さんだって、大慌て」

 ウビークエが、チラシを裏返した。そこには、ケーキの絵が載っていた。

「だからさ、しかたないから、ランチがダメならスイーツにしようと思ったんだ。で、こんな買っちゃった。みんな食べて」

「スイーツが好きなんだ」

「うん、スタードが入った皮がサクッとシュークリーム。

 フワフワスポンジを生クリームでコーテイングされたフワフワのスポンジの上にちょこんとイチゴを乗せたショートケーキ。

 秋には甘い栗のクリームを細く絞って黄色い山のようなモンブラン。

 バターの香り漂う貝の焼き型のマドレーヌ。

 パイとクリームを幾重にも重ね粉砂糖に綺麗に包まれたミルフィーユ」

「訊いているだけで、ワクワクするわ」

「けど、もう食べれない。ここにあるの分しかないんだ」

 ウビークエが、ガクッと肩を落とした。

「えっ?」

「パテシエのドウルケも居ないんだ!スイーツも食べれなくなる!」

 一同顔を見合わせ、声を失った。

 パイロ、街一番のコックとパテシエが姿を消している。

 なんだこれは?


「パイロは、どうなった?」と、真琴は絢音に顔を向ける。

「まだ、オクルスに会ってないの。確かにパイロに声をかけていたらしいけど」

 絢音は、シュークリームを手に持ったままだ。

「僕の方は、収穫なしだ」響介が付け加える。


「コロニクス!」

 グベルナが声を上げた。いつの間にか、コロニクスが後ろにいた。

「コックとパテシエを探してくれ。それから……ショコラティエも」

 そうねとウルペースが頷いた。

「わかりました」コロニクスは、その場を去る前に残り少ないシュークリームを持って行った。

「あっ」

 声を上げたのは、ウルペースと絢音とウビークエの三人だった。

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