第27話 3人のメガネ 1

「朗報だぞ!いや捉え方によっては悲報かもしれんが⋯⋯」

俺が天井を見たり、傷の確認をしていると扉を足蹴りにして勢いよくダルクが入ってきた。


「どうした、そんなに急いで」

「分かったんだ!君が言うカイナという少女は誰かに誘拐されたってことが!」

「なん、だと」

カイナが誘拐された?あのカイナが、いや無理だ。だってあいつはあんなに強くて⋯⋯。


「信じられないという顔だが本当のことだ、君の家の周辺に住んでいた一人の男に聞いたところによると君の家に一人の男が入り込んだらしい、そして大きな麻袋を担いで君の住む馬小屋から出てきたと」

「⋯⋯それがカイナである証拠は?」

「ないな、だが可能性は高い、そうだろう?」

「っ」

言い返せなかった。その通りだと思ってしまったから、せめてどこかで泊まってて欲しかったんだ、また何食わぬ顔で戻って来て欲しかった。だが、今は現実を受け入れるしかないだろう。


「心配だろうが今は⋯⋯」

「あぁ今はそのさらった男を探し出そう」

ダルクの言葉を遮って言った。ダルクは驚いたように目を見開く。


「今は俯いている暇などないだろう?」

「!、あぁそうだな、早速だがそのさらった犯人に最も近い人間を三人選んだ、今日その三人に会いにいく。君もついてきてくれないだろうか?」

「それは構わないが、怪我はもう大丈夫なのだろうか」

「相手はあのXかもしれない、強い人が隣にいると安心できるだろう」

「なるほどそういう事か、なかなかずる賢いことを考えるじゃないか」

「ふっふっふっ、私は頭が良いからね」

そう言って無い胸を張る。


「そうだな、じゃあ早速行くか」

「おう、道案内は任せてくれ」

「あぁあと一つ聞きたいことがあるんだが、どうやって三人に搾ったんだ?このグレイスには相当数の人間がいると思うが⋯⋯」

「それは簡単だよ、この街でメガネなんて高級品をつけている金持ちなんて私が知る限りその三人しかいないのさ」

「なるほど納得した」

「それなら良かった、じゃあ行こうか」

「あぁ」



一人目 名前 ケルシュタイン

「僕は昨日、一昨日とずっと家で研究に没頭していました」

縁が厚いメガネをかけた男はどうやら研究職に着いているようだった。今はこの街に感じ取られた謎の引力の正体をつかもうとしているらしい。


昨日も一昨日も研究室で地盤の研究をしていたらしい、証拠としてその時のデータを見せられた。

「ふむ、この人は違うだろうね」

「そうだな、アリバイもあるしな」

「じゃっ二人目に行こうか」

「あぁ」


二人目 名前アルクナルカルタ


「俺様は昨日、奴隷の女共を犯しまくっていたぜ、そして一昨日は隣の国ガルに行って買い物をしていたな」


二人目のメガネ男はアルクナルカルタというクソ長い名前を持っていて、宝石を服の至る所に身につけ、添えるばかりの小さいメガネをつけたただのデブで臭い金持ちだった。こいつがグレイスにいる理由は詐欺で貯めたお金をグレイスの貧しい人間達に見せびらかして罵るためらしい。本当にゲスな人間だ。


「その証拠などはありますか?」

ダルクが何も億さず尋ねる。この男はこの街グレイスでも多大な権力を握っていたはずだが⋯⋯、聖女ゆえの余裕というやつか。

「ふむそうだな、ガルで買ったのはこれだ」

「あがっ」

アルクナルカルタが座っているソファの後ろから首を鎖で繋がれたいたいけな少女を引っ張ってきた。


「それは奴隷ですか?」

ダルクが怒っている、絶対零度の瞳でアルクナルカルタ、略してデブを見る。

「あぁそうだ、なんだダルクちゃん、不満そうだな?」

「いえ、私はただ証拠を提示してもらえればすぐにでもここを出ますよ」

「ふむ、おい、俺様は一昨日お前を買った、そうだな?」

「がっ」

少女に向かって威圧的にそう聞いた。


「は、はい」

「ほらな?」

少女の返答にダルクは苦虫を噛み潰したような顔をし、反対にデブは気味の悪いドヤ顔をした。


「そのようですね、では失礼しました」

「おい、ちょっと待て」

ダルクが出ていこうとすると、その手を掴まれた。こいつ手を出てきやがった、警戒レベルを限界まで引き上げ魔術を唱える準備をする。


「ダルクちゃーん、ちょっとだけ俺様のコレクションを見てくれよぉ」

「嫌です、離してください」

ダルクがゴミを見るような目でデブを見る。


「おい離せよデブ」

「あぁん?」

「ジル⋯⋯」

ダルクを掴んでいる醜い腕を握りしめる。


「おい衛兵!この狼藉者を⋯⋯っだぁ!」

デブが言葉を発しきる前に俺はデブ頬骨を砕くほど力を込めてぶん殴った。


デブは二三回転してから壁にぶち当たりようやく落ち着いた。

「き、きさまぁ!この俺様に何をしたのかわかっているのか!!」

「ジル⋯⋯」

ダルクは目を丸くして俺を見る。


「あぁ分かっているぞ、ただ目の前にいた不快な豚をぶん殴っただけだ」

「き、貴様ァ!」

「どうしたんですか主様!」

「衛兵!この男をこの男を殺せぇ!」

俺の後ろのドアを蹴って現れた衛兵はすぐに俺を捉えると手に持った槍を握りしめそのまま突進してきた。


「うぉぉぉぉ!」

「魔術・系統・雷・雷電風」

四本の雷がその向かってきた衛兵に突き刺さる。瞬間、衛兵は気を失いその場に倒れた。


「なぁデブ、あまり図に乗らない方がいいぞ、お前を守る衛兵とやらは俺みたいなただの少年にさえ勝てないんだ、この街の奴らがお前に反旗を翻した時お前は生きていると思うか?」

「くっ、き、きさまぁ!許さん、許さんぞぉぉぉ!」

「地獄に落ちろ」

俺とダルクは同時に中指を突き立ててからその場を去った。


「あの、さっきはありがと、助かったよ」

デブの家を出たあとすぐに柄にもなくダルクがお礼を言ってきた。目線は決して合わそうとしなかったが⋯⋯


「気にするな、俺もあのデブにイライラしていたからな」

素っ気なくそう言うとダルクはパァと顔を明るくさせ笑顔を見せた。

「だよね!やっぱクソイラついたよね!だから君が殴った時スカッとしたよ、私もあれくらい強くなれるといいなぁー」

「しゅっ」「しゅっ」とその場でシャドーボクシングするダルクを少し微笑ましく思い、次の人物に会うために歩を進めた。




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