第21話 図書館館長アルク
次の日、真琴たちはオムネ城に来ていた。
各人興味のある所に行って、あとで報告しあうことにした。
図書館に来ていたのは、絢音。
世界中の本が集まっていると聞いていた。
その言葉だけで、絢音の胸は高鳴っていた。
改めて図書館の中を見渡した。
棚と言う棚には、本が整然と並んでいる。
信じられない程の高さの本棚にもびっしりと並べられている。
この建物は、本で出来上がったいるのでは思うほどだった。
絢音は、本棚を見上げた。
あんな所にまで・・・・・・届かないと、脚立か梯子ののような物がないかと探した。
根本にキャスターが付いた梯子をスライドさせてのを見たことがあった。
多分、この図書館にもそれに似たものがあるのではないか?
でも、この高さなら梯子で届いたとしても、きっと目が眩んでしまう。
別の方法があるのかもしれない。
高層ビルの火災を消す梯子車があるの?
工事現場にある小型の昇降機みたいなものかしら?
おしゃれな鳥かごのようなゴンドラを使うのかしら?
それとも、人が空中を移動する?鳥のように。
絢音は、幼い時の絵本を思い出すように、考えを巡らせた。
「それはないな」と、後ろから声がした。
絢音がびっくりして振り向いたが、誰も居ない。
「下を見てよ、下を!」少し怒ったように足元から声が聞こえる。
絢音は、足元に目を移した。そこには、老眼鏡のような小さな丸めがねをかけ、白い髭を蓄えた、赤い尖がり帽子をかぶった小人が居た。
目を見開いて小人を見ると、思わす笑ってしまった。白雪姫に出てくる七人の小人のようだったから。
「図書館へようこそ!見かけない顔だが、初めてかな?私は、図書館館長アルク。よろしく」
絢音は、あぁと小さな声を上げるのがやっとだった。
「でかい身体の割には、小さな声だな」
「で、でかい?失礼ね」
「これは、言葉が過ぎたようで……。お嬢さん、お名前は?」
「私は、・・・・・・、いっ、一色絢音と言います。よろしく」
よろしく、小人さんと言うのを喉の奥でこらえた。それを言ったらケンカを売っているようなものだから。
でも、一瞬の名前が出てこなかったのは、なぜかしら?
「こちらに座りなさい、首が痛くてたまらん」
椅子を指刺した。絢音が座る。これで、絢音とアルクの目線が同じ高さになった。
「これで、話しやすくなった」アルクは、首の後ろを揉んでいた。
「すごい本の量ですね。圧倒されます」
「そうじゃろ。世界中の本がここに集まってくる。有名な作家のものだけではなく、ちょっとした落書きみたいなものも集まってくる」
絢音は改めて図書館の中を見渡した、時には背伸びをしてずーっと奥までにも目を向けた。
そうして、先ほどの疑問を訊いてみた。
「本がいっぱいありますよね。とても高いところまで……。その高いところの本はどうやって手にするのですか?」
「で、どうやって本を取るか?
以前は、移動式の梯子を使っていたんだ。ある時、梯子を外そうとして、降りるように言ったら、百人も降りてきた。
それに、降りるようにという言葉を下の者が一つ上の者に伝えるのは伝言ゲームのようなものだから、何日もかかってしまったよ」
と、得意そうに白い髭をしごいた。
「それに、ドローンみたいな乗り物も使ってみたが、本を取りに行ってるのか、遊んでいるのか分からなくなってな、やめてしまった。それで、今はこういう仕組みを使ってる」
と、言って指さしたのは、手が届くくらいの幅と高さの本棚だった。中身は何もない。
アルクは、その本棚の前に立ち話を始めた。
「では、使い方を説明しよう」
絢音が聞く準備が出来ているか、確認し、一呼吸おいてからしゃべり始めた。
「自分の興味がある本や事柄を心に念じて、”始めて”と言うのだ。やってみなさい」
絢音は、バザールの事を念じて、始めてと唱えた。
すると、本棚にバザール関係の本が並んでいた。
「スライドもできるのだ」
アルクが、本棚の右端を手ではじくと、本が一斉に入れ替わった。そして、すぐに左端をはじくと最初に並んでいた本に戻った。
「これで、何冊でも手元で見れる。さらに条件を念じることにより、絞り込みもできるのだ」
絢音は、すばらしいと本棚の本の背表紙を人差し指でなぞる。
絢音は、何か変なことに気付いた。
いつもの本やの本棚と様子が違う。なんだろうと顎に手をあてて考えた。
そうだ。本の大きさが同じだ。
本屋の本棚は、色々な大きさや厚さや色が異なる本が並べられている。でも、この本棚は、色は異なるが大きさは同じだ。
そんなことを考えていると、アルクが笑って本を手に取った。
そして、大きなテーブルに置いた。
「本を見てみよう。”ひらく”っていってごらん」
絢音が、ひらくと言うと、本が大きくなり、厚さも増していた。
「これが原寸大の本さ」
絢音が本を開くと、色とりどりの世界のバザールが紹介された写真集だった。
目に楽しいので、次々とページをめくっていく。
「わー、きれいだ」と思わす独り言。
「やめる時は、”とじる”と言うのだ」
絢音がとじるというと、あっという間に本棚から取り出した大きさになった。
「どうだい、いいだろ」
アルクは得意になって、絢音の顔を覗く。絢音は、ただ、うんうんと頷くだけだ。
ネットで見る本と違う、何が違うのだろうかと絢音は考えていた。
それは、アルクが教えてくれた。
「本には、何でも入っている。同じ文でも読む人によって感じることは全然違う。同じ文なのにだ」
アルクは、別の本を取りだしページを開いた。
「この本、綺麗だろう。挿絵も綺麗だがこのフォント、並び、正に芸術だと思わないか?」
アルクは、本を左手で持ち、メガネを右手を添えた。
「音読しようか?音どうだ。綺麗な音階だろう。音そのものに意味があるものもある。
聞いた音を忘れないために、音に言葉をはめ込み、物語にし覚えるものもある。
呪文のようにな。それが、音自体に意味があるのにな。
いつの間にか文字や物語に意味があると勘違いして、語り継がれたものもある」
えへんと右手で鼻をはじいた。
「ああ、それと、自分が出会ったことの無い本を探すのは、見て回るしかないな。
出会いは、必然なのだ。お前に必要な本が自然と目に留まるさ、探してみるがいい。きっと楽しいはずだ」
「私が本を見てもいいですか?」
「いいとも、君たちのは爺さんの許可が出ている。作成中の本は、本を開くたびに更新されていくから注意してな」
「作成中の本もあるの?」絢音は驚いた。
作成中の本なんて、作者か編集者ぐらいしか見れないし、読者には決して目にできないと信じていたからだった。
「未完でも素晴らしい作品もあるのでな。本は、何もないところから湧き出すことは稀なことだ。
作者は、先人の色々な作品を見たり、触れたり、味わってみたり、匂いを嗅いでみたりして、そこから新しいものを生み出す。つまり、一冊の本は、様々な情報から作られる。本の後ろには膨大な世界が控えているということだ。それぞれの宇宙うを持っているのだ。どうだ、ワクワクするだろう」
その時、電話のベルが鳴った。
「こんな時に電話か……、また、ヤツだな……。使い方は分かっただろ、適当に見て行きなさい」
アルクは、やれやれと重い足取り電話を取りいった。
絢音は試しに”私に関した本は?”を念じて、本棚に前に立ち手を伸ばした。
そして、一冊の本を取り出した。
題は「君の頭の中にも宇宙が入っているんだ」
本を開くと、何も書かれていなかった。
これから、誰かによって書かれるものなのか。
これが、作成中の本か?
見ていると字が湧き出してきた。絢音は、その文字から目が離せなかった。
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