第6話 断罪

 俺がベッドルームに戻ると、女はベッドの中でスマホをいじっていた。

「旦那からLineが来てる」

 相変わらず馬鹿だと思う。


「何て?」

「エステどうだった?って」


 いい旦那だ。そんなの興味あるはずないのに、わざわざ連絡をくれるんだから。


「俺、もう君に会わないよ」

「どうして」

 女は崖から突き落とされる時のような顔になった。

「ホテルに子どもを連れて来るなんて、人として最低だからだよ」

「何言ってるの?子どもなんて連れてきてないよ」

「頭おかしいの?毎回子ども連れて来てんじゃねぇか」

「連れて来てない・・・」

「いつもいるだろうが。そう君って子が」

 女は目を丸くした。

「やめて!やめて!あの子はもう死んだの!」

 女は半狂乱になって叫んだ。


「終電の時間があるから・・・じゃあね」

 俺は汗で湿ったシャツを着た。生臭い。

 俺はもう彼女には会わない・・・最後にそう君に声を掛けようと思ってバスルームをのぞいた。そこには誰もいなかった。床には俺の髪の毛や陰毛が落ちていて汚かった。クローゼットに隠れているんだろうか・・・。

 

 さっき「しね」と書かれていた鏡をもう一回見た。

 記念に写真を撮ろう・・・自分への戒めのために。

 どうしても女に会いたくなる気がしたからだ。今日会ってみてやっぱり好きだと思った。


「しね」


 それを見て、俺は胸が痛んだ。


 すると、あれ、と思った。


 隣にもう1つ字が増えていた。


 そこには大きな字で「ころす」と書かれていた。


 俺は慌てて部屋を出た。それほど、憎まれているんだ・・・。本当に殺されるかもしれないと思った。


 オートロックのドアが重く、部屋と廊下の空気を分断した。

 でも、彼が追いかけて来る気がして、小走りでホテルから逃げた。

 殺すって・・・?どっち?お母さん?

 いや、違う。絶対、俺の方だろう。

 子供はいつまでも母親を慕う。

 どんなクズでもだ。


 今も一人で鏡を見ていると、隣に子どもが立っている気がする。

「君のお母さんを愛してたんだよ・・・だからごめんね」俺は泣いて詫びる。


 彼女から何度も連絡が来る。

 会社にも、メールにも・・・。

 俺は無視する。

 早く新しい男を見つけてくれ・・・そしたら、その時、彼は俺を忘れるだろうから。

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話せない子ども 連喜 @toushikibu

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