第37話 始まり

金髪の見た目幼女、ジャンヌ・ダルクが昼下がりの頃リートン達が働いている勤務場所に赴いていた。

「ねぇ、リートンジルはどこに行ったの?」

「あいつならもうアルカディアに向けて旅立ったぞ」

「は?」

「あいつはクサナギを倒すためにここを去ったんだ」

「なにそれ·····」

ジャンヌの綺麗な金髪の前髪がはらっと崩れ落ちる。


「私、それ知らないんだけど·····」

「あー、それはだな·····」

リートンはジルに言われた言葉を思い出す。


『ジャンヌには俺が行くまで言わないでくれ、あいつに言うと少し面倒臭いからな』

そうジルは少し厄介なものを思い出したかのような顔で言った。


「あー、忘れてたんじゃないか?」

なるべくジャンヌを傷つけないように言ったつもりだったが、十分なダメージだった。

「かはっ!そんな、馬鹿な!」

ジャンヌが膝から崩れ落ちた。


「むぅ、こうしちゃおれん!今すぐ追いかけよう!」

「あ!ジャンヌちゃーん、僕怪我しちゃってさぁー、治して〜」

「知るか!唾でもつけとけ!」

そう言い残してジャンヌはその場を超速スピードで去っていった。


「なんか最近ジャンヌちゃんが気分でしか怪我を治してくれなくなったんだよな〜なんでだろ」

先程フラれた男が半べそになりながら呟く。

「いや今までの俺らが強欲すぎたんだ、たった1ノルトぽっちで全て直して貰うなんざ都合が良いにも程がある、それに俺らはジャンヌちゃんに治して貰わなくちゃいけないほど弱くないだろ?」

「お前たまにいいこと言うよな」

「ふっ、それはどうも」

「おい、カルトにソルト、サボってねぇで仕事に戻れ、ジルが抜けたからいつもの倍は働けよ」

「「ういーす」」

リートンにそう言われた二人はたまにだべりながらも手を動かし続けた。不格好だが確かに積み上げきたレンガに誇りを持ちながら家は作られていく。


「ボス、さっきのジル達がアルカディアに向かったという話は本当ですかか?」

すると見計らったように赤髪の少年メルがリートンに問いかけた。

「あぁ本当だとも、そういえばお前昨日いなかったな!どこ行ってたんだよ!」

「す、すいません!ちょっと用事があって!」

リートンの叱責に体を震わせるほどビビったメルはきちんと体を90度にして平謝りをした。


「用事だァ?」

「その、昨日は本当に休まないと行けなかったんです、あいつのためにも·····」

そう言ったメルの顔は少し悲しそうに見えた。

「そういえばお前、去年もこの時期休んでたよな」

「はい、理由は言えませんがとても大事な用事だったのです」

「··········はぁ、仕方ねぇ許してやるよ、話を戻すかジルはもう馬車に乗ってアルカディアに出発しちまったよ、もしお前も追いかけたいのなら今行けば間に合うかもな」

「·····いえ行きません、僕にはその資格がないから」

声のトーンを下げ、意図せず漏れ出したかのように思えるほどか細い声で言ったメルのその言葉の真意は今のリートンには理解できなかった。


「?、何言ってんだお前、まぁよく分からんが行かないならさっさと手を動かせよ」

「はい、分かりました」

そう言われたメルは大人しくレンガ積みを再開し始めた。


そしてしばらく仕事をしているとリートンの元に金髪オールバックにゴツイ鎧を身にまとったのがたいがいい大男が訪れた。


「急に失礼します、あなたがこの街のボスで間違いないでしょうか?」

「あ、あぁそうだが、あんたは誰だ?」

スキンヘッドの頭を撫でながら答える。

「私は冒険者協会所属”金色の狼”団長ジン・エンパイアと申します」


冒険者、それは魔獣討伐や危ない場所での採掘などを主の生業としている集団であり、貴族の目の敵でもある、理由としては簡単で冒険者と貴族とでは魔獣討伐という観点に関して目的が一致してしまっているためである。そしてこの男ジンが団長を務める金色の狼は冒険者の中にある数多の団体の一つである。


「冒険者?なんで冒険者なんかがこんな所に·····」

「それは·····」

ジンは深刻そうな顔をしてから口を開く。


「この街にある巨大魔獣が迫ってきているためです」

「ある巨大魔獣だぁ?」

「はい、現時点ではそれ以外の情報は無く·····」

「リートンさん!俺らの街の前にすげぇでけぇ怪獣みたいなやつがいたんだ!」

すると大男の言葉を遮るように門番をしていた男が慌てた様子でリートンの前に現れた。


「リートン!前にでかい化け物がいた、でかい、本当にでかい化け物がいたんだ」

今度はさっき飛び出したジャンヌが戻ってきて息を切らし汗を垂らしながら言った。


「なん、だと」

そこでリートンは目の前にいる男の言っていることが本当の事だと理解した。


「信じてくれたでしょうか、謎の巨大生物が今もこの街に進行中なのです、今は誠に勝手ながら街の外に私の団員達を配置しています、もしあの化け物がこちらへ攻撃を仕掛けてきたら私の部下が守ってくれるはずです」

「あなた達はなぜそこまで·····」

「依頼だからです、ある人からの」

「ある人、それは一体·····」

「それは言えません、極秘情報なので」

「·····分かりました、ではこちらに来てください、っ!」

リートンが手で職場の休憩所である掘っ建て小屋に案内しようとした時彼は気づく。


家の上から飛び出した異形の頭を、その姿を·····遥かかなたにいるはずなのに目の前にいるのかのように感じる圧迫感にさしものリートンも言葉が詰まる。


「でかっ·····え」


リートンが言葉を発するよりも早く、異形の頭(?)の上から何か球体のようなものが飛び出した。


それはまるで流星群のように分裂し街に落ちようとしていた。リートンは緑色に光るその流星群の美しさに一瞬目を奪われるがすぐに意識を取り戻す。


「「合成魔術・系統・水・風・雷・永遠なる咆哮!」」

すると街の外から水色に染まった電気のようなものが降り注ぐ流星群に向かってかけ登り、そして喰らった。


「「なんだとっ!」」

街の外にいた冒険者集団が思わず声を荒らげた。信じられなかったのだ、自らの合成魔術がその流星群になんの意味も成さなかったということが。


「なんじゃありゃァ!」「おいこっち来るぞ!」「なぁやべぇんじゃないか、あれは·····」

職場のものたちは各々の反応を示した。生唾を飲み込む者、恐れおののいて後ずさりする者など様々であった。共通していたのはその流星群に恐怖を抱いているということだけであった。


「まさか、そんな·····くっ!」

ジンも信じられず口を開ける。しかしすぐさま意識を切り替えこの場の者だけは守ろうとする。

「魔術・系統・草・森の家!」

「うおすげ!緑の家だ」「かっけぇ!」


ジンがそう叫び建てられた擬似的森の家は耐久性はピカイチであり、ここら周辺にいる人間は丸ごと覆える程の面積もある。だが

(あいつらの合成魔術ですら壊せなかった球体共だ、俺一人の防御魔術などでどうにかできるとは思えんがな)


そして流星群は彼らの合成魔術をもろともせず一直線にグレイスに向かって降り始める。そのスピードは凄まじく、数秒するとそれはジンの森の家に着弾した。


だがスピードに反して威力はそれほどでもなく、家に当たっても弾力性のある物のせいかふよんふよんとしながら森の家をツルツルと滑り落ちていった。


「ふぅ、なんだよ、全然威力ねぇじゃん」「ビックリして損したぜ」

働いていた者たちは肩の力を抜いてその場にへたり込む。

(そんなはずがない、合成魔術が効かなかった物体だぞ、何も無いわけが·····)


ジンはその異常さに警戒して、森の家を張り続けた。そしてその判断が功を奏した。


「ん?なんかあの物体動いてないか?」

一人の男が地面に散らばった物体に違和感を覚える。その物体は動いていたのだ、うねうねしながらミミズのように立ち上がり何かしらの存在に成ろうとしているのはすぐに分かった。


「なんだあれは·····」

そしてそれは次第に形を作っていく、最終的に蝶のような羽を持ち、ありのような触覚を生やし、カンガルーのような強靭な足で地面に立っている異形の生物が出来上がってしまった。


「おい!ほかの球体のやつも変形していくぞ!」

見ると確かに周りに散乱していた謎の球体は全て同じような生物へと変形していた。


「これは、一体何が起こっている!」

ジンの冷や汗が頬を伝った。



「悪、それは何よりも尊い至高のエネルギーだ、悪の心が強ければ強いほどは強くなる、さぁこの採れたてホヤホヤ純度100パーセントの極上の悪意に対してどう対応する?ジル」

そう言ってクサナギは巨大な化け物の上で笑った。


「とか言っているのだろうなあのバカ《クサナギ》は、だがな、ジルはもう私がアルカディアに逃がしたぜ、これ以上お前の好き勝手に物語を作らせない、それは私にとって面白くないからなぁクサナギ!」

黒いフードを被った顔なしの人間、マーリンは怒ったような荒らげた声をグレイスの地下から轟かせた。

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