第12話 メル


色々あって更新が遅れました!すみません!






「だいぶここでの生活にも慣れてきましたね」

「そうだな、襲ってくるやつも減ってきたしな」

この街グレイスに来てはや一週間、最初はカイナの美貌に惚れた奴らが襲いかかってきていたが、毎回カイナに返り討ちに会うため、その数も減っていった。


業務内容は至ってシンプルでレンガにモルタル(接着剤のようなもの)を塗り、それを積み重ねていくだけの仕事だ。問題は周りの環境にある、同じ仕事をしている人間はレンガを投げつけあって遊ぶわ、モルタルを地面に塗って困らせるわでイライラが溜まる一方だった。


「んー、ではそろそろ修行を再開させましょうか」

カイナは俺の紅茶を飲みきったコップを手に取り、トレイの上に乗せてそう口を開いた。

「あぁ確かに、最近は全くしていなかったな」

「はい、というわけで始めたいと思います」

「今日は朝から仕事だ、手短に頼む」

「了解しました!」

カイナはびしっ!とメリハリのある敬礼をする。


「ジル様はを知っていますか?」

「当たり前だ、魔力を身にまとい身体能力を上げる高等技術だろう?俺はまだできんがきっといつかできるようになってやる」

「はいその通りです、武装を使える人間は中々存在しません」

するとカイナはおもむろに立ち上がり、そばにあった丸太を俺の目の前に置き、拳を振り上げた。


「せい!」

そしてその振り下ろした拳は丸太を粉々に粉砕した。

「!、お前武装が使えるのか」

「はい!ジル様のために死ぬほと努力しましたから!」

努力って、武装が使える人間なんぞごく一部の天才達だけだぞ。それを努力だけで⋯⋯?


「お前、努力って一体どんな」

「まぁ簡単に言えば心臓を捧げるくらい、ですかね?」

「⋯⋯⋯⋯、まぁとんでもない努力だって言うのは分かった」

とりあえずこいつについて理解するのはやめておこう。

「では、コツを教えますね!武装のやり方を簡単に言えば極限の集中です」

「極限の集中?」

聞きなれない言葉に困惑する。そんな俺を見かねたカイナは俺の前に顔を置く。


「私の目を見てください」

「ん、目?」

言われてじっとカイナの青色の瞳を見つめる。

「何も変なものは無いが」

「瞬きをしてませんよね?」

「確かに、言われてみれば⋯⋯」

カイナの目は微動だにしていなかった。


「まぁつまり、瞬きも忘れるほど集中をするということですよ」

「簡単に言うな⋯⋯」

「いえ、簡単なことではありませんよ、ただ私はジル様ならば出来ると思っているだけです」

「はぁ、お前は俺への期待が重いな」

だがカイナからのものだからか、悪い気はしない。頑張ろう、期待してくれる人間がいるのだから。

「でも一つ気をつけてください」

「!、お前血がっ」

カイナの鼻から一滴の血が糸を引くように垂れていた。

「武装は集中力を使います、そのためめちゃくちゃ疲れるのです」

「そうなのか、気をつけよう」

「はい、そうしてください!」

カイナは鼻から垂れた血をぬぐって満面の笑みを見せた。



「じゃあ行ってくる」

「はい、いってらしゃいませ」

椅子から立ち上がり、藁の壁を超えて馬たちの横を通って馬小屋を後にした。



「よっしゃ!お前ら今日もよく働けよ!」

「ういーす」

リートンにそう言われみなが手を動かす⋯⋯訳もなく、だらだらとレンガ積み重ねていく。それに続くようにコツコツとしかし他の奴らとは比べ物にならないくらい早くレンガを積み重ねていく。それにより俺はまだここに来て一週間しか経っていないのにリーダーと言われるようになってしまった。これが今の俺の日常だ、俺の日々だ。

汗だくになって働き、少ない賃金で飯を食う。まぁ最近になってやっと慣れて来たがな。


「おいお前ら、ちゃんと手を動かせ」

「でもよぉリーダーこんな量のレンガを重ねんのは流石にだるいぜー」

そしてちゃんと働かないやつには⋯⋯

「いいのか?カイナからのご褒美が貰えなくなってしまうぞ」

「ひっ!それだけはぁー!」

これだけでここの奴らはやたら一生懸命に働かいてくれる。

まぁ若干引くが、これだけで働いてくれるのなら我慢しよう。


「あー、ゲルトスとメル、お前らちょっとこっちこい」

呼ばれ、リートンの方へと歩みを進める。

「なんだ?リートン」

「何でしょうかボス」

隣に来たのは赤髪で、目がキリッとした俺と背丈が同じくらいの少年だった。

名前はメル、俺を除いて働かない奴らばかりの中唯一、ちゃんと働いている真面目な奴だ。


「あー昨日、ドレが家に帰ったきり消息を絶っちまってよ、今日ドレの家に行ってもいなかったんだ、だからその調査を依頼したい」

ドレというのは俺達と一緒に働いていた同僚だ。

「なぜ俺に?」

「んー、ゲルトスはなんか強そうだし、メルは普通に強いから、だな」

「なら僕一人で十分です、こんな最近来たばかりのどこの馬の骨かも分からない奴と一緒に仕事なんかできません」

「あ?」

なんだこいつ生意気なこと言いやがって、言っとくがお前より俺の方が強いから!


「なんだ?文句でもあんのか?」

メルはメンチを切るように俺を睨みつける。

「ねぇよカス、引っ込んでろ」

「チッ!テメェ!」

「おい、ちょっと待てお前ら!」

メルが振り上げた拳をリートンが止める。


「メル、お前はもう少し人と関わった方がいい、お前いつも一人だろ」

優しく問いただすように、リートンはメルの肩に両手を置く。そうメルはいつも一人だった。一人でレンガを積んで一人で帰る。皆で飲み会をしようとなった時もこいつだけは決して参加しなかった。

人の命令は絶対に聞かない、だがリートンの命令だけには従っていた。

「僕は一人で大丈夫です」

「強がりを言うな、寂しいんだろう?」

「僕は寂しくなんかありません」

「⋯⋯そうか、なら一人で行ってこい、ドレの家は三丁目にある」

少し困ったような表情を示してからリートンはドレの家がある方を指さした。

「!、分かりました!」

するとメルは表情を一変させ嬉々として走っていった。


「リートン、俺はどうすればいい」

「あいつのあとを付けてくれないか?なんか嫌な予感がするんだ」

「了解した」

「くれぐれも気づかれないようにな」

そう忠告を受け、俺はメルのあとを追った。





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