第17話 白い塔それは人間の塔

 真琴たちがウルベースに案内されたのは、玉座の右横にあるテーブルの前だった。

 そのテーブルは、直径二メートルの円卓で、砂のようなものが敷き詰めれれていた。

 絢音は、心理療法の箱庭を思い出した。

 ウルペースは、真琴たちの顔を見回し、準備は出来ている?これから話しますよと軽く頷いた。

「あなたたちが、居たのはここ」

 ウルペースが指刺すと砂のようなものが盛り上がり粘土細工のような地下鉄の入口が出来上がった。

 そこから、人形が三体出てきた。

「かわいい、これ、私たち」絢音が声をあげる。

「白い塔はここ、ここに向かって来たの」

 円卓の中央に白い塔がそびえたった。

 三体の人形が白い塔に向かって動きだす。周りの森もジオラマの様に次々と円卓上に作られていく。

 真琴たちは、驚いて見るだけだ。

 途中から、人型の樹が現れ、四頭立ての馬車に乗ると、白い塔の下で止まった。

 馬車から人形が四体降りてくる。

「メトセラ?」

 絢音がちょっと大きめのピノッキオを見つけ指さす。

 馬車の大きさからみると、この白い塔が巨大だと分かる。

「そして、今、私たちはここに居る」 

 ウルペースはその白い塔を指さした。

「白い塔、人間の塔とも呼ばれている」

「人間の塔?」絢音が繰り返す。

「あなたたちの塔です。

 樹でもない、虫でもない、動物でもないものたちの塔です。

 この塔は、あなたたちが作り上げてきたもの全てが収集され管理されています。

 道具や絵や本、音楽。機械や・・・・・・武器までも管理されています。

 後で、案内しましようね」

「なぜ、収集しているのですか?」

 絢音は、知りたくてしょうがない。

「あなたたちを知るため。爺様の命令なのよ。

 私たちは、その管理するのが仕事」

「あの……、子どもも?」

 ウルペースは、わからなかったのねというように目を絢音に向けた。

「あの容姿だから、分からなかったのね。

 あのお方は、グベルナと言ってここの最高権利者よ。

 全て、あのお方が判断するの」

「……判断って?」

 ウルペースは、首を伸ばしキョロキョロと周りを見回すと、肩をすぼませ唇に人差し指をあてた。

 思わず真琴たちはウルペースに頭を近づけた。

 ウルペースは、静かな声で話始めた。

「存続させるかどうかってこと。

 この白い塔の周りに同じような塔があったでしょ」

「あの廃墟みたいな塔ですか?」

 真琴が眼がしらにシワを寄せる。

「そう、すべてあの方によって、廃棄された塔よ。

 あの方が、いらないとか、邪魔だか判断したら、なぜか、勝手に滅びるの。

 大体は、他の世界を侵害しすぎたからだと私は思っているの。

 これ以上は、ダメってところまで進んじゃったのよ」

「この塔も廃棄されちゃう?」

「そうなっちゃうかも。

 そうならないように、あなたたちが呼ばれたのかもね」

 真琴たちはお互いに顔を見回す。

「横に銀色の塔も出来てきたみたいだし」

「銀色の塔?」

「そう銀色の塔。人間が進化すると自然に出来るの。

 そうすると、決まってやり過ぎちゃうのよ。

 そうならないように、頑張って」

 そういわれてもと真琴たちは顔を見渡す。

「さてと、外でも見てみる?」


 ウルペースは、重厚な扉の前で何か唱えると、ゆっくりと扉が開いた。

 そこは、庭園になっていた。

 振り返ると、扉の両側には大きな門番の石像が立っていた。

 その後ろには、今で出来たばかりの塔があり、青い空に真っすぐ伸びていた。

 見上げる真琴たち。

「この塔は、”エスピラール”と呼ばれ、再生の塔です」

「あなた方二人は、いずれこの塔の先端から生まれ変わるの」

 絢音と響介を手を握った。

「今日はこれまでにしましょう。好きな部屋で休んでください。では、明日」

 ウルペースが会釈をして塔の中に消えて行った。


「爺さんがこの世界の出口は白い塔の天辺って言ってたよな」

 真琴が二人の顔を見た。何か浮かない顔をしている。

「あっ、ゴメン。自分のことばかり考えて」

「大丈夫だよ。すぐ、生まれ変わるさ。なぁ、絢音」

「うん」と絢音は響介を見上げた。


 真琴たちは、庭園の端に行きこの世界を見渡す。

 大自然の中の古城のようだ。

 鮮やかな青い空だ。

 何処までも上空に広がっている。

 絢音は、空に白い微かな陰影の丸が浮かんでいるのに気付いた。

 夜から取り残された月だろうか。

「月かしら」

「そうだな、月だ。中で休もう」

 と、真琴が歩き始めた。


 絢音が振り向いて月を観る。

 何か違和感があった。

 いや、月じゃない……。ち、地球?

 そんなはずない。じゃ、ここはどこ?

 絢音の頭に月のイメージの単語が浮かんだが、口には出さなかった。

 言ってはいけない事に思えたからだった。

 絢音は、真琴たちの後を追って塔の中の戻って行った。 

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