第26話 パイロが知ってる

 結局、絢音と響介の二人は、眠れなかった。

 真琴は、戦争のことが頭から離れずに、情報を集めにオムネ城に向かった。

 絢音と響介は、真琴を元の世界へ戻す方法を聞き出すことにした。

 最初に会ったのはコロニクスだった。

「どう、楽しんでる?ここ最高だろ」

 以前、会った時とは別で攻撃ではなかった。

 質問してみても、「そんなの知らねぇ」と答えが返ってきた。


 次の会ったのは、ウルペースだった。

 相変わらず妖艶な雰囲気を作り出していた。

 絢音が、心配そうに響介の顔を伺っていた。

 響介は、いつものクールな顔だったが、「ピアノ、素敵だったわ」と言うウルペースの言葉に耐えきらずに照れ笑いをしていた。

 ウルペースは、睨んでいる絢音に気付いて、話を逸らした。

「ごめんなさい。私はよく知らないの。グベルナに訊いてみたら。メトセラと庭園にいるわ」

 と、扉の前に二人を案内し、ブツブツと何か唱えると、扉が開いた。

 ウルペースのどうぞと手で合図に従い、庭園に出た。


 いい天気だ。庭園からさらに再生の塔エスピラールが真上へと伸びている。

 響介は、エスピラールの根元に駆け寄り、塔を撫ぜた。

 後から、絢音が続いた。

「爺さん、この上が出口だって言ってなかった?」

 響介がエスピラールを見上げながら、独り言のように言った。

「そうよ。でも、それだけ。どうやって行くだとか、上に上がってそれから何をしていいものやら」

 その時、グベルナとメトセラが、二人を見つけてやってきていた。

「元気かな?」

 最初に声をかけたのは、メトセラだった。

 響介と絢音は、軽く頭を下げ挨拶をした。

「教えてほしいことがあるのです。真琴を元の世界に戻す方法を知りませんか?」

 響介が問いかけた。

 グベルナが、響介と絢音を見回した。

「そうか、君たちの時間がないらしいな。場所はこの上だと知っている」

 グベルナが、エスピラールの壁をペタペタと叩いた。

「だが・・・・・・」

「だが?」

「もう、ずーっと前のことで、忘れてしまった。直近で携わった者は・・・・・・」

「……パイロじゃないですか?」と、メトセラ。

「そう、そうだ。パイロだ。本好きだから、図書館に居るはずだ」

「パイロと言うのは?」

「図書館のアルクが教えてくれるよ。これ食べる?」

 と言って、籠に入って真っ赤なベリーを差し出した。

 受け取った絢音がすっぱいと顔をゆがめる。

 グベルナとメトセラが、目を合わせて笑った。

「メトセラが、育て方を教えてくれたんだ。さすが、樹の王だな」

 絢音と響介は、「それは良かったですね」と笑顔をかえすとオムネ城の図書館へ向かった。

 グベルナとメトセラが二人を見送った。


 図書館で、真琴を見つけた。

 真琴は、「よっ」と右手を上げた。

 絢音と響介は、真琴を元世界へ戻す方法を探している話をした。

 真琴は、心配かけてすまないと頭を下げた。

 もう亡くなったと言われた二人には、相談できなかった。

 自分だけ、元の世界に戻りたいなんて言えなかった。

 言ったとしても、この二人は快く答えてくれるのは知っているが、自分が心苦しくなるからだった。


 真琴に庭園で訊いた話をした。

 真琴たちは、図書室中を図書館長のアルクを探した。

 すると、奥で難しい顔をしているアルクを見つけた。

 真琴たちが近づいていくと、それに気づいたアルクが、老眼鏡を外して手を上げた。 

「どうも、この歳になると字が見えなくてな。医者に見せても、年のせいだと言われるだけだ」

 アルクはそう言うと、背伸びをし腰をトントンと叩いた。

 真琴たちは、”パイロ”を知らないかと尋ねた。

「パイロ?そういえば、最近、見ないな。何か用事が?」

 アルクにこの世界に来た経緯を話した。 

「そうだな……。ヤツなら、知っているな。だけど・・・・・・」

「だけど?」

「行方不明なんだ。何処へ行ったかさっぱりだ。パイロが予約した本がきたから取りに来るようにって伝えたかったんだけど、見つからないんだ」

 図書館長のアルクは、本の整理をしながら話した。

「最後に見たのは、オクルスと一緒だったって、聞いた」

「オクルスって、銀の塔の弁当箱みたいな」

 アルクは思わず手を止め、絢音の顔を見た。

「銀の塔に居るのかもしれない」

 アルクは腰に手をあて、伸びをした。

「パイロって、どんな人ですか?」

「猫のような犬のような恰好をしている。小さく赤子のようにも見える。

 なぜか、おしゃぶりをしている。お気に入りらしい……」

 次々とパイロの容姿について話した。

「こんなですか?」

 真琴が、話を聞きながら似顔絵を描いていた。

「そうそう、うまいもんだな。アハハ、これは傑作だ!」

 アルクが感心して、笑いながら似顔絵を持ち上げた。

「それでは、これを手掛かりに探してきます」

「逢ったら、本が届いてるって伝えてください。あ、それと・・・・・・。今度、私の似顔絵も書いてください」

 真琴たちは、笑顔で答えて図書室を出た。

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