第19話 僕は、ウビークエ

 例の球形の乗り物が塔の途中で止まったので、真琴たちは降りるしかなかった。

 そこには、白い塔の入口と同じように門があったが、重厚なそれでなく、温かみのある木で作られた門であった。

 腕組をした木彫の門番二体は、門の両脇に立って前を見つめていた。

 真琴たちは、そおっと近づき、恐る恐る門をくぐった。

 映画によくある近づくと木像が動き出すシーンを思い浮かべたからだ。

 そして、なぞなぞを出題し、答えられないと食い殺されるやつだ。

 門を抜けるとそこに広がるのは、ヨーロッパの旧市街地のような街並みだった。

 大人しいオレンジ色の屋根、浮き出ることの無いように統制された色の壁、規則正しく並んだ窓、そして石畳み。

 何処を切り取っても立派な絵画になるだろう。

 真琴たちは、目を見開き夢中になっている。

「きれいな街。中世の城下町みたいね」

 自然と足取りが軽くなる。

 奥へ進んで行くと、人通りが多くなっていく。

 人波は、何処かへ向かっているようだ。

 小さな通りから、人が出てきて大きな人の流れになる。

 なんというか人々の熱気のようなものが徐々に大きくなっていくようだ。

 しばらく行くと広場に出た。

 そこは、もう人々でいっぱいだ。

 何やら軽やかな音楽が流れ、皆、そのリズムに身体を合わせ踊っている。

 色とりどりの衣装を着て、仮面をかぶり、楽器を演奏し、踊っている。

 真琴が二人に話しかけるが、周りの音に声がかき消される。

「・・・つり?」

「えっ」

 耳に手をあて訊こうとするが、無駄なようだ。

 真琴が、大きく手を振って響介と絢音を誘導する。

 人込みの流れに逆らい、脇の道に入り、顔を見合わせていた。

 三人は、顔を寄せて話あう。

「お祭りみたいだ!」

 真琴が声をあげ、すぐに響介と絢音が頷く。

「そうだよ、お祭りだよ」

 真琴たちの足元から声がした。

 驚いて足元を見ると、そこに腰までの高さのウオンバットのような生き物がいた。

「なに!」絢音が思わずのけ反る。

「今日は、人間が創りだした三番目のお祭りなんだ」

 その小さな子どものような生き物は、真琴たちを見上げると得意そうに言った。

「君はだれ?」

 絢音は、しゃがんで子どもの視線に合わせると訊いた。 

「僕?」

 絢音が、子どもの目を見つめ「そうよ」頷いた。

「僕は、ウビークエって言うんだ。おねえちゃんは?」

 絢音は、初めましてと挨拶をし、名前を告げた。

 この子どもを改めてよく見た。

 正確に言うとウオンバットの被り物をした子どもだったが、鼻の横にネズミのような髭が左右に三本づつ生えていた。

「お前たち、この街は初めてだろ。おいらが教えてやるよ」

 ウビークエは、右親指を顔の前でかざした。

 ウビークエは、木の枝で足元に絵を描き始めた。

 一通り書き終わると、準備はいいかと真琴たちを見上げた。

「この街は、ここのオムネ城を中心に造られているんだ。

 道は、全てのこオムネ城に繋がっている」

 絵の真ん中に城らしき絵が描かれていて、その周りを枝で丸くなぞった。

「オムネ城?」

 絢音は、なんだそれはと、繰り返す。

「オムネ城は、文字通り中心なのさ。

 ここに何でも集められるのさ。

 書物や音楽や映像や創作物、人間の作ったモノなら何でも集められるんだ。

 集めるのがここに居る大人の仕事」

 行ってみたいと真琴たちが顔を見回す。ウビークエは、そんな表情をみてニヤリと笑った。

「行きたいだろ……案内するよ。暇で暇で退屈してたところなんだ」

 と、大きく右手を振り、先頭に立って大通に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る