腐った街の聖女

第21話 腐った街の聖女

これは腐った街に住む、ある一人の聖女のお話




ここはジルが働いている仕事場の少し離れた場所にある広場、時は深夜、そんな時間帯に二人の男達が談笑をしていた。

「なぁ聞いたか?」

「ん?なにを」

「ある殺人鬼についてだよ」

「なんだよそれ」

「ひっひ、どうやら知らねぇようだな、よし俺が教えてやろう」


男が言うにその殺人鬼は夜に現れるらしい、そしてこのグレイスの中でも指折りの悪人がその殺人鬼に日夜殺されていく。その姿を誰も見たことがなく、とんでもない怪力の女とも華奢な男とも言われている。今日も殺人鬼は人を殺すだろう。


「っていう噂」

「なんだそれ、くだらね」

「なぁ、姿が分からないならよ、俺たちでその殺人鬼の姿を暴いてやろうぜ」

「はぁ?つったって、どうやって呼び寄せんだよ」

「女を襲う」

「·····はぁ、まぁいいぜ俺も最近溜まってたしな」

「あー、あの女にしよう」

男二人が見つけたのは一人怯えながら歩いている女性、まだ若く体つきもいい。


「りょーかいっ」

二人は唇の周りを舌で舐めまわし、動き出した。その時だった、男の首が飛んだのは

「え」

首を切られなかった男は隣で首から血を吹き出しながら倒れていく男を見て呆然とし、後ろを振り返る。

「お前は悪か?」

「は?へ?」

そこにいた人間は鬼の仮面をつけていた。華奢な体つきに大きな黒色のマントをはおり、鋭利な包丁を手に持っていた。

「お前は悪か?」

「は、お前が殺人·····ぎっ」

男が言葉を言い切る前に首が飛んだ。鮮血が宙にまい、暗闇を着飾った。

「悪は殺さなければ·····」

仮面の人間は今日も孤独に悪をきる。



「カイナ、カイナーどこにいる」

「はいどうされましたか?」

馬小屋の中でカイナを探していると外から水浴びを終えたカイナが入ってきた。髪はびしょ濡れになっており、着ている服の布が薄いからか、素肌が見えてしまっている。まぁこれは日常のうちの一つだ、もう慣れた。

「最近、殺人鬼が出没しているらしい、気をつけて情報収集をしてくれ」

「それだけですか?」

「ん?あ、あぁ、それだけだが·····」

するとカイナはポカンとして目を丸くする。

「どうした?」

「あ、いえその、ジル様が私のことを心配してくれたのが嬉しくって」

はにかむように頬を染めて笑った。たまたま、本当にたまたまだが少し心臓が高なった。

「·····ふん、言いたかったことはそれだけだ、じゃあな行ってくる」

「はい行ってらっしゃいませ」

その場から逃げ出すように、そそくさと足を進めた。



「おー、この街の英雄様がやってきたぞ!」

この声はリートンだな、全くあのネズミを倒してからというものリートンは俺の事を英雄と呼ぶ、困ったもんだ。

「うっせぇ!帰れ!帰れ!」

「モテ男はこの現場にいらねぇんだよ!」

「あー早くジル死なねぇかな」

だが他の男たちは俺が助けてやったのにも関わらず、こんなことをのたまう瑣末だ。

「おい貴様ら俺への感謝はどうした?」

眉間に皺を寄せて威嚇する。

「あぁん?お前自分が女どもに街でなんて呼ばれてるか知ってるか?」

「なんだ?」

「英雄だとよ!俺のお気に入りだったキルルちゃんもお前のことがかっこいいってよ!あぁ!クソッタレだ!こんな人生!」

キンタが泣き崩れ、その場で地団駄をふむ。

「キンタぁ!いつか絶対にこいつを殺そうな!」

「あぁ!絶対だ!」

「誓うぞ俺は!」

「「うぉぉぉぉぉっ!」」と現場の男たちは一斉に声を上げた。

たくっこいつらは本当に変わらないな。それが少し嬉しかった。


「なぁリートン一つ言いたいことがあるんだ」

さっきまで騒いでいた奴らがリートンの一喝によって散ってから俺はリートンに前々から話しかったことを話すために近づく。

「ん?なんだ?」

「俺は近々この街を出ようと思う」

「マジか、それはどうしてだ?」

「クサナギを探す旅に出ようと思う、金も少ないが溜まってきたことだしな、それに負けっぱなしは気に食わないからな」

リートンは少し悲しそうに息を漏らしてから口を開いた。

「そうか、お前の決定なら仕方ねぇな、元気でやれよ、俺は応援してるぜ」

するとリートンはそのいかつくも優しい手で俺の頭を優しく撫でた。リートンの肌の感触が俺の頭を這い回る。

「ありがとう、リートン」

そして俺も仕事を始めようかと足を動き出した瞬間

「あ、リートン、良かったいたいた」

女の声が聞こえた。これはカイナのものじゃない、まさかリートンの!

「おぉ、ジャンヌか」

「··········」

振り返った先にいたのは幼女だった。髪の毛一本一本が太陽の光を反射するほど綺麗な金髪で、服は俺たちの常時服である麻袋ではなく、きちんとした布製の袖まであるものを着ていた。凛として輝くその蒼色の瞳は吸い込まれそうなほど美しかった。もしこの幼女がグルーカス国にいれば国一番の美女と呼ばれるであろうと思うくらいには、端正な顔つきをしていた。まだ体が小さい女の子の状態でそう思うんだ、成人すれば一体どれほどの·····

と思っているとパチンっとリートンの頭がその幼女にひっぱたかれた。スキンヘッドのせいかやけに音が気持ちよかった。まぁあの歳だったら奥さんなわけが無いか·····。

「違うよリートン、私の名前はダルク、今度間違えたら容赦しないから!」

気の強そうなその幼女の名前はダルクと言うそうだ。何やらまた厄介事の匂いがしてきたな。





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