第10話 人間をここに
それは、広大に広がる草原にアリ塚の様に沢山の白い塔が点在していた。
白い塔は、頭頂部が崩れているものや根元まで崩れ去った様だった。
廃墟のように生気が感じられず、植物が覆い隠していた。
その中に真新しい白い塔があった。
それ自体が発光しているかのように明るく浮き上がり、緑の大地から青い空に真っすぐ伸びる塔は、とても美しかった。
その上部は、庭園になっていて周囲を遥か彼方まで見渡すことができた。
庭園から白い円柱の塔が一本、さらに青い天空へと伸びていた。
この白い塔の横に銀色の塔があった。
銀色の塔は、寿命の長い白い塔の横に現れなめらかな曲線で作られ、白い塔を映し出すので双子の塔に見えた。
庭園の中央に道があり塔の中へと通じているが、重厚な扉に閉ざされていた。
扉の両脇には、マスクで頭を覆った体格の良い門番の石像が立っていて、侵入者を威嚇していた。
庭園の中央の一羽のカラスが降り立った。
扉がゆっくりと開けられ、カラスが中へ入っていった。
カラスが足が、床に触れ、ニ、三歩、歩くと、人型にと変わっていく。
黒い紫に光る羽毛に包まれた男は、真っ直ぐ前を見つめ塔の中に進んで行った。
やがて、カラスは黒い大理石が引き詰められた部屋に到達した。
天井にそびえ立つ背もたれの大きな玉座があった。
背もたれは、二匹の大蛇が絡まりあい天に昇っていく彫刻がされていた。
その玉座には、一人の子どもが座っていた。
この白い塔の管理者だ。
栗色のカールのかかった柔らかな髪、右の瞳は蒼く、左はルビーのような赤。
その瞳は、カルデラ湖の底のように澄んで冷たい。
整った顔立ちからは、性別を伺えない。
「やられたね、見ていたよ。コロニクス」と、笑いをこらえていた。
カラスから人型に変身を遂げた者の名は、”コロニクス”と言った。
「油断していただけですよ、グベルナ様」
美しい子どもの名は、”グベルナ”と言うらしい。
コロニクスは、玉座の横に大きな鏡に近づき、額の傷を見ていた。
「人間だった?」
「そうです。生きているのは一人、あとの二人は死んでいた」
「生きている者が来ているとは・・・・・・」
グベルナは、顎に手をあて少し考えていた。
「ウルペースは居る?」
「お呼びですか?グベルナ様」
白い衣を着た白キツネの面をつけた女が現れた。
歩くたびに、白い衣からすらっとした足と胸が見え隠れする。
目にした者は、息をするのを忘れてしまうほどの妖艶さだった。
「ここに来た人間について知りたい」
「死んだ者は、すべてここに集まります」
「生きている人間だ」
えっとウルペースの眉間に皺がよる。
「……今までにも、ここに来ている者がいますが、どこに居るのやら……」
「どうしたらいい?」
「別に、構わなくていいのでは。ここに飽きたら勝手に帰っていくでしょうし、飽きなかったらずーっと居るでしょう」
「そうか」グベルナは、問題は無さそうだなと玉座の背にもたれ、足をブラブラと振っていた。
「生きている人間と言えば、爺様が何名かよこすと言ってませんでしたか?」
グベルナが慌てて身を起こした。
「そうだ、思い出した。そう言っていた。人間を連れてくるから、色々見せてやってくれと」
「そうなんですか?」コロニクスが確認をする。
「お前に言うのを忘れていた」
「早く行ってください。ケガしなくてもよかったじゃないですか」
「悪いな、この塔に招待したい。連れてきてくれ」
「わかりました」
コロニクスは、呆れたように下を向きながら頭を左右に振ると、わざと大きな靴音をたてながら駆け足で部屋を出て行った。
「ケンカしなくてよいからな」
グベルナが、笑いながらコロニクスに声をかけるが、コロニクスは、振り向きもせずに塔から飛び立って行った。
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