第20話 オムネ城

 真琴たちは、ウビークエと一緒にオムネ城に向かった。

 広場からオムネ城への道は、バザールが開かれていて、色とりどりのテントが張られていた。人々は、個性的な店主と値段の交渉をし、商談が成立すると笑って握手をするのがならわしのようだ。

 ネット通販や宅配により、人との接触が少なくなった真琴たちには新鮮に映り、何か大切なことを思い出させてくれる気がしていた。

 人込みの中をウビークエの後を付いて行くのは、意外と大変だった。

 モコモコのウオンバットの毛皮を着た子どもと似たような毛皮の服や帽子を身に着けている子どもも多く、バザールの店の品物に気を取られてしまうとアッという間に見失ってしまう。綾音は、キラキラしたアクセサリーや服にはすぐ目を奪われウビークェだけでなく真琴や響介からも何度もおいて行かれそうになっていた。

 だがそこは、響介の出番で、人々の頭ひとつ上の高さから捜索は完璧だった。


 オムネ城に近づくにつれて、バザールはテントから回廊へと移って行った。

 陳列されている品物は、段々ときらびやかになっていった。

 ウビークエが、突き当たりの壁に向かって走っていった。

 壁の前に止まり、振り向いて、こっち、こっちと手招きした。

 真琴たちが向かう。

「着いたよ」

「どこだよ?」

 目の前は壁だ。

 ウビークエが、上、上と右人差し指をたて上下させる。

 真琴たちが見上げると、壁が空まで続いている。

 いくつか窓らしきものが見える。

「これが、城なの?」

「そう」

「入口が無いじゃない?」

 ウビークエが、壁を三回ノックした。

 壁に大きな顔が現れた。ゆっくりと目が開かれ、真琴たちを見つめた。

「ようこそ!オムネ城へ」と言うと、壁の大きな顔の口が開かれた。

 ウビークエが、口へ入って行く。

 真琴たちは、ついて行った。


 オムネ城の中は、人で一杯だった。

 渋谷の駅前の様に、込み入った場内を歩いていく。

 真琴たちは奥へ進むと、円形のホールに出た。

 壁には、木製のドアが並んでいて、ドアの上部には半円形の窓があり、まどに中心に半円形の金属板があり、数字が刻まれ、数字を針が指していた。

 ドアは金属製の蛇腹に囲まれていた。

 見ていると、”1”に針が来ると、チンと音を立て、木製のドアが開かれ、金属製の蛇腹が開かれると中から人が出てきた。

「これ、エレベーターよ」

 絢音が、声を上げる。

「エレベーター?」

 ウビークエが、目頭にシワをよせた。

「何ていうかな……、この箱が上に行ったり、下に行ったりするのよね」

 絢音が説明するが、ウビークエは首をひねるだけだった。

「これに乗って、行きたいとこに行けるんだ。

 このドアの前で、行きたいところを考えればいいんだ。

 やってみるね」

 ウビークエは、振り返りドアの方に向うと、手を上げた。

「イーレ!」

 目の前の格子とドアが開いた。

「さぁ、乗って、案内するよ」

 ウビークエと中に乗り込んだ。


 エレベーターらしき物の中でウビークエが話始めた。

「前にも言ったけど、人間の創ったものはここオムネ城に集められるんだ。

 書物や音楽や映像、何でもだ。

 利用の仕方は、その部屋にいる者に訊いてみて」


 今日は、大きな施設である図書の間、美術の間、音楽の間、視聴覚の間の四室に案内された。

 細か物は、まだあるが、この四室で事足りるだろうということだった。


 図書の間は、見たこともないくらいの本だらけで、端が見えないくらいの大きな部屋だが、全て本で埋まっていた。

 音楽の間は、様々な楽器が飾られていて、実際に触ることも使用することもできた。

 美術の間は、様々な画材道具や手法を使った作品が並べられていた。

 歴史的な音楽家の演奏などは、次に行く視聴覚の間で見ることができるそうだ。

 憧れの音楽家の演奏が生に近い感じで味わうことができる。

 視聴覚の間は、球体の部屋で真ん中で使用する。

 先に述べた生演奏や、スポーツ、冒険さえも疑似体験することが出来る。

 いずれも何かしら知っていて選択することで知ることが出来るが、知らないものに出合いたいのなら、ライブラリを一つずつ探すしかないそうだ。


 真琴たちの興奮が収まらない。

 どこから手を付けていいかわからなかった。

「後は、個人で鑑賞してくれ。用事があれば、おいらの名前を呼んで」

「えっ、それで呼んでいるってわかるの?」

「わかるんだなこれが」

 と、言うとウビークエは、立ち去ってしまった。

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