第26話 親愛なるジル様へ⋯⋯(グロ注意)
探した、探し回った。寝る間も惜しんでずっとずっとずっと探した。けどいなかった。カイナはこの街のどこにもいなかった。
「·····どごにいっだんだ、ガイナっ」
地面に寝そべり、曇天の空を仰ぐ。
「ダメだもうづがれがっ」
一日中探し回ったせいかもうヘトヘトだった。そして次いで強い眠気が襲ってきた。俺はその眠気に抗おうとしたが、抵抗虚しく安らかに目を閉じた。
「全くこんなところで寝ると風邪を引くぞ馬鹿者」
だれ、だ·····
・
「おはよう、目が覚めたか?体は大丈夫そうか?」
「え、あ、ここは·····」
「私の家さ、君があんな道路で倒れてるんだもん、心配して拾ってきたんだ」
「そうか、俺は倒れて·····」
たしか昨日は殺人鬼に襲われてそれで·····
「そうだ!カイナっ!カイナが!」
「おっ、おっ·····勢いがすごいな」
ダルクの肩を強く掴み懇願する。時間が無い、それにカイナが今どんな状況に陥っているかも分からない。それが何よりも辛い、苦しい。心配で心配でたまらない。
「まぁとりあえず落ち着けお前は怪我人だ、私の能力で大半は治したがまだ全開では無いはずだ、だから早く座れ」
ダルクにそう言われ、喉が治っていることに気づく。それに殴られた頬ももう痛くない。
「すまない、迷惑をかけた」
「·····いや、人を助けるのが聖女の役目だからね、これくらいなんともないさ」
なんともないようにダルクははにかんで笑った。その笑顔は少し無理しているようにも見えた。
「なぁダルク、一つお願いをしたい、俺にとって何よりも大事な人がいなくなってしまったんだ、殺人鬼捜索は後にしてその大事な人を探すのを手伝って欲しい」
「うんいいよ、私は聖女だからね」
ダルクは二つ返事でそう言った、だがその瞳はその声色は酷く冷たく、寒気がするものだった。
「あ、ありがとう!」
だが今はダルクに頼るしかない。ダルクの顔の広さを利用しなければどこに消えたかも分からないカイナを見つけ出すなんて不可能だ。
「う〜んもしかしたらXの仕業かもしれないね」
「X、確か謎の誘拐犯だったか」
「そう、女だけを狙う謎の人物」
X、それはこの街では有名な人物だ。だが有名なのに顔を知っている者は誰もいない。これは俺の中の危険人物として噂として聞いた時から調べあげていた。女だけを連れ去る人物、その目的はただの性目的か他の何かなのか、それはまだ分かっていない。
「いやそれはないと思う」
「?、なぜそう思うんだ?」
ダルクはきょとんとした顔で聞く。
「カイナだから」
「随分と信頼しているんだな、分かったそれを考慮して調査を進めよう」
「あぁそうしよう」
俺がおもむろにその場から立ち上がると、ダルクが俺の両肩を押し付け立ち上がるのを拒んできた。
「お、おい何を」
見上げるとダルクがバカを見るような蔑んだ目で
「でも君は怪我人なんだからまだここで休んでること、情報収集は私に任せて」
そう告げてダルクは背を向けて出口へと向かう。
「おいちょっと待て!俺も·····」
「だから言ってるでしょ!怪我人なんだから無理しちゃダメなの!まだ傷も感知したわけじゃないんだよ!」
「わ、分かった無理をしないと約束しよう」
ダルクの剣幕に押され、大人しくすることにした。
そしてダルクは急ぎ早に家の扉を閉めた。怒らせてしまったのだろうか。
だが良かった、これで何とか希望は見えた。カイナは一体どこに行ったんだ?いやもしかしたらXに連れ去られた?だがそれは有り得るのか?カイナは実力者だ、実力だけで言えば俺より上だろう、そんなカイナがこの街の人間に後れを取るとは思えない。
「だとすれば一体なぜカイナは消えたのだろうか?」
ダルクの家の無機質な天井を見てそう思いを馳せた。
・
「ヒャハハハハハハハハッ!」
黒くて暗くて酷く冷たい、そんな拷問部屋のような空間の中で一人の男が笑っていた。
「いやぁ、こんな上物が手に入るなんて思わなかった」
笑みを浮かべる男の視線の先にいるのは、椅子の上に座らされ縄で縛られているカイナだった。
「んんんっ!んんんん!」
カイナは猿ぐつわをはめられ声を出せていない。何とか縄を解こうと必死に足や体をうねらす。
「いいなぁ、綺麗だなぁ」
「んんんんんん!」
男はいやらしく、カイナの胸と胸の間を人差し指で撫でる。それが心底嫌なのか頭を強く振って抵抗する。
「まだ抵抗できる余裕があるのか、うーんそうだな〜」
すると男は着ている白衣を翻し、部屋の奥の闇へと姿を消した。
そしてしばらくすると、もう一度男が現れた、男は丸渕メガネを太陽の光で照らしており、不気味な雰囲気を醸し出していた。
「ほらこいつを見てみろ」
「⋯⋯」
メガネの男が連れ出したそれを見てカイナは瞳孔を丸めて絶句する。
「これはな、俺の性奴隷さ」
それは呻き声をあげており、首輪をつけられていた。その首輪のリードを男が持っている、それは裸だった。性部分も隠すことなく顕にしており、四つん這いになっている。それは両腕と両足を手錠で拘束されており、自由に動かすことが出来ないでいる。
「昔は綺麗な女だったんだよ⋯⋯こんなになっちまってるけどなぁ!」
「いたっ」
男がそれの体に鞭を叩きつける。それは悲鳴をあげた。見ればそれの体はあらゆる所に傷がついている。何回も何回も、何回もこのように叩かれてきたのだろう。傷はもう風化して黒くなっている一体何年間、それはこの痛みを受けてきたのだろうか⋯⋯可哀想に。
「最初はこいつもお前みたい抵抗していたんだ、この俺様に刃向かっていたんだ、だけど何回も何回も毎日この鞭で叩いてたらよう、土下座して言うんだ”なんでもしますからもう叩かないでください”ってなぁ!」
「いたっ!」
男はもう一度叩く、それは叫ぶ。
「だからよぉ、それからは毎日犯してやった!犯して犯して犯して、こいつの精神がぶっ壊れるほど俺の性器で汚してやったよ!気持ちよかったなぁ」
男は気味の悪い笑みを浮かべ頬を染める。
「だけどもう要らないんだ」
「えっ!ちょっ」
男はトーンを下げてそう言った。するとおもむろに腰のポッケから短い包丁を取り出す。それはその包丁を見てどよめく、それもそうだろう、生きていれば、生きてさえいれば何とかなったかもしれない、どれだけ汚されたとしても明るい未来が待っていたかもしれない。だが死ねばそんなものは無くなる、それは汚されたまま死ぬことになる。
「だってお前もう飽きたんだもん、なら最後は苦悶の表情で死んでくれ、俺のためにも」
眉ひとつ動かさずそう告げた。
「お願いします、まだ殺さないで!何でもする、好きなように私の体を使ってもいいですから!だからどうか命だけは!」
それは男に擦り寄り、自らの乳房を余すことなく擦りつける。
「あーそれそれ、その表情だよ、その顔をもっとみせてくれよ!」
「あっ!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
男は擦り寄ってきた女の左目を持っていた包丁で切りつけた。左目は出血し、熱く、鋭い痛みがそれの左目に走り、それは悲鳴をあげる。だが両腕は縛られている、左目の出血を抑えることも出来ない。
「ヒャハハハハハハハハッ!いい声だ!いい顔だ!もっと泣け!もっと叫べ!」
「あぐっ!あぁぁぁぁぁ!やめっ!あいやぁぁぁぁぁぁっ!」
次に男は刺した左目にもう一度包丁を突き立て、その中をこねくり回した。
「んんんんっ!んんんっ!」
カイナはやめろと言わんばかりに体全体を動かす、すると椅子は倒れ、顎を地面にぶつける。だが視線だけはそれから目を離さなかった。
「お、なんだなんだ?そんなに痛々しいか?」
「あがっ!あぁぁぁぁっ!やめでっっ!いだぁぁぁ!」
「ほれほれほれほれほれ」
左目を捏ねくり回し続ける。それは痛みから首を振る。だがそれのせいで余計痛みを増している。男は止めない、包丁を刺すのをやめない。
「かはっ、あっ、あっ」
ようやく、左目体を包丁を抜いた男はそれの横腹を蹴飛ばす。
それが転がった先はカイナの目の前だった。それとカイナは目を合わせる。カイナは左目から出血し続けるそれを見て哀れみの目を向ける。
だがそれは痛みで苦悶した表情を見せはしなかった。それの右目には確かな覚悟が宿っていた。そしてそれは口を開いた。
「よく聞いて、あいつの心臓には魔力を阻害する装置がついているだからっ」
「何余計なこと言ってくれちゃってんだよ、この奴隷風情が」
それが最後まで言葉を発する前に男はそれの喉に包丁を突き立てていた。そしてそれは、いや最後まで生き抜こうとした気高く、強い女性ドレアは息の根をとめた。
「あーあ、もっと痛めつけてやろうと思ってたのに」
「んんんんんんんんっ!」
「お、なんだいその目は、俺にそんな目を向けるなぁ!」
「かはっ」
男はカイナの髪を乱雑に掴んでからみぞおちに拳を入れた。魔力が無ければ普通の少女であるカイナにとってその拳はとてつもなく重かった。猿轡を超えて嘔吐物が飛び出した。
「俺はなぁ!」
「んんん!」
頬を殴る。鈍い音がする。
「俺に反抗する人間が一番嫌いなんだ!」
「んんんんん!」
次に首を締め上げる。
「無力で何もできないお前らみたいな人間がこの俺に歯向かうな!」
「んんん!」
気道を押えられ、圧迫されたカイナの顔はだんだん赤く染っていく。
「けっ!気分が悪い、今日はこれで終わりにしといてやるよ」
「かはっ、はぁはぁはぁ」
男は締め付けていた腕を解き、唾をカイナの頬に吐きかけてからその場を去っていった。カイナは気道を取り戻し荒く呼吸を再開する。
「はぁ、はぁ」
(ジル様⋯⋯)
カイナは少しでも痛みが和らぐようにと己の愛しき人を思い浮かべる。こうなってしまったのはほんの少しの油断からだった。
カイナとジルが住んでいる馬小屋に現れたメガネの男はカイナに問答無用で襲いかかった。当然カイナは魔術で応対しようとする。だが出来なかった。魔術が発動しなかったのだ。そして気づけばカイナはこの場所にいた。
(痛い、痛い、苦しい、逃げたい)
あまりにも多すぎた苦痛の連続にカイナの心は崩壊寸前だった。そして何よりも苦しかったのは目の前であの男に利用された人間が殺されたことだった。
自分もいずれああなるのではないかと思うとどうしても絶望してしまうのだ。
(冷たい、喉が乾いた)
そして頬や腹の痛みが引いた後は自分の健康状態に気を配ることができた。
(何もない、あるのはさっき亡くなってしまった名も知らぬ女の人の死体だけ、後は冷たい石で囲われている、まるで苦痛を与えるためだけに作られたような部屋だ)
冷静さを取り戻したカイナは部屋の周りを観察した。
(一体私はこれからどうなってしまうのだろうか、あいつの慰みものになって死んでいってしまうのだろうか⋯⋯いや、そんなことはしない、私はジル様だけのものなのだから)
(だからどうか私を助けに来てください⋯⋯ジル様)
カイナは切にそう願った。
「おい」
「え」
その時ドスの効いた声が聞こえてきた。
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