二章 未討伐魔獣クサナギ
第8話 サソリ型魔獣
俺たちは今スラムの街”グレイス”に行くための馬車に乗っている。どうやって身分を隠して乗ったのかと言うと、カイナが馬車を運転するおっさんを脅迫し、無理やり乗せてもらった。そして馬車に揺られている最中、魔術についての復習を行うことになった。
「いいですか?ジル様、魔術には六つの系統があります、風、炎、草、雷、水、そして特殊なそれ以外の系統私の”花”みたいなやつですね」
「あぁ、それぐらいは知っている」
6歳には既に知っていた。
「そして魔術はその系統に準じた力を詠唱と魔力を消費することで行使することができます」
「あぁ、それが魔術の基本概念だな」
「はい、そして既に詠唱が完成されている魔術を基本魔術、自分独自の魔術を固有魔術と言います」
「なるほど理解出来たぞ、これからは強力な固有魔術を作れという事だな」
「違います」
あまりにもあっさり否定されたため顔をしかめてしまう。
「固有魔術はちょっとやそっとで作れるものじゃありません、果てない鍛錬、人としての成長、そして少しづつ何年もかけて編み出していくものになります、さらに付け加えると固有魔術だからってそう易々と強力なものを作れるとは限りません、なんならあんまり使い物にならない魔術になることがほとんどです」
「じゃあどうすればいいんだよ⋯⋯」
ちょっとムスッとした言い方で聞き返す。
「第一の修行は全系統の魔術の使用を可能にしてください、あ、もちろん特殊系統は無理なのでそれ以外の系統を使えるようになってください」
「なぜだ、学校では自分が得意な系統だけを伸ばせと言われてきたのだが⋯⋯」
「それではダメです、それだけを練習してしまうと臨機応変の対応ができなくなってしまいます、例えばジル様の雷系統だと一発の威力は高いですが燃費が悪くすぐにガス欠になってしまいます」
「……まぁそれはそうだが⋯⋯」
否定はできなかった。確かに俺の魔術は威力は高いがすぐにガス欠になってしまう。
「そこで、応用性を上げるためにも他の魔術を覚えるのです、魔術同士の相性などもありますしね」
「⋯⋯わかった、じゃあ何すればいいんだ?」
「あちらに見えますはサソリ型の魔獣”サッソリ、あれを雷以外の魔術で倒してください」
カイナが指差す方を見ると明らかに腹を空かせているであろう魔獣がいた。
「はっ⋯⋯」
と、反論する前に俺は首を掴まれて馬車から放り出されていた。
「では、頑張ってくださいジル様、ヒントは環境です」
あいつ、師匠になった途端結構えげつないことするな⋯⋯。
俺は仕方なく草の上に降り立つ。
「きしゃ、きしゃ!」
「ふん、気持ち悪い鳴き声だな」
見上げるほどでかいサソリのハサミ、俺を獲物としか見ていないような獰猛な瞳、激臭が漂うよだれを垂らす。だが怯えはまるで無かった。
「⋯⋯雷系統を使わずか、ふん楽勝だな」
「きしゃあ!」
振り下ろされたハサミを横に跳び躱す。
「魔術・系統・炎・
「ぎ、ぎじゃあ!」
一直線に伸びた糸状の細い炎がサソリの片目を潰す。
俺は雷系統が得意だが、学校では最初の頃に全ての基本魔術の詠唱が書かれた本を渡される。だから比較的魔術の出し方が似ている炎は簡単な魔術なら使うことが出来る。
「魔術・系統・炎・
すかさずもう片方の目も潰す。よし、これで動きは封じた。
「魔術・系統・炎・焔火」
終わりだな、動きが遅くなったサソリの頭を撃ち抜くことなど造作もない。
「よし、帰るか⋯⋯」
サソリの体が崩れていくのを確認してからそのサソリから目を離す。
それがいけなかった⋯⋯。
「きじゃあっ!」
「なっ!?」
すると横腹に大きな衝撃が襲う。バキバキと骨が折れる音がした。
「なにが⋯⋯っ」
「ふしゅー、ふしゅー」
見るとサソリは先程の数倍のでかさになっていた。
「脱皮か」
サソリ型魔獣特有の突然の脱皮、体は大きくなり、速さも増す。
「きじゃあ!」
「くっそ!」
先程より数倍も速くなった振り下ろしのハサミを避けることが出来ず、腕でガードをする。ぎしぎしと骨が軋む音が鳴る。
「魔術・系統・炎・延焼」
サソリの体を燃え盛る炎が這っていく。だが、こんなものではあの硬くなった甲殻は⋯⋯
「燃やせねーよな」
「きしきしきし」
サソリは何食わぬ顔でピンピンしていた。しかも目も回復して、その目を防護するように甲羅が囲っている、クソ、どうすればいい。
「きじゃあ!」
今度は溶解液らしいものを口から吐き出した。それを真上に飛ぶことで躱す。
「魔術・系統・炎・焔火」
空中から放ったその魔術はサソリの硬い甲殻によって弾かれた。
地面に着いた後、再び前をむくと目の前に溶解液が迫っていた。
「くっ!」
それを足に無理をさせて横に避ける。溶解液が当たった場所を見ると煙を上げて溶け始めていた。当たったら終わりだな⋯⋯。
雷系統の魔術を使えばすぐに終わる。
「だがそれは俺のプライドが許さない」
絶対に雷以外の魔術で倒してやる。
「きじゃあ!」
「またか!」
また吐き出された溶解液を同じように横に飛んで避ける。
「きじゃあ!きじゃあ!きじゃあ!」
「なっ!避けられっ」
今度は右、左、前、後ろ、どこにも逃げ場がないように拡散された溶解液を吐き出してきた。
「これは⋯⋯受けるしかない」
その場で頭を隠すようにうずくまり絶対に頭に溶解液がかからないようにする。
「いたっ!」
背中がやけるように痛い。だが、拡散されていたおかげで致命傷にはならなかったみたいだな。
「魔術・系統・炎・焔火」
焼き直しのように同じ魔術を放つがまるで効いている様子が無かった。
「ならっ、魔術・系統・炎・
「くっ!やはりダメか!」
さすが炎系統の中でも最難関の魔術だけある、この俺だとしても使えないとはな。
しかしまずいな、俺は雷系統以外の魔術はこの二つしか使えない。それが効かないとなると打つ手が無くなってくる。
「何か、無いか、何か⋯⋯」
そしてカイナに言われたヒントとやらを思い出した。”ヒントは環境”、その言葉から周りを見渡す。広がるのは緑豊かな平原だけ⋯⋯
「そうか、そういうことか⋯⋯」
見えたぞ、攻略の糸口が!
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