第11話 地下の悪魔
「ここがお前らが働く現場だ」
「ヒャッハー!空気まじー!」「親方!おらぁここにこれて嬉しいよ!だって自由なんだもんなぁ」「あー、いい女いねーかな」
⋯⋯地獄だな。おそらくなにかの建物の建設の途中なんだろうが、レンガしか積まれてない、挙句の果てにはその建設用のレンガで人を殴っている奴までいた。
「おいテメーら!新人だ!仲良くしてやれ!」
リートンが声を荒らげると働いていた?奴らは腕を止めて俺らの方に詰め寄ってくる。
「あぁん?新人だァ?」
モヒカンヘアの男が先んじて俺に突っかかってきた。
「ゲルトスというよろしく頼む」
「はっ!手なんざ組むか!」
差し出した手は弾かれてしまった。こいつ、殺してやろうか?
「あーん?おいおいおい、こっちの女お前のつれか?めちやめちゃいい女じゃねーか」
すると今度は下品に舌を出して、カイナに近づく。
「その汚い舌をしまいなさい、殺しますよ?」
「おお?威勢がいいこった、どっちが上に立つものなのか教えてやるよぉ」
ぬっと無骨で巨大な手をカイナの頭に向けて伸ばす。
「魔術・系統・花・夢見花」
「はれぇ〜」
「キントン!」「おいどうしたんだよぉ!」「と、突然、眠っちまったぞ!?」
カイナがそう口走った瞬間、大柄な男は膝を崩し、大きないびきをかいて眠りについた。それを見た周りの他の仕事をしていた大男達がこぞってキントンとやらの心配をする。これは中々起きないだろうな。
「何をした?」
「ふふっ、私への恐怖を夢の中で植え付けているだけです」
カイナの耳に囁くように聞くと、笑いながらとんでもないことを言い放った。
「はっ」
すると、冷や汗をたっぷり流したキントンが目を覚まし、周りを見渡す。そんなキントンを見かねたカイナが近づき、醜悪な笑みを浮かべた。
「どうでしたか?夢の中は?」
「はっ!カイナしゃまぁ〜、どうかこの奴隷キントンめにもっと厳しいお罰をくださいまし〜」
「えっ!?」
するとカイナの思惑から外れ、キントンはカイナの服の裾をつまみ、さらなる痛みを求めるために懇願している。すごいな、目が完全にイってる。
「良かったな、モテモテじゃないか」
「ちょっ、離しなさい!私の体はジル様だけのものなんですから!」
煽るように口角をあげると、カイナは必死にキントンを引きはがそうした。いやあと俺のものではないがな⋯⋯。
「おいてめぇ!キントンに何しやがった!」「許されることじゃねーぞ!こら!」「女だからって許されることじゃねーぞ!」
狂ったようにカイナにすがりつくキントンを見かねた他の大男達が一斉に飛びかかった。
「ちょっ、今、そんな場合じゃっあぁもう!全員眠りなさい!魔術・系統・花・夢見花!」
瞬間、あたり一帯の男たちは俺とリートンを除いて全員眠りに落ちた。
そしてしばらく経つと⋯⋯。
「カイナしゃまぁ〜」「もう一度、もう一度だけわたくしめを踏んでください!」「あのムチで、あのムチでもう一度!」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
カイナはすがりついてくる無数の男たちをなんの感情もない瞳で両手を振るって追い払っていた。
「なんだなんだ、いきなり愉快な雰囲気になりやがったなぁ」
リートンは心底嬉しそうに投げ飛ばされていく従業員を見る。
「笑っている場合か、一応お前がボスなのだろう、これでいいのか?」
「いいだろ、だっておもしれーじゃねぇか」
リートンがにかっと笑うので、俺ももう一度カイナ達を見る。「カイナしゃまぁ」「踏んでぇーこのブタを踏んで〜」「カイナしゃまぁーこの豚野郎って言って〜」
⋯⋯⋯⋯いや、全然笑えない。けどまぁ、いい子ちゃんしかいない学園では見られない光景だったな。そのせいか不思議と口角が上がった。
「だけど、 気ぃつけろよグルトン、あいつは根はいいヤツらだが、ここは腐っても犯罪者たちの街だ、いつ襲われてもおかしくないからな」
「あぁ肝に命じておくよ」
「あぁ後、この街の地下には行くなよ」
「ん、なぜだ?」
「悪魔が住みついてるって噂なんだ」
「ただの噂では無いのか?」
「あぁ、この街の大預言者マーリンが言ったことだ、かなり信憑性は高いぜ」
「頭の傍らに置いておこう」
「それで十分だ」
そうして、俺のグレイスでの生活が幕をあげたのだった。
・
ピチャンと雫が落ちる。何回この音を聞いただろう、百年だろうか?二百年だろうか?あの神々しき英雄達との戦いからどれくらい経ったのだろうか?
あぁもう一度あの戦いを、あの高揚感を!もうそろそろで傷が回復する。この奥深い地下からやっと抜け出せる。
「楽しみだなぁ」
あの時の私を楽しませた英雄はいないだろうが、新しい英雄が現れているだろうな、楽しみだ。
あいつらは生きてるかな、生きていないかな。まぁどっちでもいいか。人を殺せれば、んな事関係ねぇからなぁ。
さぁて行くとするか。あの神話をもう一度体現するとしよう。
地下の奥底から悪魔が少しずつ、這い上がってきていた。
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