第22話 銀の塔のオクルス
「わかりました!勝手にするがいい!」
図書館館長アルクが、眉間にシワを寄せガシャンと受話器を置いた。
その音でびっくりした絢音が、アルクに顔を向ける。
アルクが、二三回深呼吸をして呼吸を整えている。
絢音が、心配そうにアルクの顔をじっと見ている。
「どうかしましたか?」
「すまん、怒ってしまった。君にじゃない、電話にだ!」
「電話?」
「銀の塔のオクルスからだ」
「銀の塔?」
「この塔の横に、作られている銀の塔だ。白い塔と銀の塔は、共に成長する兄弟みたいなものだから、銀の塔の要求を拒んだりできないが……。
オクルスは、銀の塔に居て記録を担当している。ここの本を記録するのが仕事だ。記録と言ってもカメラの様に写し、それを銀の塔に持ち帰っている」
急にアルクが眉間にシワを寄せた。
「写すだけと言うのが、腹が立つ。本をわかっていない。大切なのは文だけじゃない。本の大きさや装丁や手触りや挿絵やフォントや行間が、かもしだす雰囲気などが読む者の想像力を刺激し、感動を与えるのだ。写すだけでは、決して本を理解できないと何度も言っているのに、写すだけで良いと言ってくる」
アルクが鼻の孔を大きくして興奮している。
「そうよ、あなたの言っていることは、正しいわ」
絢音が、なだめようと相打ちをする。
「そうか、そうか分かってくれるか」
アルクの興奮は徐々に収まっていった。
その時、図書館のドアが開いた。
入ってきたのは、四つ足の動物の様だ。動物と違うのは、全て直線で出来ていた。金属の箱だ。箱に足が付いている。
動くたびにモーター音が聞こえる。
「お、来たな。オクルスだ」
その箱型の四つ足が、アルクの前にやって来た。
箱の上部の蓋が開き、ジグザグの棒が伸び、その上にカメラが二つ付いていた。
「こんにちわ、アルク。本を見せてもらう」
と言うと、本棚に向かい本を読みだした。
机の上に本を置くと、カメラで次々と写して行く。
絢音が、唖然としてその様子を伺う。本は、技術や工学系の本らしい。
アルクに近づいて、小さな声で訊いた。
「オクルスってロボットなの?」
「そうだ、人間とは言ってなかっただろ。ほら、見てみろ。ただ、写真を撮ってるだけだ」と、指をさす。
その時、本を写していたカメラとは別のカメラとスピーカのついた棒が、箱から出てきて、アルクと絢音の方を向いた。
「スキャンと言ってほしいね。ただ、写しているんじゃないんだ。文章として記憶している。文章はリアルタイムで、銀の塔に送られ、分析され、知識として格納される。その結果、君たちが不可能と言うものを可能にするのだ」
金属の箱から発せられる言葉は、説得力が感じられなかった。
「わかっているよ、オクルス。仕事を続けてくれ」
カメラとスピーカが、本棚を見に角度を変えた。
「分析?出来るかな、ヤツに」
えっと絢音がアルクを見ると話しを始めた。
「論文は、知らせるためのものだから、理解しやすだろう。だが、理解するのに膨大な時間を使うものもある。しかも、その理解したものが正解か判断できないものがある」
アルクは、にやっと笑いながら、引き出しから紙を取り出し、絢音に差し出した。
受け取った紙は、落書きみたいな数式や絵が描かれていた。
「それは、君たちが天才といっている人が描いたものだ。まだ、解読されていない。一枚の紙に凝縮されていて、書いたものの順番がわからない。つまり、時間情報が無くなっている。思考の順がわからないとこの絵は、ただの落書きとなる。もしかすると大発明なのかもしれないのに」
絢音に思い当たることがあった。
学校の講義の黒板のようだ。授業は、それを説明するため、分かりやすいように順番に文字や式や絵が描かれていき、説明を加えて講義を理解する。
講義の終わった黒板のようだ。講義の終わった黒板だけを見て、何の説明だったのか理解するのが難しいということか。
さらに、雑談が入っていたら、理解不可能だろう。
「なるほど、そういう事か……」
わかったかなと、アルクは絢音に微笑んだ。
オクルスは、坦々とスキャンを続けていた。
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