第29話 計画実行

「計画だと?」

「そう、だ、計画、だ、それ、を、今、から、説明、しよ、う」

「その前にいいか、お前は誰だ?それになぜ俺は魔術が使えない」

「さっき、言っただ、ろう、私、の、名前、はリンナ、魔術が、使えないのは、クルティカの、心臓に、埋め込まれている、魔術を、阻害する、理屈は、知らん」

「魔術を阻害する機械なんてものができていたのか、わかった、度し難いがそいうことにしておこう、だがな最初の質問において俺はそんなことは聞いていない、俺が聞きたいのはお前がどこの誰で、なぜそんな姿をしているのかということだ」

「⋯⋯そうか、お前は、クルティカ、をあまり、知らず、にここに、捕まったのか、ならば、説明、しよう、あの男の、残虐性、を」

「あぁ、なるべく手早くな」

のそのそとした口調ながらリンナと呼ぶこの異形の生物は話し始めた。俺は逸る気持ちを抑えながらまずは目の前のこの生物が信用に値するかを確かめることにした。魔術が使えない今、一人でも多く仲間が欲しいからな。



「⋯⋯そして、私は、この、姿、に、なつた」

「そんな、過去が」

リンナの過去を要約すると、普通の村娘として家の中でひっそりと暮らしていたリンナは突然X、つまりクルティカに誘拐され、慰みものとして弄ばれた。その後、リンナに飽きたクルティカはこの街の学者(おそらくケルシュタインだろう)に頼み込み体が変形する薬を作ってもらった。その薬は人を化け物にするもので、リンナは顔は人間、体はナマケモノの獣人のような姿になってしまったという。だからこんなにのそのそとした喋り方になった。そしてそんな姿になったリンナをクルティカは笑い罵った。だが悪いことだけじゃなかったらしい、獣の姿になったことでどういう理屈かは分からないが無詠唱で魔術のようで魔術でない不思議な力が使えるようになったというのだ。しかもこれはやつの機械に邪魔されないという。


そうは言っても当然許される行為じゃない、人をなんだと思っているんだ、そう言いたかった。だが言えなかった、俺にもそういう風に人を扱ったことがあるから、その言葉だけは言ってはダメだと思った。さっきまであったリンナへの敵対意識が嘘のように消えていく。


「俺はお前に、何か特別な言葉をかけてやる自信はない、だけどその、なんだ俺はお前を信用すると約束するよ」

どうしてもこの話が嘘であるとは思えなかった。だから俺はリンナを信用する。たとえそれで裏切られたとしても悔いはない。


「あり、がとう、感謝、する」

「じゃあその計画を教えてくれ」

「あぁ、時間、が、ない、から、な、これ、をみて、くれ」

リンナが差し出したのは自らの人差し指、しばらくその人差し指を見ていると、ほんの少しだけだが爪が伸びた。


「これ、を、使う」

リンナはその爪をはぎ取り俺に見せつけてきた。

「……」

さっそくで悪いが俺は後悔している、こいつはもしかして馬鹿なのではないだろうかと。


「……それをどう使うんだ?」

「掘る」

「……………」

持っている爪で鉄の床を掘るふりをしているのを見て、俺は開いた口がふさがらなかった。


「ここ、みて」

「……………」

ほぼあきらめた状態でリンナに指さされた場所を見る。そして驚愕で目を見開いてしまった。


「これは」

「私、が、長い、時間、を、かけて、つくった、穴、だ」

そこには確かな穴があった、あたりを見るとそばには俺が入ってきた扉があり、この穴は扉を開くと死角にある位置にある、これならばクルティカにもばれずらいだろう、そしてもっとも驚愕すべきはリンナの忍耐力だ、この数メートルほどの穴をあの数センチほどの爪だけを使って、これを作るのに一体どれほどの時間を………。


「おど、ろいたか、すごい、だろう、がん、ばった、んだぞ」

この死臭あふれる部屋で、同じ女の子が殺されていく中で、リンナはずっと一人で……。


「どう、して、泣いて、いる?」

「え?」

気づけば俺は涙を流していた、それが不思議でならなかった。俺はリンナに同情したのだろうか、この俺が?


「いやこれはなんでもない、ただ目にゴミが入っただけだ、それよりもお前は俺が来なかったらどうするつもりだったんだ?」

「そうか、情緒不安定、な奴だな、まぁいい、お前が、くる、こと、は、わかって、いた、ここで、拷問、されて、いた、カイナ、という、少女から、聞いた」

「カイナ!?やはりカイナはここにいたのか!?」

リンナの毛むくじゃらの肩をつかみ聞く。


「お、おい、そう、いそ、ぐな」

リンナはいやそうに俺の手を取り払った。

「す、すまない、つい興奮して」

「なら一から説明するぞ、あの子、は、ここで、拷問、されていた、あの子は、なかなか、強情、だった、からね、あいつ、も痛めつけたく、なったんだ、ろう、けど、あの子、は、おれなかった、どれだけ、痛めつけ、られても、あの子は、お前、が、助けに、くること、を信じ、ていたのだ、おかげ、でまだ、一度も、手は、つけられ、ていない、だから、私は、カイナのことを、信じて、お前、を、待っていた、もし、捕まるとしたら、この部屋、だから、な」

「そいうことか、教えてくれてありがとうリンナ、あいつを殺す理由が増えた」

リンナをこんな姿にしてカイナにひどい目を遭わせたあいつは俺が許さない。


「ところで一つ聞きたいのだが穴を掘るにはその爪でなければならないのか、そこらへんに転がっている拷問器具とかを使うのはだめなのか?」

「だめ、ここの、地面は、拷問器具、より硬い、だから、地面より、硬い、私の爪、じゃないと、掘れない」

「なるほどそういう事かならその爪を俺に渡してくれ、俺が掘った方が早いだろう」

「あぁ、そうだな、頼む」

リンナから渡された爪を握り穴に潜り始める。潜ってみてわかったことだが穴はすでにかなり掘られていておそらく廊下の下ほどまで続いているように思えた。


「!」

早速掘ってみると、案外簡単に穴を壊すことができた。この爪の硬度は折り紙付きのようだ。これなら五時間ほど続けてやれば開通できるだろうな。待っていろクルティカ、俺が絶対に殺してやる。

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