第4話 バスルーム

 俺たちが会うのは、平日の夜。

 俺は仕事帰り。


 夕方6時に会社を出て、女の部屋に行くのは7時くらい。

 その間に、マックとか丸亀に行って空腹を満たす。

 女が高級ホテルで夕飯を食っているのに比べると、かなり貧乏くさい。

 でも、早く行かないと一緒にいる時間が減ってしまう。

 もっと一緒にいたい気もするが、バレるリスクが高まるから、泊まったことはない。


 俺は7時くらいに女の部屋に行く。

 探偵とかが後をつけていないか、用心しながらドアをノックする。

 ワクワクするけど、怖い。いつかバレるかもしれない気がしてる。

 旦那は怖い人たちとつながりがある人みたいだ・・・。

 バレたら指を落とされるかもしれない・・・。

 そこまで魅力的な女じゃないのに、俺は女にはまってしまった。


 女がドアを開けると、その時も、やっぱり後ろに子供が立っていた。

 俺を出迎えてくれるのか、母親について来てるのかわからないが・・・。

 俺は急に覚める。

 部屋に入ると、女はすぐ俺に触りたがる。会った瞬間、情熱的に・・・というのはこのご時世では危ない。それで言い訳できる。


 俺は手を振って駄目だという。

「手を洗ってシャワー浴びないと」

 俺は手ぶら。女がカバンを漁ってたりすると困るから、駅のロッカーに預けて来る。

 持ち物は携帯とクレジットカード1枚だけ。

 すぐにシャワーを浴びて、急いで歯も磨く。彼女を待たせているからだ。


 俺は鏡を見て「年取ったな」と思う。顔の皺が増えた。

 もう、イケメンとはいえない感じだ。

 段々、自信がなくなって来る。

 こんなおっさんに、いつまで需要があるかなと笑いがこみ上げてくる。

 大きな鏡だから全身をくまなく見る。前も後ろも。背中に年を感じてしまった。

 普段から筋トレもしてるけど、もっとまじめにやらないといけないと思う。

 俺はナルシストか・・・と、呆れる。


 しばらく鏡を見ていて、俺はハッとした。


 俺の右側に、子供が立っていたんだ。

「うわぁ!」

 俺はびっくりして思わず前を隠した。

 そして腰にタオルを巻いた。

 子どもは、俺を馬鹿だと思っていただろう。

 情けない。


「ごめん・・・トイレだった?」

 俺は話しかけた。

 その子は何も言わない。

「ああ、きっとトイレだよね。ごめんね。ずっと使ってて」

 

 俺は嫌な気分になってその場を立ち去った。

 

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