第28話 異形の生物
三人目 名前 クルティカ
「いやぁ、あのジャンヌさんに会えるなんてほんと、こんな嬉しいことはありませんよ」
彼は物腰が柔らかく、今までのメガネに比べてましなように見えた。仕事は商人をしていて、中々稼いでいるらしい。
メガネは丸型で知性を感じられる。だが何故か違和感を感じた。その正体はよく分からない、言いようもない気持ち悪さが俺にまとわりついているように思えた。
「聞きたいのですが、あなたは昨日、一昨日と何をしていましたか?」
「昨日も一昨日も俺は家でのんびりしていましたね」
「それを証明する証拠などはありますか?」
「あるわけないじゃないですか、のんびりしていただけですよ」
クルティカは軽くダルクの肩を叩いた。
「では、あなたがXの可能性が高いということになるんですが」
「えー!そんなぁ、のんびりしていた証拠なんてあるわけないじゃないですか」
俺もそう思う。なぜダルクは証拠も抑えていないのにここまで問い詰めるのだろう。それが不思議だった。
「んー、じゃあそうですね、この家のことを隅々まで調べていいですよ、それで俺の疑いが晴れるなら安いもんです」
「分かった、そうさせてもらおう」
ダルクが立ち上がったのでそれにならい俺も立ってダルクの後をつける。
「お前もついてくるのか」
「そりゃそうですよ、道に迷っちゃったら困るでしょう?」
「それもそうか」
クルティカの家は広い。王城程の大きさはないが何も考えず歩いていると道に迷ってしまうのではないかと思うほどには道がいりくんでいる。
「ここはトイレか」
ダルクが捜索を始めた。最初に探すのがトイレかという疑問は心の中に置いておいて、俺は隣の部屋を捜索し始める。
「ここはなんだ?」
トイレの隣の部屋は随分と薄暗い場所だった。冷たく、怖い空気を肌で感じる。窓すらない鉄製のこの部屋は逃げ場がないように思えた。扉から入る廊下の光だけを頼りに部屋の中を捜索し始める。
「これは」
鞭だった。手に持ったこの鞭は持ち手がボロボロになっており使い込まれているということが分かった。
辺りを見渡しても何やら拷問器具のようなものばかり落ちていた。そして鼻につくイカ臭い匂いが歩く度に強まってくる。
「なんなんだここは⋯⋯」
あのクルティカという男、怪しくなってきたぞ、さらに部屋の奥に歩を進める。時折転がっている鞭やら猿轡などを蹴り飛ばしながら暗闇へと体を入れる。
ドンッと頭が人にぶつかってしまったようだ。
「すまない、下を見て、いた⋯⋯は?」
見上げた先にあったのは信じられないような光景だった。首に縄をくくらせられた女性が裸体のまま絶命していた。
生気を失った瞳が俺を睨んでいるような気さえした。
「な、なんなんだここは⋯⋯」
そのあまりにも悲惨な光景に後退りをするために1歩下がるとコツンと俺のかかとに何かが当たった。
「っ!」
そこには四肢を切り裂かれたまたもや裸体の女性がいた。
「!、ダルクが危ない!」
そう思い立ち振りかえる。
「気づくのがちょっと遅かったね」
「ジル!」
「ダルク!」
振り返った先には俺がいまさっき入ってきた扉を閉めるクルティカの姿があった。ダルクはクルティカに首を締められていて抵抗できそうに無かった。
「じゃあな、その場所で朽ち果てるといい」
「ジルー!!!!」
クルティカのにやけ顔とダルクの叫び声を最後に俺の視界は完全に闇に閉ざされた。そして外の声も完全に遮断された。
「くっそ!なめやがって!こんな鉄扉魔術で何とかなる、魔術・系統・雷・雷光っ!」
だが何も起きなかった。
「⋯⋯あ?」
確かに魔術を発動させたはずだ、英称も完璧魔力も充分にある、なら何が起きた?
「もう一度、魔術・系統・雷・雷光⋯⋯なっ」
もう一度魔術を発動させても事象は起きなかった。意味が分からない。どんな理屈で魔術が発動出来ないんだ。
「くっそ!もう一度っ!魔術・っ!」
「無駄、だよ⋯⋯」
「誰だ!」
後ろからドスの効いた声が聞こえた。瞬時に振り返り、臨戦態勢をとる。
「私は、リンナ、元、人間、さ」
「元人間?何を言って⋯⋯」
「待って、な、今、姿、を、見せ、る」
ドスの効いた声の主がそう言った後、俺の数メートル先にか弱い炎が灯った。この部屋の中で唯一の光だった。
俺は自然とその光の方へ足を伸ばしていた。そして見た、異形の存在を
「お前、は」
「これ、が、私、の姿、醜い、だろう?」
か弱い炎を手で持った存在の手は長い爪を持っていて、腕から体全体まで全てにおいて厚い毛皮に覆われていた。それはまるで獣のような、いや違う顔は人間だ、顔以外が獣なのだ。異形の生物、そう例えるしか、目の前の存在を説明出来なかった。
「私、の、計画に、協、力して、欲しい」
「計画?」
途切れ途切れの言葉の言葉を飲み込み理解する。
「あぁ、あの、男、クルティカを、殺す、計画、だ」
目の前の存在はそう言い放った。これがリンナとの初めての出会いだった。
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