第27話 ウイルスとパウロ

 真琴たちは、パイロを探していた。

 最後に目撃されたのは、銀の塔のオクルスと一緒だったという。

 オクルスが何かを知っているはずだ。

 オクルスを知っている絢音は、図書館で待ち伏せをする。

 響介と絢音は、真琴に描いてもらったパイロの似顔絵を持って訊きこみをする。

 真琴は、白い塔に戻って塔の管理者であるグベルナから何か情報を訊きだすことにした。

 

 真琴は、急いで庭園に戻るとグベルナを探した。

 グベルナは、植物の手入れをしているところだった。

 校庭で花壇に水を撒いている子どものように。

 真琴がグベルナに声をかけようとした時より先にウルペースがグベルナに駆け寄り、何処かに行こうとしていた。

 その時、ウルベースが真琴に気づいた。

「何か御用かしら?」相変わらず艶のある声だった。

「パイロに逢えたかな?」と、グベルナ。

 真琴は、パイロについての話をした。

「パイロが行方不明か……。動きがあったようだな。君も一緒に行こうか」

 その声は、子どものような容姿とは違った低い声のグベルナだった。

 真琴は、はいと返事をして、グベルナについて行った。


 行きついたのは、白い塔の一階で池の奥にある部屋だった。

 ガラス張りの部屋で、中の様子が伺える。

 フラスコや試験管、様々な形の機器が机上に並べられている。

 そこに白衣を着た二人の姿があった。

 何やら難しい顔をして話し込んでいた。

 グベルナたちが、部屋に近づくと自動的にドアが開き、部屋の中に入ると、白衣の二人がお辞儀をして出迎えた。

 ウルペースは、真琴を白衣の二人に紹介してくれた。

 一人目の名は、コッレーク。頭の天辺には毛が無く、耳の周りの白髪がくせ毛のせいで丸く盛り上がっている。

 丸顔で鼻の下に白い髭がブラシの毛の様に張付いていた。

 もう一人の名前は、スクルタと言う。面長な顔で短い黒髪は真ん中で綺麗に分けられ、整髪料でピカピカしている。

 スーとした鼻筋が伸びていて、少々前歯が出ている。

  

「楽にしてよい。ウルペースに訊いたが、問題があるらしいな」

 スクルタが、一歩前に出た。

「最近、新種のウイルスが流行っていまして、恐ろしい病気ではないですが、人間界に変化が見られます」

「変化と言うと?」

「感染力の強い流感なのですが、人間界の情報網が過剰に反応して、感染を控えているのです。その為、人々が孤立化が急速に進んでいるようです」

 スクルタが話を続けた。

「このウイルスは、自然に発生したものではありません」

「作られたといくのか?」

「そうです。作れるのは、銀の塔の者ではないかと・・・・・・」

 コッレークが、グベルナを見つめる。グベルナは、腕組をして考え込んでしまった。

「パイロが行方不明なのは、これと関係があるのではないですか?」

 と、ウルペース。

「コロニクスに調べさせよう」と言いグベルナは、真琴たちを残し庭園へ戻って行った。

 真琴は、ウイルスとパイロがどう繋がるのか考えていた。

「説明が必要のようね」ウルペースは、真琴の困惑した顔を見て声をかけた。

「説明、説明、説明は、私たちに任せてください!」

 白衣の二人が白板を引きずって真琴の前にしゃしゃり出た。

 ウルペースは、しまったと思わず顔に手をあて、”説明”と言う言葉を口に出した事を後悔していた。

 この二人は、説明好きでどんなに長い時間でも話すことが出来た。

 ウルベースは、覚悟を決め、深呼吸すると「じゃぁ、お願いするわ。ここに腰かけてもいいかしら」と言うと、椅子に座りスラリと伸びた足を組んだ。

 そして、真琴にも椅子を勧めた。ありがとうございますと真琴も椅子に座った。

 その様子を見た白衣の二人は笑顔で白板の前に立つと一礼した。

「それでは、説明しましょう」

 と言ったのは、ブラシのような髭をはやしたコッレークだった。

 ウルペースは、長くなるから覚悟してと真琴にに耳打ちした。

「どこから、話しましょうか……。そうですな。この部屋の説明から話しますか」

 白板に”DNAラボ”と書いた。

「ここの名前です。

 さて、何をしているかというと、生物全般のデザインです。

 この世には、多くの生物が存在しています。

 実は、ここでデザインして作られているのです。

 環境に合った生物のデザインをして、DNA書き換えのためのウイルスを作成するのが、仕事です」

 そこから、長い説明が始まった。

 生物は、自分と言う”精神”と”身体”の二つから成っていて、身体は精神の入れ物に過ぎないとのことだった。

 より良い身体を手に入れる為に、様々なアイデアや実験を得て人間は作られた。

 より良い身体を求め生命の大爆発の時期に多くの創られ試された。

 そして、淘汰されていった。

 人間もデザインされたいたのかと驚くだろう。

 花に姿を似せた虫や虫に姿に似せた花、種を遠くに運ぶための仕組みや偶然だけで説明できないものが沢山あるだろ。

 それは、作られたからだよ。

 人間は、最後の方に造った。

 生き残るためには、危険を回避する能力が必要になる。

 その能力を器である身体に刻み込むために、受精から出産するまでの間に胎内で進化の過程を体験させながら成長させ生まれてくるだ。

 人間は、受精後、三週目には、脳やせき髄の元の神経管が発育し、四週目には勾玉の様な脊椎動物の共通した頭、胴、尾の形になる。この段階では、何になるかわからない程だ。

 魚や鳥と大差なく、五週目で顔、胴、手足が成長する。八週目で胎児になる。

 更に生命を守るための吸引やにぎりなどの反射を手に入れ、四十週で生まれる。

 このような成長の過程は、ちゃんと意味のあることなのだ。

 生まれてからなるべく長く存在できるようにと。

 この過程の中には、身体と精神の結合と言う大事な過程も含まている。

 それに関しては、この白い塔の天辺、"エスピラール”へ行くと分かるだろう。

 つまり、生まれてからなるべく長く存在できるように、身体を進化させなければならない。

 その変化をさせるために、ウィルスを使うのだ。

 銀の塔のせいで、人間の生き方が変わってきているので、それに合った身体のデザインが必要になるかもしれない。

 その仕事をここで、私たちが行っているのだ」

 コッレークが、分かったかなとウルペースと真琴を見まわした。

「パイロとウィルスが、関係するのですか?」

 真琴が、耐えきれずに質問した。

 待ってましたと、整髪料でピカピカ頭のスクルタが、コッレークが交代した。

「今回、問題になっているのは、あるウィルスなのだ。このウイルスは、今までの流感と同じレベルのウイルスなのだが、人間界の反応が違っている。

 確かに、感染力は少々強い。パンデミックを恐れ、隔離が進んでいる。そして、情報網の発達により、人間の孤立化が急速に進んでいるのだ。

 人間は、集まることで進化してきた生物なのにだ」

 スクルタが、一息置いた。

「パイロについて話そう。パイロの特技は、周りの人を引き付ける能力を持っているのだ。つまり、孤立化に対抗する能力だ。

 もしも、人間の孤立化させるために、ウイルスを流行らせ、情報で誘導し、パイロを隠したとしたならばと考えると、何かあると考えざる負えないだろ」

 スクルタが真琴を見つめる。

「それをしているのが・・・・・・」

「銀の塔かもしれない」

 真琴も一緒に声に出してしまった。

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