第18話

「魔術・系統・雷・神雷」

手から放たれた太い雷の線は一直線に伸びていく。雷は向かっていく人々の間をすり抜けネズミへと進む。


「弾けろ」

「きしゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」

ネズミへと雷が当たった瞬間、その場に地響きと大きな雷鳴が鳴り響いた。ネズミは雷の衝撃によって皮膚が燃えている。

「な、なんだ、何がおきた!?今の誰かの魔術か!?」

「なんだよ!今の!あんなの貴族じゃなきゃ⋯⋯」

神雷を見た周りの男達が雷の出処、つまり俺の方を見る。男たちはざわつき、隣にいるやつと顔を見合わせたり、驚愕で空いた口が塞がらない奴もいた。


「俺はつくづく思うんだ、なんで人は価値を見つけたがるんだろうってな」

俺が喋りながら皮膚が燃え苦しんでいるネズミの元へ歩く。俺が歩き始めると男たちは手を止め俺を避けるように道を作る。


「お前ら、自分に価値がないって思ってんのか?自分の名前に道具以外の意味なんてないと本当に思っているのか?」

「ゲルトス、お前⋯⋯」

一緒に働いていた男の一人ネルが俺を目を丸くして見つめる。

そして歩き続け、爛れる皮膚に悶え苦しんでいるネズミの前に立った所で

「そんなことはないっ!」

怒号を飛ばした。

「「⋯⋯っ」」

一瞬で周りは静まり返った。


「お前らには価値がある!それは確かに裕福に暮らしている奴らには気づかれないような儚いものなのかもしれない、だけどそれがなんだ、お前らの価値はお前らが決めていいものなんだ」

「それが出来たらっ⋯⋯どれだけ⋯⋯」

人だかりの中にいる男の誰かが声をあげる。

「だけど、もし自分でその価値を見つけることができないのだとしたら、俺が示してやる」

そして俺ははるか後方にあるまだレンガを積み立て途中の家を指さす。

「⋯⋯家?」

男の一人がそうこぼす。


「お前らが作ってきた家だ、俺は最近来たばかりだから分からないが、おそらくこの街にある家や建物はほとんどお前らが作ってきたものなのだろう、なら誇りを持て、自信をもて、たとえその建物が不格好でも、その建物を作るのに本気になって取り組んでいないとしても、少し後ろを振り返ればそれは残っている、人は自分の価値に気づけていないだけなんだ、自分が歩んだ足跡に価値は残っているというのに⋯⋯だから命を無駄にするな」

「ゲルトス」「⋯⋯あぁ俺はずっと何を⋯⋯」

泣き崩れるもの、俺の方をただ呆然と見つめるもの、色んなやつがいたが、もうネズミに対する戦意は無いように思えた。


⋯⋯覚悟はできた。リートン達に言いたいことも言えた。大丈夫、後悔はない。言おう


「すぅー」と大きく息を吸い込み肺に貯める。

「俺の名前はグルーカス家元次男、ジル・グルーカス!俺の名において言おう!お前らはすごい奴らだ!と」

「「は、はァァァァァァァァァァァァァァァァッ!?」」

静かだった雰囲気は一気に壊され、男たちは再びざわめき出す。


「いや、ジル・グルーカスつったら雷系統の魔術の使い手で」「つい一か月前に追放されてから姿が消えったっていう⋯⋯あの?」「だとしたら辻褄が全て会う、ゲルトスについてたあのカイナっていう子もなんかメイドみたいだったし」「まさか本当に⋯⋯」

「あぁ、本当だ、俺は追放されてここに流れ着いた」

一瞬の静寂が流れる。少し怖いな、これは⋯⋯


「すっげぇ!マジモンの貴族かよ!」「あのゲルトスが!?いやジルか!」「やっぱ貴族は魔術の威力がちげーんだな」

男たちの反応は俺が想像していたものとは違っていた。俺は貴族だったからもっと嫌われるかと思っていたのに⋯⋯


「お前ら⋯⋯」

笑みがこぼれる。

「なぁお前ら少し聞いて欲しい、俺はこのネズミを倒したい、俺の全霊をかけて、だから少し離れていてくれ」

「あぁもちろんだ」

俺の言葉を聞いた男たちはすぐに散開し、ギリギリ俺とネズミが見えるくらいの後方についた。


「見ていろ、お前ら!俺の戦いを!そして貴族としての誇りを!」

「「おぉぉおぉぉぉぉ!」」

ふっ、歓声がこんなにも嬉しく感じたことは無いな。


「待たせたなネズミ野郎、もう火には慣れたか?」

「きし、きしぃきしゃゃゃゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

ネズミが燃えた灰色の毛を奮い立たせると火は次第に消えていき、焼けただれていた皮膚も完全に回復していた。


「はっまじかよ」

神雷を使っちまったから俺の魔力はそう多くは残ってない。それが全回復されちまった。

「まぁ勝つのは俺だけどな」

「きしきしきしきしゃぁ!」

「なっ」

ネズミが消えた。さっきまでそこにいたのに、ネズミが元いた場所は砂埃だけが舞っている。

「一体どこにっぐっ」


死角である背後からの攻撃か!背中に走った衝撃によって街の道を削りながら5m程吹き飛ばされる。


「クッソ、魔術・系統⋯⋯がはっ!」

すぐに背中だけを起こして片手で魔術を発動しようとした瞬間ネズミの手によって頭を捕まれ、詠唱を言い切る前に地面に叩きつけられる。


「ぐっ」

グリグリと地面に頭を擦り付けられる。砂利が俺の頬に突き刺さり、鋭い痛みが走る。

「きしぃ、きしきし!」

このネズミ野郎勝ち誇りやがって、その歪んだ笑みを今にもぶち壊してやりたい気分だが、がむしゃらに魔術を打つだけじゃ勝てないな、なら


「これでもくらえ!」

「きしゃ!?」

砂利を手のサイズ程掴み、それを俺の背中上に乗っているネズミめがけて投げる。

決してビビるような物じゃない。こんなもの当たってもこのネズミには大したダメージにはならない。

だが動物は目に向かっている異物に対して酷く恐怖感を覚える。それも不意のものだとしたらその効果は絶大だ。

一瞬揺らいだ隙にネズミの手をどけ、腹を蹴り飛ばす。つもりだったが、ネズミの腹は想像以上に硬く、俺の足の方が痛かった。


「くっそ、なら、魔術・系統・炎・延焼」

俺の手から伸びた炎はネズミの体に火をつける。

「きし、きしい!」

ネズミが体に燃え広がる炎に四苦八苦しているうちに距離をとる。

「畳み掛けるぞ、魔術・系統・雷・雷電風」

四本の雷がネズミの四肢を貫く。


「魔術・系統・雷・雷光」

そしてトドメと言わんばかりに野太い雷がネズミの体を覆い隠した。


「くっ、ハァハァハァ、ハァハァッ!」

やはり雷系統は燃費が悪い。たった三つの魔術を使っただけでこれほどまで消耗するとはな。

「きし、きしゃぁぁぁぁ」

ネズミはまたもや体を奮い立たせ、俺の炎を弾き飛ばし、そして貫いた四肢も完全に回復していた。


「ハァハァ!このバケモンが」

こいつを倒すにはもっと火力が欲しい、神雷よりもっと強い、切り札が必要だ。

だが、俺の残りの魔力はもうほとんどない。


「はァ!絶望的だな」

「きし、きしゃあ!」

「クッソ!」

ネズミが巨大な前歯をむき出しにして襲いかかってくる、それを横に飛び何とか回避するが避ける時に左足をネズミに噛まれていたようで、肉がえぐられていた。


「痛てぇ」

「きしきしきし」

足から流れる血を抑えて、顔を歪めている俺を見てネズミは見下すように笑った。

「ふんお前はすぐに調子に乗るな」

強い口調で言ってはいるものの、俺に勝ち目なんてなかった。

やばいな、本気で⋯⋯













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