第39話 クソガキ対自慰野郎

「メル!?」

「ボス、僕も戦います」

「だがお前あんな怖がって⋯⋯」

「怖がってません!」

そう歯切れよく答える。


「はっ、そうかよ、んじゃあ手伝ってくれや」

「はい!」

目の前に広がるは黒くくすんだモヤがかった人のような猫のような異形の怪物達、それらは殺意を込めた瞳で俺たちを睨んでいる、だけど後ろには頼もしいボスがいる、大丈夫、きっと大丈夫だ。


ボスや他の奴らはその怪物を取り囲むようにしている、いつでもどこからでも攻撃できるようにだろう。


「じゃあ行くぞテメーら!一斉攻撃だ!」

「「おう!」」

各々が各々の方法で飛び出していく。だけどそこには一切の乱れが無い。よし、このまま行ける。


「「消えた!?」」

そして僕達が一斉に飛びついた瞬間、怪物は消えた、どこに行ったのかも分からなかった。


どこに⋯⋯その時後ろからとんでもない寒気を感じた。咄嗟にボスがいる後ろを振り向く。

「っ!ボス!」

「あ?」

いた、ボスの後ろにいたんだ、は⋯⋯


「逃げて!」

ダメだ、追いつかない、ボスが反応できていない、やだ、ヤダヤダヤダ、また大切な人が遠くに行っちゃうのは嫌なんだ⋯⋯


「魔術・系統・草・新緑の腕」

だけどそんな最悪な展開にはならなかった。なぜなら後ろから木の腕らしきものがその怪物を掴んでいたから。


「全く、この俺を置いてけぼりにするとは、想像以上の奔放さだ、すまない情けない所を見せてしまった」

「あんたは⋯⋯」

「俺だって金色の獅子の団長だ、これ以上の醜態は晒さない」

吹っ切れたように晴れやかな顔でジンはそう言った。


「よっしゃならそのまま抑えてろ!タコ殴りの時間だぜ!」

「ギッ!?ギギギギっ!」

同僚のうちの一人が意気揚々と肩を回し始めると掴まれている怪物は全力で体をひねり草の腕から抜け出そうとしている。本気で怯えているように見えた。


「ギャッ!」

「くそっ!」

やっとの思いで抜け出した怪物は同僚から逃げ出すように走っていった。


「もしかして⋯⋯」


ここで一つの仮説が立った。それはあの怪物には魔術関連の攻撃は効かないがあの同僚の攻撃、または打撃系統の攻撃なら通じるというもの。


「ガハハっ!あの野郎俺の攻撃にビビりやがった!」

「そうだ、あいつはお前の攻撃にビビった、そこに活路はあるはずなんだ」

「メル、何か策でもあるのか?」

「はい」

ボスにそう聞かれ僕は迷わず答える。


「あいつはお前の攻撃にビビってた、これは仮説だけどお前の攻撃はあいつに何らかの害を及ぼすと思うんだ、だからもう一度お前に攻撃させるための隙を全力で作る」

「⋯⋯俺が、俺だけがあいつに⋯⋯」

同僚、(名前は確かモブサ)は自分の胸に手を当てて目を閉じている、精神統一でもしているのだろうか。


「ふっ、穴だらけだが、やってみる価値はありそうだな」

「うっ、うっす」

ボスのでかくて暖かい手に撫でられる。


「⋯⋯時間が無いな、あいつらがにじり寄って来てやがる、ジンさん、あんたにはあいつらの足止めを願いたい」

「了解した」

「他の奴らはモブサの道を開けるために暴れろ、死なないように気をつけろよ」

「「押忍!」」

リートンのその言葉に他のものは奮い立ったように大きく声をあげた。


「よし、じゃあお前ら準備はいいか?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ、一回心の準備をさせてくれ」

「うるせぇモブサ、行くぞおめぇら!」

「「おぉ!」」

モブサの必死の懇願をまるで無視してリートンは駆け出した。それに続いて同僚の奴らも走り出す。


最後方に僕とモブサは位置していた。



「魔術・系統・草・減衰の森」

ジンが手のひらを地面に当てると見る見るうちに怪物たちの足元に木が生え始める。その木はまとわりつくように怪物の体を覆いそして固めた。


「ギギっ、ギギ」


(さっきので分かった、あの怪物共は直接的な攻撃でなければ魔術でも足止めすることくらいはできる)


「よし!行けるぞお前ら!」

「「おぉ!」」

リートンを筆頭に木によって動けない怪物共に向かって走る、走る、走る。


「ギギっ、ギギっ、ギギヤァ!」

すると怪物はビビったように歯をカチカチしながら膨張させた体で木を破壊した。


そしてまた、消える。


怪物は前と同じように気づけばリートン達の後ろにいた。

「ギギっ!」


怪物は笑った。後ろを取れば簡単に殺せることを知っているから、だから余裕を作ることができるのだ。だがこの時怪物は気づいていなかった、自分のさらに後方に自分を超えた怪物がいることを⋯⋯





「って、来るだろうと思ったよ、お前は、行けモブサ」

それら全てを読んでいたメルは隣にいたモブサにそう言った。

「おらぁ!!」

「ギギギヤァ!」


完全に虚をつかれた怪物はなんの抵抗も出来ずにただ無防備に殴られた。


怪物の体に拳が当たった瞬間に怪物の体は光の粒子となって霧散した。


「「え⋯⋯⋯⋯⋯⋯うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」」


前を向いていたリートンたちは後ろで音がしたため振り返るとそこでは丁度モブサが怪物を殴り殺していた。


こんなもの喜ばないわけがなく、全員が全員、手をあげて喜んだ。


「まだ、まだ終わってない!」

「「っ!」」

そんな奴らを恫喝するのはメル、リートン達の大声のさらに上をいく大声でリートン達を黙らせる。


「まだ、敵はいる」

メルが指さした先にはこの小さい怪物を生み出した親玉が残っているし、小さい怪物ですらまだ数十匹いる中の一匹しか倒せていない、そう何も終わっていないのだ。


「そうだな、そうだったよ、まだ終わってない、お前ら!気合い入れてけよ!」

「「押忍!」」

リートンたちは気合い十分に再び戦いを再開させた。



ここはグレイスを眺めるでかい怪物の頭上、そこではクサナギが白く美しい髪を掻きむしりながらため息をついていた。

「あぁくそ⋯⋯そういう事か、クソ魔術師」

「魔法使いと呼べガキ」

そんな怪物の頭上ではクサナギの他にフードを被った顔が見えない人間?がいた。


「あぁん?なめやがって、クソが」

いつも以上に不機嫌なクサナギはいつもは見せている余裕を保ち続けることが出来ないでいた。


その不機嫌な理由はやはり目の前の顔の見えない人間にあるのだろう。


「はっどうだ、してやられた気分は」

「あぁ最悪だよ、まさかマーリン、てめぇがジルを逃がしてたとはな」

「このままお前の好き勝手に物語を作られちゃ面白くないんでね」

「気色悪い自慰野郎が、ぶち殺してやるよ」

「やってみろよ、クソガキ」

「殺す!」


ここでも戦いの火花が切って落とされようとしていた。

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