第16話 予言の魔術師マーリン
「逃げてメル!」
「けどノアが!」
「私は大丈夫だから、ね?」
「ダメだ!ノアも一緒に逃げないとダメだ!」
「もうわがまま言って、安心して私も必ず戻ってみせるからどうかあなたも無事でいて」
「ノア!ノアァァァァァァ」
そして僕はノアの魔術によっていつの間にかここ、グレイスまで飛ばされていた。
僕は弱い。あの時ノアを守れなかった。だからアルカディアは⋯⋯。
「ん、朝か」
朝は嫌いだ。まだ僕は生きているって実感してしまうから、別に死にたいわけじゃない。
ただ、なんで僕は生きているのだろうと思ってしまうのだ。
「僕はどうやって生きればいい⋯⋯教えてくれノア」
地面に寝転がり天を仰ぐ。ジリジリと照らす太陽が少し痛かった。
・
「リートン昨日は帰れなくてすまなかった、少し手こずってしまってな、そして報告だが⋯⋯リドはもう死んでいた」
「⋯⋯そうか」
今日の仕事が始まる前に俺は昨日戻れなかったことの謝罪と昨日あった報告をリートンに行った。
リートンはスキンヘッドの自分の頭を撫でてから顔に手を当ててため息をついた。
「まさか、地下の悪魔の正体がクサナギとは⋯⋯この街も終わりか」
「まぁよくやった、疲れたろう今日は休んで来てもいいぞ」
「だが⋯⋯」
「いいから休め、あいつらは俺が面倒を見る」
「⋯⋯あぁ助かるよ」
リートンの粋な計らいにより今日は休みになった。
「あぁん?頭!ゲルトスだけはズルくないっすか!?」
「ズルくねぇわ!てめぇは働け!」
「いてっ!」
ガコンっという鈍い音を背中で聞きながら俺は職場を後にした。
「さて、何をするか⋯⋯」
やはり修行か
「あんちゃん、ちょっとこっち来な」
「ん?」
腐敗した家が立ち並ぶ道を歩いていると横から声が聞こえた。周りを見渡しても俺しかいなかったため声の方向を見るとそこには穴だらけで埃まみれのフードを被った人間が石段に座っていた。先程の声色からして女だったため、警戒せずに近づいた。
「お前がジルか?」
「!、どうして俺の名を⋯⋯」
偽名ではない方を知っているということはこいつも俺を狙った⋯⋯
「あー、別にお前の首に興味はない」
「!」
こいつ心を!
「その通り私はお前の心を読んでいる」
フードを被った人間はその深く被ったフードを取った。
「⋯⋯お前その顔」
「あぁこれか、まぁ実験の成れの果てだな」
フードを取った人間の顔はどん底の闇だった。クソ、情報が多すぎて頭が状況に追いつかない。
「まぁ気にするな、さて、単刀直入に言う、英雄になれジル」
「は?」
何を言ってるんだ、こいつは。
「だがまぁ、今のままじゃあダメだ、だから私が英雄にしてやろう!」
「おいちょっと待て、まずお前は誰だ、それになぜ俺の本当の名前を知っているんだ」
「ふむいいだろう私の名前はマーリン、君の名前を知っている理由は⋯⋯まぁ未来を見たからさ」
マーリン、確かこの街一番の占い師だったか。
「そんなマーリン殿がなんの用だ?」
「ふむ、さっきのじゃ理解できないか、なら私が最初から懇切丁寧に説明してやろう」
マーリンがパチンと指を弾くと俺の後ろに木製の椅子が現れた。マーリンが「そこ座れ」と言うため、警戒しながらもマーリンの前に椅子を置いてマーリンと対面する形で座る。
「結論から言うと世界は数年後滅亡する」
「な、んだと」
「それも五大魔獣のうちの一体、最古の魔獣ガルガネスの手によってな」
「ガルガネスだと!だがあいつは太古の昔に⋯⋯!」
「あぁ英雄によって殺された、だがあの執念深い魔獣は復活を試みている」
「はっ、まるで物語みたいだな」
「そうだ、今私達がいる現状は物語の中なのさ、だが主人公はお前じゃない、ヴィルという少年さ」
「!、ヴィル⋯⋯」
あいつは未来で英雄になるのか、俺を置いて⋯⋯。
「だが安心しろ、まだ確定した訳じゃない」
「⋯⋯⋯⋯」
「にぃ、私はな未来でヴィルの姿を見たよ、とんだ腑抜けだった。力におぼれ他者を救うという偽善で己を満たし美女にも囲まれている、なぁジルムカつくとは思わないか?お前は今そんな泥だらけなのにあいつは未来で、いや、既に全てを手に入れているかもしれない、私はなぁそんなつまらない物語を見るつもりは無い、だから敗者ジルよ、お前が主人公になれ、そのための協力ならば惜しむつもりは無い、金でも力でも欲しいものをなんでも与えてやろう」
マーリンはこれでもかという量の金を服から取り出し俺に見せつけてきた。
「なるほど、そういう事か⋯⋯」
「どうだ?いい提案だろう?」
「興味などない」
舐めやがって
「これは俺の物語だ、お前なんかの手は借りない、俺だけの手でクサナギもヴィルもほかの五大魔獣も全員倒してやる、俺はもう逃げない、あんな情けないことはもうしたくない」
「⋯⋯必死だな」
「話は終わりか?ならば俺は行く」
「後悔しても知らないぞ」
「そんなものはしない」
俺はマーリンから視線を外して再び歩き始めた。⋯⋯にしてもすごい金だった。いや、別に欲しいわけじゃないが、すごい量だった。
「ん?」
上から何か⋯⋯
そう思った矢先、俺の頬を何かが猛スピードで掠めた。まるで見えなかった。それほどまでの速度だった。生唾を飲み込みながら後ろを見ると
「!」
「⋯⋯ゲミルミス」
一緒に働いていた男の名前だ。ひょうきん者でいつもうるさいがあいつらの中だったら一番周りを見ることができていた。そんな気配り上手な男。そんな男の生首が俺の視線の先にあった。
「は?」
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